相撲
名乗りを上げた。
「田中旅夢!」
彼女も事務的に名乗り返す。
「アリアドネ・ストラベラキス」
そして、お互いに裸の腰を、スッと落とし気味にする――
もはや分かったろう。
ああバトルとは?! 広大なフィールドを存分に生かして執り行われるバトルとは――?
両者が一糸まとわぬ姿になって正々堂々打ち噛ましあう、スモウレスリングだった!
なんだ相撲か、と言うなかれ。
相撲は、天下泰平・子孫繁栄・五穀豊穣・大漁等を願い、土中の邪気を払い、地を踏み鎮める――神事なんだから。
これほどこのゲームに相応しい試合はない、と言うものだ。
さぁ僕は、タックルのため走り出そうとて――アリアに“待った”を掛けられる。
え――?
『狭いんだし、どうせ勝てないんだし、慌てない』
そう言い放つと彼女、膝を折って腰を落とす。蹲踞だ。次いで、両方のこぶしを大地に付けた。
仕切りである。
おおお――スモウはスモウでも、“大相撲スタイル”だった!
「――!」
――ああ、ここに! 日本の伝統を守る人がいた!
僕は感動で喜び勇んで、目の前の地面に現れた仕切り線に合わせていそいそと仕切りの型をとり――
その瞬間、僕は罠に落ちたことを覚ったのだった。