バトル
顔を向ける。
「じゃあそろそろ、バトりますか」
そう声をかける。
彼女、何度やってもこればかりは慣れないのか、顔を赤らめる。コクンと頷く。顔が熱いのは僕も同様だった。なぜって……。
「……」
えいっ、行ったれ! 勇気だ。
「展開――」
とたん、僕のオリハが膨張を始め、数秒と掛からず直径4mほどの透明な球体を成形する。僕の体が、球全体が、フワリと浮かんだ――
本来、オリハの標準状態は0.01mmほどの皮膜だ。それが“そこ”まで分厚く膨張することによって、空気よりも軽くなり、ひいては浮力が得られるって理屈なのだ。
中の人は密封状態になるけど呼吸は問題ない。空気は通っているし、なんなら単独で酸素を生成・供給できるから。まさに万能オリハだった。
間を置かず球体の四方八方にバトル用のジェットノズルが成形され、直ちに僕を、後方300m、高度160mほどの空中にまで運んだのだった。
広々とした佐渡の地に、“僕”という巨人が出現した――
腕を曲げてみる。指を曲げてみる。僕の身体の動きが、反応が、そのままトレースされる。ダイレクトコントロールシステムだった。
もちろん、VR世界でのことだよ!
実体は“巨人の目の位置”に追従する球体だけ。それ以外は二人にしか見えていないこと。
全て、オリハが知覚させる、バーチャル・リアリティだった。
下を見る。田んぼが広がっている。住宅が広がっている。地面が遠い。なんとも遙かな空気感!
「恐いな……」
でもここが、“目の高さ”なのだった。
僕が100倍になったのか、逆に世界が100分の1になったのか、とにかくそんな世界だ。
幅730mが、たった7.3m。そんな感覚。バドミントンコートの幅が6.1mだから、それよりも少し広い、そんなカンジ。
――前方を見る。
真正面、感覚5m先の真ん中に――“彼女”が立っていた。
身長160mの巨人。オビを引かれ、身体をクルクル回して全裸になったアリアが、足を肩幅開きにして、両手を頭の後ろで組み、恥ずかしそうに真夏の大地に立ち上がっていたのだった!
全裸――まぁ僕も、そうなってんだけどね。
それにしても、時代劇ふうのオビの巻き取り――
当事者である二人にしか知覚できないオリハによる演出とは言え、間近で見せてもらい、正直、すごく感動的だったのでした!
「江戸時代だね」
と声を掛けたら、
『貴方もね。最後まで残った白ブリーフが、ビリビリ破れるのかと思ったら、ストンって落ちるだなんて! 何の昭和コントかと』
「……」
解説しなくていいってば!
お互いにもう一度、顔を赤らめるのでした!