エンカウント
そしてようやく、僕はスタート地点を走り出せたってわけ。
住宅街を走り、田園地区を通り過ぎ、丘を越え、約一時間。
ゴールの真野湾まであと3キロ程の位置にまで到達し、そこで――
エンカウントを迎えたのだった。
当たり前だけど、僕のゾーンの中。
ルート上の細い道の上でのことだった。
広々とした水田が広がる、一本道の二百メートル位さきに、彼女がいて――
オリハを働かせ、視界を望遠モードにする。
緑の田んぼを背景に、プレイヤーネーム、アリア――
夏なのに、雪のような白い肌。腰まで流れるしっとりとした黒髪。
神秘的な琥珀色した瞳、長い睫。
ととのった鼻すじ――
詩でも歌い出しそうな薄いくちびる。
小ぶりの耳。均整のとれた顔のライン、細い首。
そして、身に付けているアウターは、いかにもな――金色のキモノ、銀のオビ、だったのでした。
彼女も、僕のこと、拡大して見ていたのでしょう、納得したように一つ、頷いて。そして、ビジネス口調の声を、僕のオリハに送ってきたのでした。
『さっさと終わらせましょ』
言葉を続ける。
『今のうち、言っておくわ。さよなら。観光、楽しんでいってね』
付け加える。
『いつものことよ……』
ああ――
顔を覆いたくなる。こうして、誰かさんにとって、絶望的なバトルが始まったのだった。