直線
寿司屋の座席で、裸の僕たちは語り合うのです。
「直線とは、合掌の形なんだ。
右の手のひらと、左の手のひらを重ねたときに中央に現れる形。それが直線なんだ」
「合掌の起源は、遠く古代インドにまで遡るんだって。
最初は、『私は武器を持っていません』という、争い時の降参のポーズだったそうだよ」
「時が下って、古代仏教がそれに更なる意味を与えたんだ。
右手は聖を表し、左手は俗を表す。仏道とは、それを一体に重ね合わせるものなのだ、とかね」
「言い直せば――
まず、自分のため。そして、他人のため。
それを重ね合わせた道が、真っすぐの道なのさ」
「海岸から海岸への旅は、海抜ゼロからスタートし、山の高さを知り、そして海抜ゼロに戻るということ。これ、人生そのものと思えない?」
「めでたく、スタートからゴールまで食み出ることなく走り切れたら――
それは、一巻の巻物、『冒険の書』の完成と言えるんじゃないかな?」
「他人には『つまらない』『ひとりよがり』と貶されるかもしれない。
でも自分にとっては、お金に換算できないアルバム、一つの冒険をやり遂げたという自信の拠り所。そのあとの人生の礎になるかもしれない宝物になるはず」
「だから、一本の旅は、一つの神社へのお参りと等価値のように思えるんだ」
「これからも、祈り続けたいよね!」
裸の美少女は晴れやかに応えるのでした。
「そんなことより、現在の換算レート、いくらだっけ?
たしか、1Ptが2000エンだったような?
40514Pt(リョムのポイント!)……8102万8000遠、ウフフ?
ねぇねぇ~~?」
「キミもそれくらい貯め込んでるんデショ!」
百年前、少子化による国民の減少。それに伴う移民の受け入れ。結果としての多民族国家化――
現在の“政府の方針”は、相も変わらず、産めよ増やせよ、だった。
裸の美少女が、顔を美しく上気させて、秘密に囁いてきます。
「今夜……お泊まりしちゃう? エスとか、エムに興味ない? 貴方、素質あるわよ?」
うん――
いいか悪いか別として、僕は赤らんだ笑顔と共に、応えたのでした。
「お手柔らかに……!」
<了>