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第7話 依頼

    ◇

 私を魔女と呼んだ人物に(うなが)され、私とエレナは、男がアジトと言った部屋に入った。

中は天井がドームのようになっていて、部屋全体が土と煉瓦(れんが)(かた)められていた。

さほど広くはなかったけど、部屋の奥には扉の無い出入口があった。アジトと言うくらいなのだから、出入口は複数あり、部屋も他にも幾つかあるのだろう。


 四人掛けのテーブル席に、私を魔女と呼んだ、黒いアイマスクをつけた背の高い女が座った。

私たちを連れて来た小柄な男は呼吸を(ととの)え、女の後ろに立ったまま(ひか)える。

奥と後ろの出入口付近には、見張りのような武装した男たちが二人ずつ、無言で睨みつけていた。


「悪いんだけど、私たちを連れて来た理由は(あと)で聞くわ。お(なか)()いたから、何か分けてくれない?」

私は黒いマスクの女に言った。どの程度の組織か分からないが、ここでは態度も見た目も上司っぽい。


「二人は大事な客だから、少しマシなものを持って来てあげて。わたしは水でいいわ」

黒いマスクの女が言うと、奥にいた見張りの男が食事を取りに行った。

私とエレナは女の向かいに座った。


 私たちは出された果物と山菜を食べた(あと)、改めて黒いマスクの女を見据え、話を聞く態勢に入った。

「まずはこれを見て」

女はテーブルの上に指名手配書を置いた。私とエレナの似顔絵と特徴が記されていた。

捕まえると賞金は三〇〇ゴールド。仕留めると、一人につき二〇〇ゴールド。有力な情報提供は審査の上、報酬は査定すると書いてあった。


「エレナ。眼鏡と髪型をしばらく変えたほうがいいみたいね。ほんとに上手く描けている似顔絵ね」

女を見ると、笑いもせずに手配書を仕舞った。


「リンナ公国を牛耳(ぎゅうじ)っていたミリア教の司教たちが仲間割れを始めたらしい。間諜(かんちょう)によると、殺人鬼を連れた魔女が教会内で()()(ほうむ)ったのが、そもそもの原因だというわ」

無表情だった黒いマスクの女がニヤリと笑った。


「私たちを甘く見ると分かっているわよね?」

鋭く睨みつけると、女は引きつった表情で答えた。

「ギブ・アンド・テイクでどう?」

「どういう事かしら?」

「国境の町に来たという事は、あなたたちはパルミー公国に入りたいんじゃない? そこにはまだ手配書も回ってないし。我々が入国の支援をする代わりに協力して欲しい事があるの」


 黒いマスクの女に意識を向けると、嘘はないようだ。しかし周りの人間が全て馬鹿正直に動くとは限らない。私たちの首には、そこそこの賞金が掛かっている。一年間は楽に暮らせる金額だ。


「政治に興味は無いわ。それにあなたの力を借りなくても、私たちは好きなように動く」

()めた口調で言うと、女は失望した表情で、黒いマスクを(はず)した。

「公爵直々(じきじき)の頼みでも、受けられませんか?」

女は(すが)るような眼差しを私に向けた。


「クレア、食事の借りを返してあげたら? よく分からないけど公爵って(えら)いんでしょ? この人を上手(うま)く利用すれば、少しは動きやすくなるんじゃない?」

エレナは思っている事を隠しもせずに言った。


「わかったわ。食事の借りは返す。ただし私たちが敵と見なしたら、誰であっても容赦無く殺す。たとえ(おう)でも」

私は見せしめに、出入口に立っている見張りの男に向けて殺気を(はな)った。男は白目をむき、泡を吹いて倒れた。

「目先の賞金か自分の命か。どちらが大切なのか、よく考えて行動する事ね」


 公爵と(おぼ)しき女は、二年ほど前に連れ去られ人質となった妹と弟を、教会から連れ戻して欲しいと言った。

 二人を人質に取ったミリア教団は、ずっと以前からリンナ公国で勢力を広げ、もはや国教に値する規模に(ふく)らんでいた。政治の実権を奪うため、ずっとその機会を(うかが)っていたのかも知れない。


 公爵家周辺にもミリア教信者が徐々に浸透していた。公爵の妹と弟は寝返った衛兵らに易々(やすやす)と連れ去られた。公国の勢力図は決定的に教団側に(かたむ)いていたが、人質を取られた事で、(とど)めを刺されるように公爵家は政治の実権を失い、教団の操り人形となった。


「二年は長いわ。利用価値があるから殺されていないとは思うけれど。生きていても、二人ともあなたの(もと)へ帰りたいと思うかしら?」

私は前のめりに立ち尽くす女を見上げて言った。


「手遅れかも知れない。でも、その時はわたしが決着をつけるわ」

女は再び黒いマスクを着け、奥の部屋へ消えた。(そば)にいた小柄な男は私たちの向かいに座り、話を続けた。

「ご覧の通り、マリー閣下(かっか)は覚悟を決めておられる。俺があんたらに同行して、妹弟(きょうだい)閣下たちを見つけ出すから護衛を頼む。やり方はあんたらに(まか)すが、後々(あとあと)の事もある。出来るだけ犠牲者は出さないでほしい」

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