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第6話 寂れた町

    ◆

 あたしの目は、どんな傷でも()えていくキェルトの魔法を使っても回復しなかった。

 ()ったばかりの怪我や炎症には劇的な効果があるけど、長い間(わずら)っている病気や怪我には表面的な効果しか無いらしい。

 クレアはあたしの逆襲を恐れてそう言っているのかも知れない。でも、あたしはどこに行こうが()()()()。ほとぼりが()めるまで、しばらくクレアを利用して生きていくしかない。


    ◇

 私は大司教アドネルに余計な事をしなければ、すぐに町を出て行くと約束をして、関所(せきしょ)の通行証を手に入れた。

 私とエレナは中央教会の北西に移動して、昼を過ぎた頃にリンナ公国の国境(こっきょう)の町、バルリナに着いた。

「この町から西側の国へ移動するわ。ここで一旦休憩しましょう」


 バルリナは隣国パルミー公国に接する町で、(さび)れた田舎町(いなかまち)。町の大部分が山林で、住民たちは山菜の収穫や狩猟で生活を(いとな)んでいる。

 人が暮らしているのは(ふもと)から平地に掛けて。そこにはちらほらと畑や溜め池も目にしたけど、観光や農業に力を入れているようには見えなかった。活気のある港町ソマリナに比べると、目に見えるもの全てに覇気(はき)が無かった。


「人もあまり見かけないし、ほんとにくたびれた町ね。泊まれる宿はあるのかしら」

私は黒い眼鏡をかけたエレナの手を引き、荒れた田舎道を歩く。足元がデコボコで、エレナは何度か足を引っかけ、(つまづ)きそうになりながら私の(あと)について来た。


「隣の国へ行くためには山を越えないといけないのよね? とにかくお(なか)()いた。何かないの?」

エレナは私の手を引き(とど)めるようにして言った。

「今は生憎(あいにく)水しかないわ。食事を出すような店も見当たらないし。我慢するか、(めぐ)んでもらうか、奪い取るか。どれがいい?」

私が問うと、エレナはがぶりと水を飲んで溜め息をついた。

「どれもいちいち面倒臭(めんどうくさ)いわぁ!」


 ぶつぶつと不満を呟くエレナを連れしばらく歩いていると、民家が立ち並ぶ大通りに辿(たど)り着いた。

道幅は広く、馬車が四台並んで走れるくらいはある。道を挟んで左右に店や住居が立ち並んでいた。

でも、どの店も寂れていてドアや窓は閉まっている。人の往来も無かった。

 左右の建物に目を()らして見ると、閉め切った窓のカーテンの隙間から、私とエレナをじっと監視するような目が幾つもあった。睨み返すと、慌ててカーテンを閉じた。


「よそ者は歓迎されていないみたいね。背に腹は代えられないわ。誰かを適当に眠らせて、食べ物を確保しましょう」

私はエレナに状況を伝え、手をしっかりと握った。


 広い通りの真ん中を歩くと、左右から突き刺さるような視線を感じるので、私はエレナを連れて、右に並ぶ建物沿いに歩いた。

食べ物にありつけそうな家や店は、中々(なかなか)見つからなかった。最悪の場合、山に入って狩りをするか山菜を(あさ)って(むさぼ)るしかない。


「お嬢さんたち、こっちに来な」

建物の隙間から半分顔を覗かせた男が(ささや)いた。

「命令されるのは気に入らないわ」

私が警戒して言うと、声の主は舌打ちして返した。


「あんたらに賞金が掛かってる。悪い事は言わない。通報される前に隠れていた方が身のためだ」

「あなたに売られない保証はないけど」

私は話しながら男の思考に意識を向けた。心を読むと、一先(ひとま)ず敵意は無いようだ。

「私たちを甘く見ると死ぬ事になるわ」

私は男にクギを刺しエレナの手を引いて、細い路地をすり抜け、男の(あと)を追った。


    ◆

 あたしは手を引っ張るクレアについて行くしかなかった。クレアは不思議な力で相手の心を読む事が出来る。どの程度か分からないけど。

男について行ったのは、問題無いと()んだからだろう。

 この町は静か過ぎて気味が悪かった。男の話では、あたしだけで無く、クレアにも賞金が掛かっているらしい。あたしが安心出来る日はやって来るのだろうか。


    ◇

 建物の隙間を何度か曲がって入り組んだ路地を抜けると、半地下(はんちか)(つな)がる短い階段に辿り着く。男は辺りを警戒しながら少し(かが)んで降りて行った。

「頭に気をつけろ。もうすぐアジトだ」

私とエレナは足早に階段を降りて行った。

しばらく壁ばかりの曲がりくねった廊下が続く。明かりが無いので、前を行く男の足音を頼りに暗闇の中を進んだ。


 徐々にぼんやりとした明かりが近づいた。前を行く男の歩みが止まり、廊下の先の入り口に、男の上司と思われる人物が待ち構えていた。


「ようこそ、魔女と殺人鬼さん」

逆光に照らされた人物の表情は分からなかった。

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