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卓也と由美シリーズ

人がいなくなった実感がわかない

作者: リィズ・ブランディシュカ



 彼がいなくなった。


 好きだった人が死んだ。


 天へ召されてしまった。


 そんな時、人はどんな行動に出るのだろう。


 泣いて、わめいて、嘆いて、誰かに慰めてもらおうとするだろうか。


 その相手は、家族?


 それとも友人?


 けれど私は何もしなかったし、誰にも相談しなかった。


 きっと心が、その現実を受け入れる事を拒絶していたのだろう。


 受け入れようものなら、即座に壊れてしまったに違いない。


 だから、それからは、彼がいなくなったままの日常をぼんやりと過ごす事になった。


 私の生活は変わらない。


 そう好きだといっても、相手に思いを告げてもいないし、同棲していたわけでもないから。


 そして、将来を誓い合ったわけでもないのだから、何も変わらないのは当然だった。


 今でも、道端でばったり会えるような気がしてしまう。


 彼が働いている、私のお得意先の会社にでかければ、「また来たんだね由美さん」と言って、顔をのぞかせてくれるような気がしてならない。


 そんなはずはないというのに。


 それから、一か月、二か月がすぎていった。


 それでも実感は得られないまま。


 もしかしたら、衝撃が強すぎて私はとっくに壊れてしまっているのではないか。


 そう思えてきた。


 しかし、その時はやってきた。


 その日、夢を見た。


 しばらくぶりの夢を。


 もう何日も数か月も夢なんて見ていなかったのに。


 その夢には、私が好きだった人が出てきた。


 事故で死んだと思っていたのに、ひょっこり顔をだして「そんなの嘘だよ」なんて笑いかけてくる。


「なんだ良かった」と私は笑っていた。


 そして。


「卓也さん、このあいだね」と名前を呼んで、話をするのだ。


 他愛もない出来事だ。


 日常のような出来事だ。


 もう現実では決して、過ごす事のできない時間だ。


「今度一緒に遊びに行かない?」


 けれど、いつもより積極的に彼をさそって。


 そこで幸せな光景がとぎれた。


 だから夢から覚めた時に、ショックを受けた。


 幸せを感じていた分だけ、突き落とされた衝撃が大きかった。


 自然と私の目から涙が零れ落ちていた。


 もう、彼には会えない。


 話しをする事も。


 顔を見る事もできない。


 明日の約束なんてできるはずがない。


 それを思い知った時、私は初めて彼が死んだのだという現実を正面から目の当たりにした。


 人がいなくなった現実はすぐにはやってこない。


 嘘でしょう、と思うばかりだった。


 どうして、と困惑する事もあった。


 けれど、実感には結びつかなかった。


 頭が理解していても、気持ちが付いていかなかった。


 でも、心を揺さぶられて初めて、気持ちがそこにたどり着いた。


 目的地に向けて、のろのろ歩いていたのが、急に瞬間移動でもしてしまったみたいだった。


 辛かった。


 ただただ辛かった。


 私は大きすぎる気持ちを抱えきれずに、久々に友人に電話した。


 人の声が聞きたくなった。


 思い出話がしたくなった。


 誰かに優しい言葉をかけてほしかった。


 そうして、以前とは違う重くどんよりとしごした日々を過ごしてから、私は次もゆっくりゆっくりと現実を受け入れてくれるのだろう。


 いつか立ち直る日に向けて。



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