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勇者ルークのその後。カインとの対峙。

 最近、冒険がうまくいっていない。これでクエストを失敗したのは5回連続だろうか――


 蓄えはあるが、豪遊はできなくなってきた。リハビリも兼ねて60Fのボスに挑戦したが、数カ月前には余裕で倒せたのにあえなく撤退――。


 反省会も兼ねて、行きつけのバーでイグニスの槍パーティは飲んでいた。


 「チッ、なんでなんだよ。」


 ルークが手で机を殴る。


 今までのイグニスの槍の活躍は大躍進だったと言っても過言ではない。


 まったく実績ゼロの冒険者が2年で活躍が認められ、勇者に認定もされた。ダンジョンも一番攻略を進めていたのに。


 「こんなにミスが続くと勇者の認定が外れちまう。」


 勇者というのは職業ではない。帝国皇帝から任命され、通常の冒険者や帝国騎士では対応できない魔物や素材を集め、遠征などをする代わりに莫大な報酬を毎月もらえる制度だ。


 勇者はクエストをこなせることを前提に任命されているので、こうも失敗が続くと勇者の認定が外れるのも時間の問題だ。


 帝国のお偉方にもう後はないですよ。勇者って甘いものじゃないですからと嫌味も言われるし。


 ルークは頭を抱える。


 (あ~最近イライラするぜ。)


 ルークはいらいらしているのを隠さないし、パーティメンバーも言葉を発しない。最悪の雰囲気だ。


 そんなルークを魔法使いルキナがたしなめる。


 「ルーク、失敗して苛ついているのはみんな一緒よ。」


 虫の居所が悪いルークは思わず叫ぶ。


 「ルキナ、てめえ偉そうに言ってるが、おまえが魔物を足止めできなかったから失敗したんだろ。その前もそうだ。魔法を数回使っただけですぐ魔力が尽きやがって。」


 「なんですって。あんたとアパムが敵に前衛を突破されたのが陣形が崩れたきっかけでしょ。」


 「口答えすんのか。チッこれだから剣も扱えない魔法使いは足手まといなんだよっ。」


 「魔法使いで剣を使うバカなんていないわ。それにあんたは魔法弱いのしか使えないじゃない。」


 ルークとルキナが口論を続ける。取っ組み合いの喧嘩になりそうな勢いだ。


 けんあを止めようと、僧侶ソラが進言する。


 「クエスト失敗し始めたのもカインさんがパーティを抜けてからですよ。」


 ……


 沈黙が流れる。


 「ニコラさんもすぐに抜けちゃいましたし、カインさんにお願いして戻ってきてもらいましょうよ。」


 ニコラがパーティを抜けてから冒険者内でイグニスの槍はやばい。終わったパーティだとうわさになっていた。新しいメンバーのリクルーティングもうまくいっていない。以前は冒険者から尊敬の目で見られていたが、最近は人気も陰りを見せている。


 (たしかに歯車が狂いだしたのはカインがいなくなってからだな。)


 ルークがいやらしい笑いを浮かべ発言する。


 「そういえばソラ、おまえ昔は俺じゃなくてカインのことが好きだったよな。カインにでも抱かれてこいよ。そうすればカインも喜んでもどってくるだろ。また荷物持ち兼雑用として使ってやらなくわないな。」

 

 「………」


 ソラは絶句した。この人は最低だ。


 「なっ何言ってるんですか。そんなことはないです。」


 それにソラはルークのことが別に好きではないが、俺のことどう思う。好きか。と何度も何度も絡まれるから適当に、はいはい好きですよとは返事はしたがその好きという表現は勘違いだ。


 カインがいないことがイグニスの槍の不調の原因なのは疑いないだろう。


 「カインがお願いするなら、イグニスの槍に戻ってこさせてもいいな。」


 ルークはケラケラと笑いながら酒を飲む。


 「まぁいい。俺に考えがあるカインに会ったら伝えてくれ。」



 カインは壊れた盾の代わりを探すべく、鍛冶場に向かっていた。


 今まではアタッカーとしてより、前衛と後衛を満遍なく状況を見て動いていたため小型で使い勝手がいい盾を使っていたが、今の動き方を考えると重くても防御力がある盾がほしい


 「カイン。盾なんて要らないじゃない。避ければいいのよ。避ければ。」


 イブが人間の姿のまま街中では勝手に出てくるようになった。髪が赤で目立って入るが誰も精霊だとは思わないので、まぁ問題はないだろう。


 ただ、露天で食べ物を買い、食べる。


 すぐに食べ物がなくなる。


 また買う。食べる。を繰り返すのは辞めてほしい。


 「イブ。全部の攻撃を避けるなんて普通の人間には無理だよ。それにそれで買い食いは最後ね。」


 「ケチ」―と言いベーと舌を出す。


 大人の容姿の女性がべ―って…さすがに目立つぞイブ。それにギルド職員に貴族みたいに豪遊できるお金はありません。



 「おう! カイン久しぶりだなっ元気にしてたか。」


 「はい。おかげ様で。」


 「かわいい嬢ちゃん連れてるじゃねえか。」


 イブがかわいいという言葉に反応してニンマリと笑ってうんうんかわいいよね私と独り言を言っている。

 

 鍛冶場ではいつもお世話になっているドワーフのノーマさん。ノーマさんは帝国一の鍛冶職人だ。愛想は悪いが、認めた冒険者にはすごく良くしてくれる。


 「これ差し入れです。」

 

 ドワーフといえば酒が大好物だ。しかもとびっきり度数が高いお酒。


 「おまえは本当に気が利くな。ありがたく受け取っとくぜ。それで何の用だ。」


 新しく盾を新調したい旨を伝える。


 既製品では求める性能をクリアするものはないらしい。素材があるなら赤龍の盾が良いのではないかと提案される。


 「たしかにそうですね。わかりました。赤龍の鱗ならありますから、お願いできますか。」


 「おう。最高の盾を作ってやらあ。そうだな土日には取りに来てくれ。お代はその時でいい。」


 イブはノーマさんとの会話に飽きたのだろう。ふらふらと鍛冶場内を歩き回っている。展示してある武器を手に取り目の前で観察しながらこれは匠の技ですなとブツブツ言っている。


 「ほう。嬢ちゃんにもオレっちの仕事の良さが分かるかい。よしっきょうは機嫌がいい。おまけもつけてやる。次に来るの楽しみにしてろっ。」


 良かった。適当に言っている気がするが、ノーマさんは機嫌を良くしたみたいだ。



 ルーク達イグニスの槍一行は帝国の一流ホテルに泊まっていたが、失敗が続き金銭的に厳しくなってきていた。使っていない防具を売りに鍛冶場に向かう。


 「あっ。あれカインさん」


 視界にカインが入りソラが言葉を発した。ちょうど鍛冶場から出るカインが赤髪の女性を連れて歩いているみたいだ。


 あの女みたいな顔に、見覚えある剣。立ち姿。聞こえてくる声まで完璧に見覚えがある。


 (カイン、おまえは冴えないやつだ。盾も持ってねえのか! )


 カインは盾も買えないくらい貧相な生活を送っている。その事実にルークの気を大きくした。


 ニタっとルークの口元が緩む。


 (こんなところで合うとは俺たちはやっぱり勇者だ。運もある。土下座でもさせて、いじめてストレス発散でもするかぁぁぁ!)


 ルークは声を掛ける


 「カイン! 久しぶりだなぁ! 元気にしてたか。その女にでも養ってもらっていたか。」


 びくりと反応したカインがこちらを見る。


 (ふふっカインは俺たちにビビってやがる。)


 「ルークか……」


 カインもどういう顔をしていいのか分からかった。気まずいのは間違いない。


 (……ああ、そのおびえた目、ついいじめたくなる顔だっ! )


 ルークは興奮していた。


 「元気にしてたか。カイン。」


 「…まあ元気だよ。」


 短く答える。ルークたちと話すことなんてなにもないし、話したくない。


 その態度に誤解したルークは喜びを感じる。


 (ふふっ、追放されて恥ずかしい気持ちなのかカインくん。イグニスの槍に戻りたいって泣きついてきても何回かは断ってやる。絶望の顔を見せてくれよカインくぅぅん。)


 「ギルド職員の仕事は楽しいかカイン。」


 「……普通だよ。」


 「ふっふつう!!! 」


 ルークが大きくゲラゲラと笑う。何が楽しいのか僕には全くわからない。


 「悪いなカイン。ギルド職員の仕事、頑張ってるのに笑っちまってよ! 」


 ルークは続ける。


 「鍛冶場に何しに来てたんだ。そっか。金もないし、もうダンジョンにも行かないから装備でも売ってたのか。」


 馬鹿にしたようにルークは発言を続ける。


 「そうだ、カイン。おまえ俺たちの元でバイトするか。」


 カインはまともに話を聞くのがめんどくさくなってきた。ルークはなにが言いたいんだろうか。


 カインの様子など一切気にしないルークは話を続けた。


 「ほらっ荷物持ち。おまえ得意だろ。」


 カインは黙って聞いている。どうせ発言してもルークには聞こえないのだろう。


 その沈黙を、ルークはカインが喜んでいると解釈した。


 (カイン嬉しいだろ、おまえをイグニスの槍でまた働かせるって言ってやってんだ。)


 「どうだ、俺たち赤龍を明日にでもサクッと攻略しにいくんだぜ。赤龍。素材を売れば数ヶ月は高級ホテル泊まれるぞっ。」


 「そうか…それはすごいな。頑張ってくれ。」


 「なあカイン。おまえ情けなくねえのかよぉ。盾もなくて、女に養ってもらって。ダンジョンにもびびっちまって。どうせダンジョンが怖くなってギルドで書類だけ作ってんだろ。」


 ルークは大きく笑いカインの肩をバンバンとたたく。


 「かわいそうになってきたぜ。俺は優しいからよカイン。」


 ルークが盾を嬉しそうにカインに見せる。


 「使わない時にこの骸骨ロードの盾を貸してやってもいいぜ。おまえが頭下げてお願いするならなっ。」


 ルークの盾は40Fのボス骸骨ロードを倒した報酬で買ったのもだ。お金の使い道はパーティ皆の装備を少しずつグレードアップしようと決めていたのだが、ルークが鍛冶場でこの盾がほしいと言い出して無理やり買った骸骨ロードの盾じゃないか。


 (そうだよな。カイン。お前はずっと小さいオンボロな盾使ってたもんな。嬉しくて声も出ないか。)


 ルークは口元を緩める。


 困っているようなカインの顔がおかしくて笑いが止まらない。


 (くっくっく。ったく、カインをいじめるのは最高だぜっ)


 ルークは心のなかでガッツポーズを繰り返す。やはり俺は優秀で神に愛されている。カインは圧倒的に俺よりも下なのだと。何回かクエストは失敗したが、それもたまたま。偶然だ。勇者として俺がチヤホヤされるのは間違いないのだと。


 (やっぱりカインはイグニスの槍に必要だったんだ、こうやってカインをかわいがってやらないと俺の調子が出てこなかったんだっ! )


 荷物持ち。いや奴隷としてカインが必要だ。


 ルークはカインをいじめて満足した。そろそろ飴も与えないとな。


 「カイン、かわいそうなおまえに俺が優しさをやるよ。」


 「……なんだい。」


 「お前をイグニスの槍にクビにしたのは本意じゃないんだ。お前に俺たちのありがたみを感じてほしかったんだよ。カイン、お前がどうしてもって言うならイグニスの槍に戻してやるぜ。」


 ルークは満面の笑みでカインに言う。


 「どうだ。カイン。おまえをイグニスの槍で雇ってやるぜ。」

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