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魔法戦士は最弱職業!?

 「カイン、わりぃがおまえとはここでお別れだ。これはパーティ全員の総意なんだよ。」



 パーティリーダーのルークは、酒を飲みながらへらへら笑いながらそう言った。


 何を言っているのか理解できなかった。明日のダンジョンのボス戦に挑もうとしているのタイミングでなんでこんな事を言うのか。



 帝都にある100層のダンジョンで、俺たちパーティ(イグニスの槍)は他のパーティと比べても最もダンジョン攻略を進めている5人パーティだ。現在、89階まで攻略していて90階のボスに挑もうとするところだ。


 パーティは勇者の認定を受けている。帝国一のパーティと言っても過言ではないだろう。


 パーティ構成は剣士ルークと魔法使いルキナ、僧侶ソラ、戦士アパムとオレ魔法戦士カインの5人で今まで苦楽をともにして旅を続けていた。


 なぜタイミングなんだ。


  「力はアパムや俺に劣っているし、魔法だってルキナ以下だ。回復はソラで十分だし、おまえみたいな便利屋はいらねえんだよ。おまえがこれからの階層で通用しないのは目に見えてる。」


 ルークはそう説明すると笑った。


 ルークはパーティリーダーとしていつも偉そうに振る舞っている。性格はお世辞にも良いと言えないが、顔が良く手ぐせが悪い。女好きでいつも揉め事をおこしている。だが、剣の扱いに至っては帝国でも数本の指に入る。


 「なあおまえらも、カインは魔法剣士で、力不足だってそう思っているんだろう?」


 勇者ルークが問う。皆、気まずそうに下を向いている。


 「アア。ここまで来るまでなんとかなっていたが、これからはもっと強いメンバーを入れたほうが良いな」 


 そう言うのは戦士アパムだ帝国一の力持ち。彼の大剣は一振りでドラゴンを真っ二つにできる威力だ。俺に非力だとよく文句言ってきてたな。


 「たしかにそうね。新しいメンバーには前衛の盾役がほしいわ。」


 次に発言したのは、紫髪で身長が低く。いつも杖を持っている。魔法が得意なルキナ。魔法の威力は強いが数回しか撃てないのが玉に瑕だ。性格はルークの次にきつい。俺に対して厳しく当たってくることが多い。好きなものは権力と金だ。


 「私はわかりませんが、皆さんがそういうのであればしょうがないと思います。」


 最後に賛同したのは僧侶のソラ。ルキナより身長は低い。帝国では珍しい青髪だ。僧侶ということで光魔法と回復がメインだ。スタイルも良くよくカインに口説かれるところを見る。


 おおむね追放に賛同しているのか。


 「俺がいなくなれば良いのか。」カインが問う。


 「そうだ。新しいメンバーも決まっている。カイン。おまえはこのパーティいらないんだよ。」


 能力値だけで見れば足手まといなのは事実だった。


 魔法剣士は戦闘中にこなすタスクは多岐にわたる。物理攻撃や魔法攻撃。サポート魔法に回復魔法。良く言えばマルチタスク。悪く言えば便利屋だ。


 ただオレのサポートがあったから90階まで攻略できていたのが事実だ。戦闘だけじゃない。ギルドとのやり取りや帝国議会との交渉。獲得物の販売まで面倒ごとも全部担ってきた。


 「そっか。オレはまた要らないんだな。」


 天井を見つめながらポツリとつぶやく。


 明日の大一番に向けての緊張感もあるせいもあるのだろう、皆心ここにあらずだ。


 このままではらちが明かない。が、ゴネてももうどうにもならないのだろう。


 イグニスの槍の力になれないことが悲しい。これでも今まで旅をしてきた仲間だ。


 このパーティの仲間でダンジョン100層まで踏破したかった。


 いつもボス戦に挑む前日は騒がしい飲み会になるのだが、今回は皆、口数がすくない。


 そうか。皆の目にオレはもう映っていないんだ。


 「わかった。パーティを抜けるよ。」


 めまいがする。


 めまいがするなんて言ってられない。とにかくこの場を離れようと、席を立つ。


 「カイン、待てよ。装備品一式置いていけよ。装備はパーティのものだろ。それに抜けるんじゃねえ。追放だっ! 」


 勇者ルークは勝ち誇った顔をしながら続ける。


 「しょーがねえから、おまえの剣と500PYNだけ持っていけよ。退職金だ。俺たちパーティの変な噂、言いふらすんじゃねえぞ。」


 明らかに不条理な退職金だ。今までパーティで稼いだ金額の20万分の1の金額にも満たない。ただ言い争いもなにもしたくない。一刻も早くこの場を離れたい。


 「もういい。わかった。それでいい。剣以外の装備はすべて置いていくよ。今までありがとう。これからの皆の健闘を祈っているよ。」


 勇者ルークはもともと勝ち気な性格でいわゆる俺様キャラなのはわかっていた。ただ他のメンバーがルークの暴走を止めてほしかった。


 いちるの望みを託し扉の前で振り返る。勇者ルークと目が合う。ルークが俺に向かって中指を立てる。


 「ああ。俺がこの2年間守ってきたものは何だったんだろう」


 目がチカチカする。


 重い足を引きずりながら俺は酒場をあとにした。


 もうパーティに戻る気なんてないし、二度と、彼らと冒険することはないだろう。


 俺のパーティ(イグニスの槍)の活動は終わった。


 仲間を活かし生かすこと。それが、俺の任務だったが今日で終わりだ。


 「……さて、これからどうしようか」


 居酒屋の外にまでさっきまでいた場所でどんちゃん騒ぎが聞こえる。さっきまでのシリアスな雰囲気は演技だったみたいだ。


 冷静に考えて、500PYNなんてたかがしれている。宿に泊まるにしても、5日しか泊まれない。あいにく、他の道具も先ほど置いてきた。今は愛剣しか持ち合わせていない。


 まずは冒険者ギルドにパーティ離脱の報告をしないと。


 俺は重い足取りでギルドに向かって歩き出した。





 「やあミント。今はギルマスはいるかな?」


 ミントは冒険者ギルドの受付嬢で、もふもふの猫耳を持つ獣人だ。茶髪で可愛い。ギルドの看板娘だ。


 「カインさん。こんばんは。こんな時間に珍しいですね。どうされました? 」


 内容を言いたくはない。追放されたなんて恥ずかしいしな。それに、自分の口から言葉にすることで、自分が今まで積み上げてきたものが崩れるような、全てが否定される気がした。


 「いや。ちょっとギルマスに相談したいことがあって。」


 「今は2階のギルマス室にいるみたいなので行ってみてください。」


 「ありがとう。行ってくるよ。」

 

 2階のギルマス室の前に着く。


 扉を前に、息をゆっくりと吸い込み、吐き出す。


 深呼吸だ。冷静にならないと。

 

 なんと言われるのだろうか。すごく感情が高ぶっている。手汗もすごく出てきた。


 2度ノックして室内に入る。


 椅子にはギルドマスターであるメンゼフが座っている。


 メンゼフさんを説明するには日によく焼けてTHEマッチョなガチムチなおじさんを想像してほしい。それがメンゼフさんだ。


 「ほぅ。珍しい客が来たもんだ。何か急用があるみたいじゃねえか。どうした。相談くれぇなら乗るぜ。」


 さすがギルマス。俺の不安を見抜いているようだ。


 


 「実は、パーティ(イグニスの槍)を追放されました。」


 「なにっ…」


 おじさんが椅子から崩れ落ちるのを人生で初めて見た。



 …先程の経緯をひととおり説明した。


 「そうか。それはひどいな。パーティ(イグニスの槍)はカイン。おまえで持っていたようなものなのにな。」


 「さすがにそれは言いすぎです。残念ですが、追放されました。」


 俺がS級パーティを支えていた自負もあった。言葉にすると悔しさがこみ上げる。


 「これからどうするつもりだカイン。」


 ギルマスのメンゼフさんは苛立った感じでたばこを吸い出す。


 ギルドは一度たばこの不始末で火事になりかけてからは全面禁煙のはずだが。


 「まだ決まっていません。お金もないし。一人でダンジョン走破は無理です。帝都にいても彼らと顔を合わせることになるので地方でも回ろうかなと思っています。」


 「なるほど。ちょっと待ってろ。」


 メンゼフはどこかに電話を掛けだした。


 すぐに電話は切れ、それからメンゼフは何か考え込んでいるようで言葉を発しない。


 その沈黙は俺にとってすごく苦しい


 数分たっただろうか。ドアをバンと開けて2人が入ってきた。


 一人は受付嬢のミント。もうひとりは副ギルマスのマンゼフだ。


 「あら。カインちゃんじゃない久しぶりねぇ」


 マンゼフは副ギルマスであり、メンゼフの双子の弟である。俗に言うオネエだ。


 「急に呼びだててすまねえな。実はーーー」


 メンゼフさんが一部始終を説明してくれてた。俺はギルドすらも追放されるのだろうか。嫌な汗が止まらない。


 「なんてかわいそうなカインちゃん」


 胸毛がもじゃもじゃなマンゼフさんが抱きしめてくれる。今はこの優しい感じが染みるが、胸毛は嬉しくない。


 「ほんとあの子らはてんぐね。勇者だからって調子に乗っていて評判悪いし、カインちゃんがかわいそう。」


 「カインさんは何も悪くないですよ。」


 受付嬢のミントは涙を流しえぐえぐしながらも慰めてくれる。なんて温かいのだろう。


 「パーティの追放や脱退では罰を与えることはできねぇ。ただカインの才能を眠らせるのも、もったいなく思ってな。そこでだ。相談なんだが、カインおまえ、ギルド職員にならないか。」


 「それって冒険者を辞めろってことですか?」


 なんとか声を絞り出しながら震える声で答える。俺は冒険者として必要にされていないということか。


 「そうは言っていない。カインが優秀なのは俺もマンゼフもミントも認めている。だからこそカイン。お前にギルドを手伝ってほしいんだ。ギルドはダンジョンを走破することが目的じゃねえ。新人育成から難易度の高い依頼。帝国の騎士では対応できない変わった依頼までこなさなければならねぇ。正直なところ、俺とマンゼフだけでは回ってねえんだよ。」


 「わっわたしも受付なのでダンジョンにはいけませんが、カインさんと一緒に働きたいです。」


 「わたしはもちろんオッケーよ~。かわいいかわいいカインちゃんと一緒にダンジョンにいけるなんてわくわくするわ。」


 そうか。僕にはパーティでダンジョンを攻略するのがすべてだった。


 パーティに所属することは手段の一つでしかなくて、いろいろな生き方があるんだ。



 『常に強くあれ――』


 貴族の愛人の子として生まれ、身内から迫害を受けながらもそれを家訓として体の芯までたたきこまれてきた。


 もしかするとダンジョンを攻略するだけが強さじゃないのかもしれない。


 なによりギルマスや副ギルマスはパーティ《イグニスの槍》のメンバーより人間としても強いじゃないか。


 僕は<強さ>を勘違いしていたのかもしれない。今まで何を勘違いしていたのだろうか。


 「急いで決めなくても良い。落ち着いて手伝いたくなったらいつでも言ってくれ。大歓迎だ。」


 これだけの優しさを向けてくれる彼らに義理を果たさなければならい。


 ダンジョン制覇だけじゃない。ギルド職員それがこれからのぼくの任務だ。


 僕は僕らしく強さを追求すればいい。


 彼らの期待に答えなければならない。

 

 「わかりました。ぜひとも一緒に働かせてください。よろしくお願いします。」



 僕が言うと、メンゼフの険しい顔は笑顔に変わった。


 それはまるでこどもの成長を喜ぶ父親のような表情だった。


 「そうか。それはなによりだ、今日は疲れているだろうし、明日、昼までには来てくれ。こっちにも準備が必要だからな。報酬や条件は明日にでも話し合おう。なに悪いようにはしねえよ」


 マッチョが怪しくにやっと笑う顔は気になるが…


 とりあえず、良かった。これからすることも決まったな。



 僕はお礼を言い、扉から出た。宿に向かう足取りは軽くなっていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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」も同時連載しております。


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