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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅱ
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「やっぱり無理だ!この状況に堪えられない!」

「ユージン……」

「俺が決断した未来はこうなるんだろ!?無差別に関係ない人が巻き込まれて、日常が壊されてめちゃくちゃになるんだろ!?もしその原因が俺だって知られたらどうなるんだよ?みんなに恨まれるのか!?世界中の人間から標的にされるのか!?そしたら俺はどうなるんだ!処刑されるのか?世界をめちゃくちゃにした罪で死刑になるのか!?」

「落ち着けユージン」

「そんなの嫌だ!殺されたくない!」

「おい」

「もう計画なんてどうでもいい!これ以上関わりたくない!危険に晒されるのは嫌だ!」

「ユージン。大丈夫だから落ち着け」

「大丈夫な訳ないだろ!」


 ミカエルがなだめようとしても聞く耳を持たない悠仁は振り払い、頑として拒絶する。


「何で俺なんだよ!何で普通の人間の俺が決めなきゃならないんだよ!無理に決まってるだろ!人間界のことだからとかそっちの都合で何でも決めるなよ!こんなこと…こんな責任俺に背負える訳ないだろ!どう考えてもおかしいだろ!そのくらいわからないのかよ!アブディエルだけじゃなくてお前ら全員いかれてるよ!」

「ユージン落ちつ……」


 すると突然、見兼ねたベリアルがミカエルを押し退け、悠仁の頬を平手打ちした。予想外の出来事に、ミカエルは目を丸くする。

 叩かれた悠仁は一瞬静かになった。左頬が赤くなりジリジリする。しかしそれでは冷静にならず、ベリアルとの口喧嘩が始まった。


「何するんだよ!」

「しっかりしてよ!なに寝言言ってんのさ。ルシファーの願いを叶えるんでしょ。ルシファーを裏切るつもり?」

「こんなプレッシャー耐えられるかよ!アブディエルの計画なんてもうどうでもいい!あいつの所為で俺の人生めちゃくちゃにされたくない!」

「自分から首突っ込んでここまで来ておいて逃げるの?とんだ期待外れのチキン野郎だね」


 悠仁は煽って来るベリアルの胸ぐらを掴んだ。


「チキン野郎でいいよ!けどお前に何がわかるんだよ!俺のこの苦しみと恐怖がお前にわかるのか!わからないくせに偉そうに言うんじゃねぇよ!」


 ベリアルは露になった感情で暴言をぶつけられるが、微塵も動揺せず冷淡な目を向ける。


「なに悲劇の主人公ぶってんの。そんなに同情されたい?そんなに庇ってほしい?おめでたいよねほんと。自分だけが不幸だと思わないでよ。その目は何を見たのさ。人間界の現状を見たばかりじゃないの。ねえ?」

「だから何だって言うんだよ!」

「弱者はユージンだけじゃない。苦しいのはみんな同じ。辛いのも、逃げたいのも、怖いのも。あの人間たち、みんな同じことを思ってる」


 ベリアルは、自分たちがいた方を指差して言った。そこには絶望する人々、前触れもなく命の終焉を迎えた者たちが、助けを求めることすらできずに留まっている。


「そんなこともわからないの?」

「だから何言いたいんだよ!?」

「ユージンだけじゃなくて、みんな弱者なんだ。非力で、何もできなくて、自分の命さえ咄嗟に守ることもできない。何もできないことをただただ突き付けられる。みんな辛くて悔しくてどうしようもないんだよ!」

「二人ともやめないか!」


 言い合う二人を見かねてミカエルが仲裁に入り、ベリアルの胸倉を掴んでいた悠仁の手を解いた。しかし、今までとは違う本気の喧嘩は簡単には収まらない。


「じゃあお前らが助ければいいだろ!ミカエルだって宣言したじゃないか!」

「はあ?バカなの?ボクたちには何もできないの知ってるでしょ!?」


 二人ができることをやろうと思えば、何でもできるだろう。しかし、天界の掟があるミカエルは、悠仁の護衛どころかルシファーの天界復帰の夢を叶えられなくなり、掟に縛られないベリアルも、介入したことが天界に知られれば地の底に監禁されてしまう。それに二人が罰を受けるだけでなく、同盟を組んだ仲間たちにも迷惑がかかってしまうだろう。これまでの時間も労力も信念も、全てが無駄になってしまう。


「それに、今更何をしろって言うの?死んだ人間を生き返らせろとか、時間を戻せとか無理だからね!」


 悠仁の投げやりな言い方が段々と腹立たしくなってきたベリアルも、冷静さが保てなくなる。


「そんなこと言ってないだろ!とにかく俺はもう関わらない!放っておいてくれ!あとはそっちで勝手にやれよ!」

「無責任甚だしいね!身勝手も大概にしてよ!?折角貸したくもない手を貸してアブディエル様から守ってあげたのに、それがこの仕打ち?ボクたちの他に、一体どれだけの人間を巻き込んだのか考えもしないんだ?」

「最初に巻き込まれたのは俺だ!こんな思いするなら最初から何もしなかった!俺だって被害者だ!なのにお前らが、掟だ何だって言って責任を押し付けてきたんだろ!」

「じゃあ、無理なら無理って言えばよかったじゃない!正直に言わないそっちが悪いんじゃないの!?一方的に責任を押し付けないで!最初から中途半端な覚悟しかないなら、ルシファーの意志を継ごうなんて思わないでよね!」

「やめろと言ってるだろ!」


 ミカエルはまない応酬に無理やり割って入り、それでようやく二人の喧嘩は止まった。しかし、良き協力関係にあった悠仁とベリアルの間には、深い溝が生まれてしまった。

 悠仁の気持ちもベリアルの言い分も、ミカエルにはわかるつもりだ。悠仁の精神状態はずっと心配だったが、ずっと信頼を寄せ続けていた。ただその信頼が、悠仁にどう働いていたのかという想像まではしていなかった。思慮深さが足りず、ケアが皆無だった。しかもベリアルの存在で、精神の雪崩をき止められなかった。

 ベリアルは、悠仁のことは嫌いではなかった。だから協力してくれたし、こんな時こそ寄り添ってほしかったミカエルだったが、素直になれず、相手を傷付けるような本音しか言えない彼の性格が、逆効果になってしまった。


「ほんと。呆れ過ぎて笑えない。ルシファーが一緒にいた人間だからと思って信用してたけど、こんなにあっさり裏切るなんて思わなかったよ」

「全部お前らの勝手が原因だろ」

「信用してくれたルシファーまで裏切るんだ?結局ユージンも、他の人間みたいに自分が一番かわいいんだ」

「……何とでも言えよ」

「ボクは人間のそういうところが嫌いだよ」


 パトカーと救急車と消防車のサイレンが鳴り響く。広場からは、誇り高く黒い煙が上り続けている。

 悠仁は、自分と世界をシャッターで遮りたかった。けれどできない。悠仁は、世界の二つの行く末を知ってしまっている。どちらも、自分とは切っても切り離せない世界であることも知っている。

 しかし悠仁は、どちらの世界とも繋がっていたくなかった。




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