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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
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 それから、悠仁が知らない天使の能力を少し教えてもらった。姿の可視化や不可視化が自由にできたり、物質の具現化ができる者も多いと言う。ミカエルのように、自然界の要素を操る特別な能力を持つ天使は、そんなにいないらしい。どうやら要素との相性もあるようだ。

 人間界のスイーツに魅了されたミカエルは、いつか世界中のスイーツを制覇したいと目を輝かせて言った。公安部最高責任者殿は、すっかりスイーツ男子に変身してしまったようだ。そんな人間界に毒されてしまったミカエルの隣で、毒舌キャラを被ったツンデレ男子はノーコメントで七杯目のブラックコーヒーを飲んでいた。

 ふと気付けば入室して三時間が経とうとしていたので、三人は本題のメモの解読に取りかかることにした。悠仁がリュックからPCを出して準備をしていると、ミカエルが腕に注目した。


「ユージン。そのブレスレットは?毎日付けているみたいだが」

「ああ、これ?うちで代々受け継がれてきたものなんだって。今は絶対に外しちゃいけないんだけど、子供が生まれたらその子に付けるんだってさ」

「人間界のものか?」

「そうだけど。こういうの、天界にもあるから珍しくないだろ」


 ミカエルは、まじまじとブレスレットを見つめる。


「そうなんだが……付いている石が、天界のものにそっくりなんだ。シェハキムの山でしか採れない石と、同じってくらい似ている」

「それ、ルシファーも同じこと言ってた。熾天使セラフィムでもあまり持ってないって。失くしたらしいけど」

「あいつ、貴重なものを……」

「呆れますよね本当に。もう少ししっかりしてくれれば、完璧な人だったのに」


 残念ですよね。残念だな。と、ミカエルとベリアルが惜しいルシファーを残念がっている間にPCの電源が入れられ、ログイン画面になる。悠仁はパスワードを入力した。


「それは何をしたんだ?」

「ログインする為のパスワードを入力したんだよ。PCはこの最初のパスワードがわからないと、そもそも開けないんだ」

「そうなのか。そのパスワードは知っていたんだな」

「いや。知らなかったんだけど、当てずっぽうで入力したら偶然合ってたんだ。何で俺の生年月日だったのかは謎なんだけど」


 色々書き留める為のノートも用意し、準備が整った。悠仁が答えが違うのかもしれないと言っていたので、まず答えを見直す作業から始めた。


「一つ目の【散らばったもの、バラバラにしたものを一ヶ所にすること】の答えは最初、収集とか寄せるとか考えたんだけど、シンプルに《集める》が合ってると思った」

「そんな簡単な答えでいいの?」

「いや。これは《集める》でいいんじゃないか。解かせたいなら、最初からそんなに難しい答えは用意していないだろう」

「じゃあ、答えはこのままにするな。で、次。二つ目は【この世界の唯一無二。数多の支配者】。これはミカエルの助言もあって《国家元首》にしておいたけど。他に候補はあるかな」

「……ベリアルはどう思う?」


 ミカエルは初見のベリアルに聞いた。聞かれたベリアルは、自分なりに考えてから発言する。


「確かに国を治める人間は多くいるし、平凡な人間には務まらないけど、唯一無二って言われると何か違う気がしない?唯一無二って、もっと希少性があるでしょ」

「レア感か……じゃあ国家元首じゃ広いから、国王に絞るのは?」

「んー……まぁ。歴史を遡ればたくさんいるだろうけど、もしも現在を指してるなら当て嵌まらないんじゃない?」


 ベリアルの意見に、悠仁とミカエルは唸る。

 唯一無二とは、ただ一つだけであり二つとないものを指す。レア感を考慮しても、国家元首の中の特定の誰か一人を指しているとも考え難い。それに、国連加盟国やその他の国に存在する国王の人数は現在二十人程度と、「数多」とは言えない。ベリアルの言う通り現在に当て嵌めて考えるとなると、国家元首も国王も不正解となる。


「【数多の支配者】……数多は言葉通りで、支配者は言葉そのままの意味ではなく、別の意味を指しているのかもしれない」

「支配者……この世界で存在感があって、堂々として、部下をいっぱい従えてて……」


 悠仁は支配者のイメージを一つずつ挙げていき、頭の中で人物像を作っていく。そうしたら、映画に登場するラスボスのような人物像になった。光る剣を操り主人公と戦う、仮面を被った黒づくめの男だった。この前レンタルでそのSFシリーズを観た所為だ。

 唯一無二で数多いる存在なんて、本当にあるのだろうか。三人は一緒に唸るが、適当な答えが出てこない。

 その後も手こずり、あれはこれはと候補を挙げながら数分間唸り続けた。すると、ベリアルがピンとくる。


「……人間、とか?」

「俺たち?」

「数え切れない程たくさんいるから、【数多】が当て嵌まる。それから、人間界の生物の頂点だから【支配者】もでしょ。でも他に同じ存在はいないから、【唯一無二】も当て嵌まると思うんだけど」

「……言われてみれば」


 確かに。この世界に数多いる人間は、生存地をくまなく広げて生物の頂点に君臨し、こんなに優れた生命は他に存在しない。

 悠仁とミカエルはベリアルの考えに納得し、【この世界の唯一無二。数多の支配者】の答えを《国家元首》から《人間》に変えた。

 次に三つ目の、【幸福でいられる場所。人間が一番最初に罪を犯した場所】は、ミカエルが出した《楽園》という答え以外に相応しい回答が出ず、ミカエルの説明にベリアルも異論を唱えなかったので変更はしなかった。

 そして最後の四つ目、【人類の始め。退化して辿り着く場所。聖書とは違う】。仮の答えで《海》としておいたが、議論の結果間違ってなさそうなので、話し合って進化論ぽい言葉を付け足し、《原初の海》という答えにした。

 これで四つ全ての答えが出揃った。


「答えを並べると、《集める》《人間》《楽園》《原初の海》か。これらからどうやってパスワードを導き出すか……」

「ここには朝までいられるんでしょ?じっくり考えようよ」


 夜はまだ深まり始めたばかり。時間はたっぷりあり、じっくり考えられる。

 まずは改めて共通点を探してみたが、答えが変わったところでないことは同じだった。なので次の手段で、文字の並び替えやローマ字変換、英語訳を試してみた。頭文字の並び替えなどもやってみたが、どれもパスワードとはなり得なかった。

 悠仁は別の言語にも置き換えてみることを提案し、英語以外の数ヵ国語をアプリで翻訳したりと試行錯誤を続けるが、悪戯に時間が過ぎるだけだった。


 休憩しながらああでもないこうでもないと言っているうちに、退室時間の朝になってしまった。一晩かけて三人がかりで挑んだが、結局ロック解除には至らないままカラオケ店を出た。

 人通りがある時間は店の中も外も騒がしいが、今だけは外の方が別世界のように静かだ。太陽も既に活動を始めていて、カラスはゴミ袋を突いて朝飯を漁っている。


「時間の無駄だった……」


 歌唱し続けるのとは違うエネルギーを使い、悠仁の疲労感はだだ漏れている。打って変わってミカエルとベリアルは、多少の疲れの色は見えるが、四〇〇メートルトラックをジョギングで一周走ったくらいのものだった。人間と天使の身体能力は、一体どのくらいの違いがあるのだろう。


「簡単にわからないようにしてるんだな。慎重なところは、ずっと変わっていなかったようだ」

「だからって、俺がわからなきゃ意味ないだろ。タイムリミットもあるんだろ?このまま不眠不休で考えて答えがわかったとしても、多分その時俺は死んでるぞ」

「ユージンはこんなことで死ぬくらい脆弱なの?」

「冗談だよ。本当な訳ないだろ。それに諦める気はないって」

「じゃあ考えるしかないでしょ。ルシファーの意志を継ぐって決めたんだから」

「わかってる。けどその前に、仮眠を取らせてくれ」


 一晩中働かせていた脳が、いい加減に休ませてくれとあくびを促して催促する。犯罪に巻き込まれるのが怖くて自宅に帰るのは控えていたが、一度帰って布団に入りたかった。ひと眠りしたら、シャワーを浴びて着替えもしたい。今は護衛もいるので、悠仁は安心して自宅に向かうことにした。その時。


「どちらへ行かれるのですか」


 三人の前に紺色のスーツを着た堅物そうな男と、悠仁と同年代の黒髪眼鏡の人物が揃って現れた。




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