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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
63/110

5




 日曜日。夏樹以外の友達と遊んだ悠仁は、ほろ酔い気分で帰って来た。夜も深まっていて、ソファーで寝落ちしてしまう前に風呂に入ろうと、湯沸かし器でお湯を溜め始めた。

 待つ間に謎解きイベントの予習に問題集を読もうと思った時、スマホが鳴った。発信者の表示は「非通知」になっている。普段は知らない番号や非通知からの着信は無視しているが、アルコールが残っていた所為か、それに気づかずに出た。


「はい。もしもしー?」

「スガハラ ユージン。私はお前を見ている」


 悠仁のほろ酔いは瞬時に覚めた。突然の名指しにもだが、知らない声でのその台詞は幽霊に遭遇したような気持ちにさせた。

 声は成人男性のものだった。ボイスチェンジャーは使われていない、素の声だ。耳から伝わる静かな威圧感に、一気に緊張感に襲われる。


「だ……誰だお前」

「いいか。これは忠告だ」

「誰だって聞いてるんだけど!?き…脅迫か!?脅迫なら、警察に通報……」

「もう一度言う。私はお前を見ている。いいか。この忠告を忘れるな」


 それで電話は切れた。プープープー、と通話終了の機械音が耳元に残される。


「…………」


 怖さが増した悠仁は、部屋の中を見回したり、カーテンを開けて外を覗いたり、ドアを開けて通路を左右確認した。しかし、特に怪しい人影はない。

 聞き覚えのない声だった。低く威圧感のある声は、家族でも、友達でも、誰のものでもなかった。

 初めてかかってきた脅迫電話に見えない誰かの存在を感じ、悠仁はその晩ろくに眠れなかった。


 翌日、そのことを夏樹に話した。


「───ていうことがあったんだ。怖くね?」

「それ本当かよ。誰かの悪戯じゃないのか?」

「一応、友達みんなに聞いてみたけど、違うって言われた。非通知だから突き止められないし。全く知らない声だったから、見当も付かない」

「完全に他人てことか。でも、そんな電話がくるってことは、誰かに逆恨みされたりしてるんじゃないのか?」

「絶対ない!それは自信が……」


 悠仁は自信いっぱいに「ある」と言いかけてやめた。


「……榊原はないよな?」


 悠仁は、脳裏に数日前の榊原の姿を思い出していた。電話でも「お前を見ている」とか「これは忠告だ」とか言っていたので、あの時のストーカーのような佇まいとあまりにも合致していて疑った。


「まさか!……もしかして、この前広場で見られてた時、オレが変なこと言ったから気にしてるのか?さすがにないだろ」

「だよな。何で俺の連絡先知ってんだよって話だし。学生に脅迫電話したなんて大学に知れたら問題だし」

「そうそう。考え過ぎだって」


 悠仁の想像は、常識的に考えてありえない。行動がちょっと気になるが、榊原にも常識も理性もある筈だ。夏樹は、きっとイタズラ電話だと明るく元気付けた。


「それならそれでいいんだけどさ。その所為で家に帰るの何か怖くて。できたら夏樹んに暫く泊めてくれないかな?その間の家賃半分出すし。家事もやるから」


 悠仁は「頼む!」と掌を合わせてお願いする。電話の主を聞き回るついでに他の友達にも交渉したが、既にルームシェアをしていたり部屋が狭いことを理由にことごとく断られた。夏樹が最後の希望なのだが、希望は考える前に視線を逸らした。


「悪い。ちょっと事情があって泊められない」

「もしかして、夏樹も誰かとシェアしてるのか?それとも、彼女と同棲中?」

「そんな相手はいない。そう言えば、あの謎解きメモって結局何だったんだ?」


 夏樹は、強引にメモのことに話題を変えた。どうやら、一人暮らし事情を知られたくないらしい。本当に同棲している恋人がいるのかもしれない。年上の美人なお姉さんか、はたまたアイドル並みに可愛い子だから、取られないように隠しているのだろうか。

 それともやっぱり、自分のことを聞かれるのが好きではないのだろうか。あまりにも強引な方向転換だったので、悠仁は空気を読んであげた。


「あれか?夏樹にも協力してもらって全部答えを出したけどさ、結局何なのかよくわからなくて。ただ……」


 悠仁はPCを出してトップ画面を見せる。


「もう一つ、ここに圧縮ファイルがあるんだ。もしかしたら謎解きメモ単体だけじゃ意味はなくて、これと関係があるんじゃないかと思うんだけど」

「圧縮ファイルって、簡単に開けられないのか?」

「そう。ロックがかかってて、パスワードがわからないと開けられないんだ」

「なんだ、そうなのか。ということは、何か大事なことがその中にあるんだな」


 一見何の違和感もないように思えるやり取りだが、悠仁はふと思った疑問を口にする。


「……夏樹って、最先端技術に弱いよな。PCは詳しくないし、今どき珍しくスマホもガラケーも持ってないし。今どき小学生でも持ってるのに、同年代で連絡手段は公衆電話ってバカにされてないか?その絶滅寸前の公衆電話と同じくらい希少だぞ」

「オレはこれでいいんだ。不便はしてない。オレの浮き世離れは放っておいてくれ」


 夏樹はどこ吹く風とばかりに、自分が周りと違うことは全く気にしていない。スマホを持てば、一人もいないと嘆いていた友達も増えるだろうに。友達申請をしても連絡のしようがないから、不便がられて避けられているんじゃないだろうかと、悠仁は余計な憶測を巡らせてしまった。

「不便」は印象が悪いよな。まずは印象を変えないと……それなら、「不便」じゃなくて「珍しい」っていう見方に変えれば、興味を持った人が友達になってくれるかもしれない。手始めに俺の友達に、珍しい奴がいるって紹介してみようかな……。

 などと勝手にプランニングをしている間に、夏樹も勝手にテキストファイルを開いて、短文と悠仁が出した答えを見つめていた。


「このメモさ、ただの謎解きなのかな。この答えが、圧縮ファイルにそのまま関係してると思うか?」


 夏樹はやけにメモを気にしている。ひょっとしたら、悠仁よりも意欲的にこの謎解きに取り組もうとしている。悠仁はそんな夏樹を少しだけ不思議に思いつつ、謎解きにだいぶ興味を持ってくれていることが嬉しかった。それなりに知識もありそうだから、イベント本番でも活躍が期待できる。イベント後に仲間になってくれると更に嬉しい。


「関係してるなら、この四つの答えの中にヒントが隠されてるのかもしれない」

「そこからパスワードを導くってことだな」


 そこからは、ヒントとなりそうな四つの答えの共通点を考え始めた。

《集める》と《国家元首》は何か繋がっていそうだった。元首たちが何処かに一斉に集まる(首脳会談的な)や、お金を集める、自身を支持する人々を集めるなどが考えられた。それには、考えようによっては《楽園》も繋がりそうだった。そこに《海》を関連付けさせようと考えたが、海に囲まれた島に楽園を作るなどブルジョアの有り余る資産の使い道や、バラエティー番組の企画みたいなことしか思い浮かばなかった。明らかにパスワードにはならなそうなので、案は即刻撤回された。

 それから二人で唸り続けるも、夏樹の知識を持ってしても、ヒントを見出すには超巨大迷路の通過点で鳴らす鐘まで辿り着く程の難易度。どうやら、ここから第二関門のようだ。




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