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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅰ
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「短文が四つあって、二つ目まではやったんだ。二つ目の答えは自信がなかったから、まだカッコ仮だけど」

「絶滅危惧種と国家元首か……」


 夏樹は短文をじっくりと見つめ、二つの回答候補を一つに絞る為に自分なりに考える。前哨戦なのにだいぶ気合が入っているようだ。


「絶滅危惧種は、支配者じゃなくないか?」

「そうなんだけど。書いてあることが正反対だから、答えの候補として残してあるんだ。だからカッコ仮なんだって」

「オレは、これは『数多の支配者』の方にポイントを置いてる気がする。『この世界の唯一無二』を一度省いて考えるなら、国家元首の方が近いんじゃないかと思うんだけど」

「そっか……じゃあ、そっちにしておく」


 夏樹の意見を参考にし、悠仁は絶滅危惧種を消して《国家元首》を答えにした。ただ、前半部分をあまり考えずに出した答えなので、これも確定はできそうになかった。


「三つ目から考えてるんだな」

「そうなんだけど、これが全然わからなくて」

「幸福でいられる場所で、罪を犯した場所か。うん。これはよくわからない」

「早々に諦めないでくれよー」

「ちょっと待て。真剣に考えてやるから」


 そう言うと夏樹は腕を組み、悠仁を凌ぐ真剣さかと思うくらい集中して考える。夏樹が話しかけられないくらい真剣に取り組むので、悠仁ももう一度考えてみる。でもやっぱりわからなかった。

 他の学生の雑音が耳に入らない程没入すること数分。夏樹がひらめいた。


「……わかったかも」

「マジで?」

「答えは、楽園じゃないか?」

「何で楽園なんだよ」

「『人間が一番最初に罪を犯した場所』で考えてみた。ユージンは、エデンの園って知ってるか?」

「エデンの園?……あー。何となく?」


 一度は聞いたことがあるような気がするが、悠仁の知識レベルは単語を知っているくらいだった。悠仁の曖昧な応答の語尾にクエスチョンマークが見えた夏樹は、説明をしてくれる。


「エデンの園は、神が最初に作った男女の人間・アダムとイヴが住んでいた場所だ。省略して説明すると、アダムとイヴはエデンの園の木に成っていた善悪の知識の実、いわゆる禁断の果実を食べ、他の木の実を食べ尽くされるのを恐れた神によって二人は追放された。神からその実を絶対に食べてはいけないと言われていたのに、その約束を破ったことから、人間が一番最初に犯した罪だと言われている」

「あー。アダムとイヴの話のやつか。それが何で楽園なんだよ」

「エデンの園って、一般的に何となく楽園てイメージ付いてないか?」


 悠仁は目線を上げる。穏やかな森の木に美味しそうな果実がいっぱい成っていて、鳥などの動物たちが平和に暮らしているイメージを脳内に作り上げた。


「……そうかも。だから『幸福でいられる場所』も合致するのか」


 夏樹の解説に納得し、悠仁は三つ目の答えの《楽園》を書き込んだ。アダムとイヴは知っていたが、そんな専門的な知識がない自分ではこの答えを導けなかったと、夏樹に関心する。


「夏樹ってそういうの詳しいんだな。何で知ってるの?」

「何でって、別に。誰かから聞いたことがあって、偶然知ってただけだよ。で、次はどんな文だ?」


 投げかけた素朴な疑問を、何だかサラッとかわされた気がする悠仁。友達がいないことに触れても必要以上に話題を広げようとしないので、あまり根掘り葉掘り聞かれたくないのだろうか。

 誰にでも話したくないことの一つや二つはあるので、早く謎のメモを解きたかった悠仁は気にせず次に移った。


「次が最後の四つ目。【生命の始め。遡行そこうして辿り着く場所。聖書とは違う】」

「最初に生まれた生命じゃなくて、生命が生まれた場所か」

「人間は普通、母親から生まれてくる。『生まれた場所』だから、胎内?母親を指してるのか?」

「普通に考えるとそうだけど……でもこれは『生命』と書いてあるだけで、人間だと特定していない。幅広い意味で捉えられるように表されてると思う」


『生命』が人間を指しているのでないのなら、命を持つ人間だけでなく動物も含まれることになる。


「でも、人間と動物は全く違う生き物だろ。母親から生まれるのは同じだけど、他に共通することって……」

「そのポイントが、『聖書とは違う』ってとこじゃないか?」

「そういうことか。それじゃあ、『聖書とは違う』生命の始まりを考えてみればいいのかな」

「それで考えてみよう。ユージンはそういうの得意か?」

「生物?あんまりかな。でも昔の授業思い出せば何か出てくるかも。夏樹は?」

「オレは全く。だからユージン頼む」

「おう!任せとけ!」


 二つの答えを夏樹に考えてもらったので、アダムとイヴ以外の説で例えられる生命の起源を悠仁は自力で考え始めた。

 この世界には、宗教観や科学的見解から見出された生命の起源説が幾つも存在している。旧約聖書の『創世記』に記されたアダムとイヴの話は、生命誕生説の中でも有名な説の一つだ。この短文はそれとは違う、他の起源のどれかのことを指している。

 生命の始まり。遡行して何処かに辿り着く。時間を遡る……。

 高校から小学校の生物の授業を順に辿るべく、記憶のページをめくっていく。そもそも生物はそんなに興味がなかったから、受験の為にインプットした知識はアウトプットされたままで、大体が漏れ出た状態だ。残っている知識はあるだろうか。

 速読のごとくページをめくり続けていくと、教科書のとある挿絵が表れた。それがきっかけで、あっけなく一つの答えが導かれた。


「……そうか、わかった。生命の進化を逆に辿っていくと、海に辿り着く。生命が始まった場所は海っていうのが通説だ。だから答えは海じゃないかな。夏樹はどう思う?」

「成る程。ちょっとシンプルな気がするけど、間違ってはなさそうだよな」


 高確率の自信と、夏樹も考えに同意してくれたので、四つ目の答えは《海》とした。まだ確定できていないものはあるが、ひとまずこれで全ての答えが出たことになる。


「解けてよかったー。ありがとな夏樹」

「礼には及ばないって。もしお礼をくれるなら、甘いものを所望する」

「わかった。考えとく」


 時計を見ると、昼休みがそろそろ終わりだった。午後の授業にも出る予定の夏樹は、先に戻って行った。

 夏樹がいてくれたおかげで、予想より早く解読が終わった。重要なミッションを手伝ってもらったので、スイーツビュッフェに連れて行かなければならなくなりそうだ。


 夕方からバイトに行ったが、今日はミスも少なく仕事ができた。賄いにも無事にありつけたが、ジェンダーレス麻生こと麻生由貴は悠仁の仕事ぶりが面白くないようで。


「先輩、あまりミスしてないですね。どうしちゃったんですか。らしくないですよ」

「……お前は俺に何を求めてるんだよ」

「だって、ミスしてくれないとイジれないじゃないですか。つまらないです」


 と真顔で揶揄やゆされた。いつも真顔で言ってくるので冗談なのか本心なのか見当がつかないが、遠慮なくけなしていい先輩だと見られているのかと思うと、悠仁は少し悲しくなった。




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