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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
45/110

18




 その時、扉をノックする音がした。ルシファーたちは一瞬で緊張感を走らせる。ここには四人しかいない筈だった。もしや侵入者に内報を聞かれてしまったのかと最悪の展開を想像しながら、警戒心を全開にして全員一斉に振り向いた。

 閉めてあった応接室の扉が、いつの間にか開いている。そこに二人の人物が立っていた。


「何か真面目な話の最中みたいだけど、ただいま」

「ベリエル様!」


 そこにいた一人は、勝手に取った休暇から帰って来たベリエルだった。ハビエルは安堵した表情を浮かべ、ルシファーも安堵から顔が綻ぶ。


「ただいまじゃないだろう。手紙だけ置いて何処へ行っていたんだ」

「勝手なことをして、すみませんでした。いくらでも雷を落としてくれていいですよ」


 べリエルは休暇を取る前と同じように敬語で謝るが、それは反省からの言葉遣いで、自分の心を見つめ直して“地”がもとに戻ったのだと雰囲気から感じ取れた。


「今すぐしたいところだが、それはあとにする。今、一つの謎が解けた」

「謎?て言うか、集まって何してるの?」


 見たことがない顔触れでお茶会を開いているような雰囲気でもないので、べリエルは小首を傾げる。

 ルシファーは、協力者のラジエルとベレティエルを紹介した。紹介された三人は互いに会釈をすると、ベレティエルはべリエルが連れていた人物に触れた。


「それよりもベリエル様。その方は……」

「あぁ。何か敷地内で挙動不審にしてたから、連れて来た」

「不審人物ならすぐに追い出した方が。もしかしたら、議会の関係者かもしれません」

「大丈夫です皆様。心配入りません」


 ベレティエルは警戒して忠告するが、ラジエルが仲介に入った。


「彼はアスタロトと言って、予言を提供している者です。議会とは一切関係ありません」


 二人は同じ座天使で、知り合いでもあった。聞いた一同は安心したが、ハビエルは最初からアスタロトに警戒心はなかった。

 アスタロトとは、一度だけ会ったことがある。突然飛ばされて来た天界で戸惑う自分に名前を付け、ルシファーに紹介してくれたのが彼だったのだ。

 すると、相変わらずぼけっとした面構えのアスタロトが、マイペースな調子で口を開く。


「今の話、オレ、予言した……多分」

「アスタロトが予言したことだったんだ」


 ラジエルの「違和感のある人間界」の話のあたりから、話は聞いていたらしい。四人があまりにも真剣な面持ちで机を囲むあまり、声をかけるタイミングを図りかねていたようだ。

 予言の天使……未来がわかる能力……。


「それじゃあ、この先何があるか知ってるってことですか?」


 ハビエルは手っ取り早い手段に気付き、前のめりになる。アブディエルの画策だけでなく、ルシファー堕天危機の回避の可能性も知ることができるかもしれないと思った。しかし、すぐにベリエルに横槍を入れられる。


「無駄だからやめな」

「どうしてですか。俺たちが知りたいことを知ってるんですよね。アスタロト様に聞けば、何をしたらいいかわかるじゃないですか」

「ハビエル。誓約があってそれはできないんだ」

「あ……」


 そうだった……。

 失念していたことに、ハビエルはがっかりする。予言の天使に聞けるのなら、ルシファーも最初から聞いていただろう。簡単にわかればこんなに苦労はしていない。


「彼ら予言の天使は……」


 ルシファーが事情を説明しようとしたが、ラジエルがわざとらしく咳払いをした。空気を読んだルシファーは役目を彼に譲り、ラジエルは鼻眼鏡をクイッと上げて説明を始める。


「予言能力を持つ天使は、無闇やたらに予言を公言しない。もしも公言し、誰かの手によって作為的、もしくは恣意的に人間界の未来が操作されたりして影響が及んではならないという理由で、神と誓約が交わされている。破れば極刑の堕天。聞き出すことも許されない。如何なる身分の者でもね。もし無理矢理聞き出そうとしたら、その天使も堕天になる。予言を管理するオレも同様の誓約があるから、期待はしないで」

「でも、違和感があって異質だって言ったじゃないですか。それはいいんですか?」

「オレが言ったのはヒントだから。予言内容をそのまま言わなければ問題ない……と思う」

「大丈夫かラジエル。今なら、嘘だと言えば聞いたことは忘れるが」

「いいえ、大丈夫です!ですが、一応ご内密に」


 ラジエルは口元に人差し指を立てて、三人にお願いした。

 そっくりそのまま言ってはいないので、許される範囲ではある。もしもの時は、秘密兵器ラジエルの書(セファー・ラジエル)を使ってうまく切り抜けられるだろう。そういった技もラジエルは得意だ。

 すると、黙っていたアスタロトが小さく手を挙げる。


「……じゃあ、オレからも、少しだけ……」


 そう言うと、両手を横に縦に動かす。一同はアスタロトの手の動きを凝視するが、次第に眉間に薄っすら皺ができていき、怪訝な顔付きになっていく。代表して、深い皺を眉間に作ったベリエルが質問する。


「……何やってるんですか?」

「誓約が、あるから……」


 アスタロトは予言のヒントをジェスチャーで伝えようとしていたようだが、上手く伝わらなかった。流石のルシファーも困惑している。


「……よくわからないから、言葉を使ってくれないか」

「……それは、普通は、いいこと……だと、思う」

「違和感で異質な未来が、いいこと?」

「悪い結果ではなく良い結果が待っている、ということでしょうか」


 アスタロトのヒントからは、異質が悪いこととは限らず、誰も知らない未来だから不安からそう捉えてしまっている、ということも考えられる。違和感という印象も、見慣れていないからそう受け取っているのかもしれない。やはりアブディエルに懐疑的になっているから、悪い方に考えてしまうのだろうか。

 真実に一歩近付いたかと思ったが、辿り着くにはまだ程遠い。それでも、小さくても極秘実験の手懸かりを掴めたのは大きな成果だった。




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