表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
44/110

17




 さて。この同志からの情報だが、事実確認が必要だとルシファーは判断した。本当に多数の天使が堕天しているのであれば、その事実を公表する義務を議会は怠ったことになる。

 その調査協力を、グリゴリの処刑実態調査と共に、議会書記のラジエルに頼むことにした。内部の者に協力を乞うのは危険ではないかとハビエルは懸念したが、ルシファーはラジエルは安全だと知っている。

 ラジエルは昔から、誰かに肩入れをしたり媚を売ることがない。常に持っているラジエルの書(セファー・ラジエル)に、天界のあちこちに落ちている噂話のあれやこれやを集めているから、誰に従う方が正しいなど見極められているのだ。ルシファーにも媚を売ることはなかったが、確かな信頼関係を築けていたと確信している。一度だけ、実験の詳細を探ってもらおうかと検討したことはあるが、期待は希薄なことと彼への危険性の観点から断念した。だから協力を乞うのは今回だけにした。

 協力依頼の書状を出すと快諾の回答が折り返し来て、すぐに調査をしてくれるとのことだった。独自調査もウリエルからの情報入手以来からっきしだったので、やはり頼りにできると期待して調査結果を待った。

 ところが数日後。調査結果の書状が来る代わりに、ラジエル本人がルシファーの別邸を訪れた。


「突然の訪問、申し訳ございません」

「いや、大丈夫だ。急にどうしたのだ」

「ご依頼の件の報告に参りました」


 中に通されたラジエルは、持っていた資料の束を応接室のテーブルに広げた。ルシファー、ハビエル、そしてベレティエルが資料を見下ろす。ベレティエルは考えた末に、本来の職務に従事しつつルシファーに協力することを選んだ。この日はそれを伝えに来ていたのだ。


「ご依頼の裁判記録を調べましたが、何処を探しても最近の記録は一切ありませんでした」

「何だって?」

「それから。一緒にご依頼があったグリゴリの方ですが、そちらの刑執行の記録も存在していません」


 ラジエルが持って来た議会の告訴状や公安部の調書の束の中に、ここ数ヶ月の裁判記録が記されたものが一人分すらない。更に、グリゴリの方も二百人分の名簿と調書はあるが、それ以外の記録が一切存在していなかった。


「そうか……因みにラジエル。研究施設に連れて行かれる一部のグリゴリを目撃した者がいるのだが、何か事情を知っているか?」

「いいえ。それは初耳です」


 議会に所属する書記のラジエルは、それを知らなかった。と言うことは、会議で決められた移動ではなくアブディエルが独自に決め、裏で事を進めたということになる。しかも刑執行の記録が存在していないとなると、他のグリゴリの行方に一つの可能性が出てくる。

 アブディエルの独断も無視できないが、裁判記録が全く存在していない方も問題だった。類を見ない数の堕天判決の証拠を、どうやって紛失できるだろう。もしも、本当は存在したものを故意になかったものとしているのなら、強制的な調査をする必要性が出てくる。


「しかしルシファー様。何故調べろと仰ったのですか?」


 聞いてきたラジエルに、ルシファーは例の密書を見せた。情報漏洩の一歩手前の内容に目を通したラジエルは、鼻眼鏡をクイッと上げ眉頭を寄せる。


「こんなものが……」

「議会の内情を知る者が送って来ているのだと思うんだが、ラジエルではないんだな」

「オレではありません。書記のオレなんて、蚊帳の外同様ですから」

「じゃあ一体誰が……」

「それから」


 みんなで推理を始めようと思ったハビエルだが、他にも報告したいことがあるというラジエルの言葉に気を逸らされ、耳を傾けた。


「オレが管理しているヤダティ・アサフに映った人間界の未来のことで、気になることが」


 ヤダティ・アサフとは、人間界の歴史を保存するクリスタル型の記憶媒体だ。過去の出来事が記録されたり、予言能力を持つ天使が未来に起きることを読み取ると、それが自動的に提供され保存されるシステムとなっている。守秘レベルは最高基準なので、漏洩させない為に施設の管理はラジエル一人に任されている。

 気になることを説明しようとするラジエルだが、途端に難しい顔をする。


「時代としては、恐らく遥か未来を予言したものだと思います。人間同士の武力衝突がなくなり、豊かになった人間界に明らかな文明の進化が見受けられました。人間も様々な生業なりわいをしながら普通に生活しているのですが……うーん、何て言ったらいいんだ。守秘義務の所為で上手く説明できない」


 限られた言葉しか使えない条件に四苦八苦し、自分の表現力のなさと葛藤するラジエル。腕を組むと眉間に皺が寄った。


「豊かになったのなら、何も問題はないだろう。その未来の何が気になると言うのだ」

「何て言うか……現在の様子とはだいぶ違い、不自然と言いますか。違和感を覚えるのです」


 その時代ってもしかして、俺がいた時代にかなり近いんじゃ。でも違和感て……。

 話を聞いたハビエルはそう思うが、自分が生活をしていて、ラジエルが言うような違和感の類いには特に心当たりはない。既に過ぎ去った、生まれる前のことを言っているなら話は別だが、学校の社会科の授業を思い返してみても不自然な歴史の転換はなかった。現代も、違和感がある世界とは考えられない。


「現在との印象を比較すると雲泥の差もあるので、その所為なのかもしれませんが、オレにはそれが異質のような感じがして……」

「異質か……」

「すみません。漠然としか説明できなくて」

「いや。おかげで一つ繋がりそうだ」


 密書の『永続されれば、人間の未来に影響を与えるだろう』という文言が、その予言に関連しそうなことだと推測できた。

 果たして、どう関連するのだろうか。人間に悪影響が及ぼされ続けるのだろうか。異質や違和感は、その結果なのだろうか。いずれにせよ、実験を止める必要性が明白になってきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ