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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅳ
34/110

7




「そこで仲間を助けようとしなかったのか?」

「助けようと思いましたよ。結局できませんでしたけど。その為に、隙きを見て逃走したんです。僕は、シェムハザに会わなければならなかったから」

「何の為に?」

「彼を助けたいんです」

「君と彼は、ただの仲間じゃないのか」

「シェムハザは、僕の友達です」


 グリゴリの指導者シェムハザは、アザエルの良き友だった。彼は、神に贔屓ひいきされる人間があまり好きではないアザエルに、人間のいいところや面白いところを教えた。


「神の命令を無視して人間の娘たちと交わろうとした時、シェムハザは止めようとした。シェムハザも、人間の娘に恋心を抱いていたのに。でも、絶対にダメだと言って頑なに掟を守ろうとして、僕たちが行き過ぎた行動をしないように注意してくれてた。それなのに僕たちは、何も考えずに、身勝手に、軽率に、掟を破った」


 シェムハザは止めようとしていたが、それを聞かずにアザエルたちは罪を犯した。しかしシェムハザは、自分だけ罪から逃れようとはせず、捕縛された仲間を見捨てることなく共に捕まった。自分は罪は犯していないと声を大にして言えたのに、仲間に付き合って罰を受けた。仲間と共に罪を被ることで、リーダーの責務を果たしたのだ。


「彼は僕たちが巻き込んだんです。シェムハザは無罪だ。もし罪に問うのだとしたら、罰は軽くするべきなんです。僕は事実を裁判所に伝え、再審を求めたかった。せめてシェムハザだけでも助けたかった」


 訴えるアザエルは唇を噛んだ。

 大変な仕事を押し付けられたり、一度頼まれごとを安請け合いしたら便利屋と勘違いされたり、よく貧乏くじを引くシェムハザだったが、彼はいつも困りながら笑っていた。不憫な奴だとアザエルは思っていたが、シェムハザはわざと貧乏くじを引きにいっていたのだと、ある日気付いた。ただ楽観的に生きている自分が、恥ずかしくなった。


「シェムハザが愚かな僕と同じレッテルを貼られるなんて、僕が許せない。彼は僕なんかよりも存在価値がある。彼なら天界に貢献してくれる」


 自責の念がアザエルの身体中に行き渡り、頼れる相手を前に助けたい思いが溢れ出しそうになる。しかし、感情はギリギリで抑えられていた。アザエルの中の理性が、感情をコントロールしている。


「ルシファー様!貴方の権力ちからで、どうにかできませんか!僕の話を、議会に伝えてもらえませんか!シェムハザを助けられませんか!僕がシェムハザの分まで罪を背負いますから、何とかして今からでも無罪に……!」


 友を巻き込んだ後悔は、ひしひしと伝わってきた。本当に助けたいことも。ここにいる全員に、それは伝わった。特に、ハビエルの心には痛く刺さった。


「アザエル……」


 ルシファーはアザエルに、自分ができることを眼差しで伝えた。

 何もできないことしかできないことを伝えた。

 仲間の罪は、全体を指揮していた者が最も背負うのが道理。シェムハザに次いで責任ある立場なら、その職責はアザエルも理解している筈だ。それに、手遅れだ。一度下された判決は、覆らない。

 ルシファーの表情から心を読み取ったアザエルは、無念とする面持ちでまた唇を噛んだ。本当は理解していた。理性に言い聞かされても、罪悪感を少しでも拭いたくて縋ったのだった。


「……しかし何故、目撃したことを私に?誰かに会えば、突き出されるリスクを考えなかった訳ではないだろう。以前の私は、正しさに重きを置く立場だった。現議長か公安部に報告すると考えなかったのか」

「正しい人だと思ったからです。罪人の僕の話でも、正しさと逆の可能性を秘めている話なら聞いてくれるかもしれないと。勿論、捕まる覚悟もなく来てません」


 逃走中の罪人が堂々と姿を現すなど自殺行為でしかないのに、アザエルはそんなリスクを全く恐れていなかった。

 人間界の洞窟に隔離されていた間、自分が犯した罪で平穏が脅かされていく光景をその目で見て、事の重大さと、身勝手で愚かだったと後悔の念に駆られた。重ねてしまった罪を償うことは許されないと悟ったアザエルは、せめて、共に罪を背負ってくれた無実の友を助けたいと行動を起こした。罰を受けるなら、友を助けてから真摯に受けようと。


「君が見たことは私も引っかかる。一応気に留めておこう」


 ルシファーは、自分たちが調べていることは言わなかった。不用意に不確定情報を漏らせば、仲間がアブディエルの実験に関わっている可能性を示唆してしまうことになる。そうすればアザエルは、無謀な行動に出かねない。既に判決が下されている身だが、罪に罪を重ねることはないだろうと告げなかった。

 アザエルはお礼を言うと、ベッドから下りようとする。


「どうした」

「話はできたので行きます」

「怪我をしているだろう」

「これ以上居続けたら、ルシファー様にご迷惑がかかります。手当てして頂いて、ありがとうございました」


 アザエルは会釈をして出て行った。誰も引き止めたり、見送りに行ったりはしなかった。

 アザエルが大人しく出て行き、ハビエルは胸の内で安心する。ルシファーが、同情して協力したいと言い出さなくてよかったと思ったが、彼がこれから堕天するんだと思うと引き留めたくなった。

 去って行く後ろ姿が、ルシファーと重なってしまった。




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