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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅲ
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8




 本日の職務を終え、ハビエルは塔の二階の自室に戻って来た。

 勤仕用の部屋は、日本風に表現すると八畳程の広さだ。ベッドやクローゼット、一人用のテーブルと椅子があり、必要最低限の家具は揃っている。二階なので城壁の向こう側の景色も見られ、間借りしているよりは全然快適だった。

 ポットとティーカップもあるので自分でハーブティーを淹れ、椅子に座った。

 今日も収穫なしか……何だか、調査が永遠に終わらない気がしてるんだけど……これ意味あるのかな。この先にちゃんとゴール用意されてる?結局何もわかりませんでしたで終わらないか?それに、本当にこのまま探っていいのか心配なんだけど。


「まぁ。ルシファーが大丈夫だって言うなら、信じるだけだけどさ」


 と言うか、このままルシファーを信用してていいんだよな?危険人物っぽい雰囲気は全然しないし、善良な天使だと思う。それに恩人だから、頼られたなら力になりたい。

 そう。彼にとってルシファーは、再び夢を追いかける道を示してくれた恩人だった。

 悠仁は、周囲から人望を集める父親を尊敬していた。しかしその父親が高校三年生の時に病で急逝し、その影響で直後の大学受験を失敗した。一浪して進学できたが、当初希望していた学部は諦めた。

 受験失敗は悠仁から夢を叶える自信を奪い、抱いていた夢もやがて霞み、将来の展望が見えなくなっていた。人生の目標を見失った悠仁には、大学は社会へ出るまでの一時的な避難場所でしかなかった。

 ある時、失い欠けの夢や将来への不安を真人に打ち明けると、「今からでも目指せばいい。諦めるな」と励まされ、まだ道は残っているんだと気付いた。父親からも亡くなる直前に「諦めるな」と思いを受け取っていた悠仁は、尊敬する父親と同じ言葉で背中を押してくれた真人に感謝をしていた。

 だから、最初から興味がなかったルシファーの世間的な印象など全く気にせず、信じるに値するかなんて恩義から考えもしなかった。

 お茶を一口飲むと、窓外の緑溢れる景色を眺めながら考え事を始めた。

 俺はルシファーの「助けてほしい」を、「堕天から救ってほしい」ってことにした。でも、議会の実験の調査をするってなって、そのことなのかもしれないと考え直した。

 けど、調査しても謎だらけ。だから、実験がいいことなのか悪いことなのか判断ができない。最初からあった、ルシファーの疑念が思い過ごしという可能性も未だにある。それに、こんな大昔の実験のことにわざわざ関わらせるなんて考え難い。ぶっちゃけ、調査要因なら俺じゃなくてもいいんだし。

 そう考えると、俺がやるべきことは調査への協力じゃなくて、やっぱり堕天阻止なのかな……一番の危機はその筈だから、一回その方向で考えてみよう。

 今は天使だから、これから堕天することになるんだよな。一体何が原因なんだろう。そのあたりは知らないんだよなぁ。悪いことをしたんだろうな、くらいの認識しかない。でも今のところは、その要因になりそうなことはしてないよな。議会を辞めたことは因果関係がなさそうだし。現時点で要因になるとすれば、議会の実験を探ろうとしていることか。

 けどそれは、あの書状がきっかけで、敵対というよりも、危険性をはらんでいそうだから正否を問う為の行動だ。突き止めて問題にした時にアブディエルが大命の為だと主張したとしても、ルシファーがやめるべきだと言えば神が大命を取り下げて、実験が中止になる可能性もあるかもしれない。神が心変わりすれば、アブディエルがどんな理由を付けても実験の再開は多分されない。

 他に要因になりそうなことは………特に思い当たらないな。


「てことは、堕天フラグ立ってないじゃん」


 え?じゃあ何で堕天するんだ?要因がなきゃ、堕天のしようがないじゃないか。スマホがあったら検索できるのになぁ……あーでも、奇跡的にスマホを持ってたとしても、ネットっていう概念すら存在してないから無理なのか。

 誰か堕天になりそうなヒントを持ってないかなぁ。タイムマシンに乗って未来を見に行けたらいいのに。

 ……そうだ。未来を予言する天使がいたよな。どこまで未来を予言できるかはわからないけど、原因くらいわかるんじゃ?


「……ってダメじゃん!誓約があるから聞けないんだった」


 がっかりしたハビエルは一つ唸って、ハーブティーを啜る。

 ちょっと角度を変えて考えてみよう。そもそも、ルシファーの堕天は自分の意思なのか。それとも、何かしらの外的要因の影響なのか。

 ルシファーと言えば“悪の象徴”のイメージをしてたけど、実際は正反対だ。犯罪の「は」の字にも縁がなさそうな正義感のある人で、堕天なんて考えたこともなさそうだ。それを考えると、外的要因てことになるなのかな。

 外的要因……誰かの意図、はないかな。あるとしたら、偶然か何かの巡り合わせで堕天に繋がるとは知らずに何かに関わって、次第に堕天に近付いてしまった……かな?でも、直結する出来事なんてあるのかな。

 堕天するってことは、背信行為をするってことだろ。要因となる出来事に関わったとしても、ルシファーにそんな意志があるとは考えられないし。万が一そんな状況になるとしたら、神を敵に回さない限り……。

 ふと、行雲こううんが日の光を遮る。ハビエルの顔色が、雲が形を変えるように変化する。


「まさか、実験を探ってることがそうなのか?」


 アブディエルは、大命に関する実験をやっている可能性がある。議会は神の代弁者で代理人。議会を疑うことは、神を疑うことだ。実験を暴いてその結果議会の意向に反することになったら、その罰として……。

 そうだよ。最初からヤバそうだったんだよ。あの書状は無名で来ていた。それはきっと、情報を外部に流したのが議会にバレないようにする為。実験が危険を孕んでいるから、機密だけど情報を共有するべきだと判断して、無名で情報を流したんだ。

 公になっていないこんな内部情報を知っているのは、議員か研究員しかいない。けど、漏らしたことがバレたらヤバいことくらいわかってる筈。自分の危険も顧みないのは、それだけアブディエルがやっている実験は無視できない内容ってことだ。

 ……天界の最高機関が秘密裏に行う実験。それは、大命を果たす為のもの。内容次第では、ルシファーは止めるつもりでいる。大命を果たす為の実験だとしても、確実に。

 こっちが暴く前に向こうに悟られたら、必ず口封じをしてくる筈だ。でも、アブディエルが神の意志に反することだと判断すれば、口封じどころじゃすまない可能性がある。何かしらの罰が下される。それが堕天となるのかもしれない……。


「もう既に、堕天に一歩ずつ近付いてるのか……?」


 いやでも、これだけで?もし罪にできたとしても、これ一つだけで堕天させられるのか?確かに議会は、様々な権限は神と同等のレベルだ。だとしてもできるのか?しかもルシファーを。全ての天使からの信頼を集め、神に最も愛されている天使を。最も重い審判を、あの絶対的存在にそう簡単に下せるのか?


「流石にできない……よな。強引過ぎる気がするし。考え過ぎ、か……?」


 それに、もし裁判沙汰になったとしても、いくら権力があるとは言え、アブディエルの一存でルシファーを裁判にかけることはできないだろ。やっぱりそこの判断は、神に委ねられるんじゃないか?そうなれば、ルシファーは見逃される可能性が高いんじゃないかな。

 ……そうだよ。神がルシファーを見放すとは思えないし、勝手にルシファーを裁くなんて言ったらアブディエルが天罰を受けることになりそうだし。アブディエルもそれはわかってる筈だ。


「そうだ。そうだよな……やっぱり考え過ぎだな」


 口の中が渇いているのに気付いて、再びカップを傾けた。鼻から入るハーブの香りが、回転し過ぎた頭のブレーキをゆっくり踏んでくれる。

 取り敢えず、調査が堕天に繋がることも頭の隅に入れておいて、他に繋がりそうな原因がないか注意しておこう。

 俺しかルシファーの願いを知らない。だから俺が何とかしなきゃ。




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