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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
箱の園 Ⅲ
18/110

3




 三人は早速、段取りを立てた。実験の調査は、議会に気付かれないように進めなければならない。しかし、ルシファーが動くと嫌でも目立ってしまうので、ハビエルとベリエルが探ることになった。

 調査と言っても、直接、議員や研究施設の関係者に聞き込みをすれば、すぐにアブディエルに感付かれて目を付けられてしまう。なのでまず試しに、議会との関係が薄い上級天使に聞き込むことにし、下っ端組織の役所なら恐らく安全なラインだと踏んで、調査を始めた。

 ところが安全過ぎたのか、全員から首を横に振られた。情報は全く得られず、初動から躓いてしまった。ハビエルとベリエルは、仕方なく役所から退散する。


「と言うか。役所とは言え、俺たちが探ってることが議会に伝わりはしませんかね」

「多分大丈夫。“ルシファーの勤仕”は身分証であって、保証書でもあるから。誰にも言わないで下さいってお願いしたら、その通りにしてくれる。暫くは自由に動けるよ」

「ずっと安全じゃないんですか?」

「保証書にも有効期限があるかもしれないってこと。続けていれば、いつかは察知されると思う」


 家電製品やパスポートに保証される期間や有効期限があるのが当然のように、天界でも、例えバックにビッグネームがいてもその常識は覆らないらしい。“何事にも絶対はない”ということなのだろう。


「それじゃあ、悠長に調べてはいられませんね」


 目を付けられたらそこでアウト。大人しく家に戻って、利口にしていなければならない。しかしルシファーの為には、議会に悟られずにできるだけ聞き込みをしなければならない。

 でも、初日の状況がこれだからな……下手したら、議員しか知らないっていうパターンもあるかもしれないし。長丁場は確実だな。

 自分が天界にいられる間に全てが終わるだろうかと心配したが、果たして自分はいつまで天使のままで天界にいるのだろうと、胃が痛くなりそうなハビエルだった。


 その頃のルシファーだが。依然として送られて来る職務依頼の返事を書いていると、勤仕の二人は思っているだろうが、執務室どころか居館にすらいなかった。

 ルシファーは単独行動をしていた。向かったのは、七大天使アーク・シェヴァの所だ。ミカエルが議会に入ったことは耳にしていたので、彼が所属していた七大天使の仲間に何か情報が流れて来ていないかと思い訪れたのだ。

 因みに現在の七大天使たちは、一般の大天使たちとは違う待遇で周りからちやほやされているのをいいことに、グリゴリ事件でひと仕事した反動もあって怠惰期間に入っている。つまりニートだ。

 ルシファーは、そんな彼らを一人ずつ訪ねて回った。しかし、薬品の調合に夢中のラファエルも、フードを目深に被り鉢植えの花を見つめるウリエルも何も知らず、サリエルとレミエルからも同じ回答をもらった。ラグエルはあいにく不在で、話は聞けなかった。

 最後にガブリエルの居館を訪れて、話を聞いたが。


「興味ありません。七大天使を勝手に抜けた人のことなんか知りませんよ」

「そうか……」


 ミカエルの身勝手さに、苛立ちを見せていた。ルシファーへの冷ややかな対応を誤魔化せないくらい、本音を隠せていない。

 そう言えば、ミカエルとガブリエルはあまり仲がよくないんだった。

 以前ミカエルから、「ガブリエルと上手くいかない。歩み寄りたいが拒まれる」と悩みを聞いたのをルシファーは思い出した。どうもガブリエルが一方的に嫌っているようだが、その理由はわからない。

 ルシファーは、話を脱線させて嫌っている理由を聞いてみようかと思ったが、不機嫌な雰囲気が身近な人物に少し似ていたので触れないことにして、お茶だけ飲んでガブリエル邸を後にした。

 もしかしたらとささやかな期待を胸に足を運んだが、流石に情報漏洩はしていなかった。無駄足を踏んだルシファーは、寄り道せずに自分の居館に帰った。


 調査に出ていた二人も帰って来たので、報告を聞こうとした。ところが。


「行ったんですか。ボクが動かないでと言ったのに。リスクを考えずに」


 ハーブティーを出しかけたベリエルから、ルシファーは怒られた。ティーカップを受け取ろうとしたルシファーの手が、宙に浮いたままになる。本当はベリエルから、無闇に動かないでと念を押されていたのだ。なのにルシファーはその約束を破ったので、怒られるのは当たり前なのである。


「すまないと思ったんだが、言い出しっぺなのに報告を待つだけなのは申し訳ないと思ったんだ」

「言ったよね。ルシファーが目立つことしたら議会に気付かれるって」

「いやしかし。一回だけなら大丈夫じゃないか?ちゃんと口止めもしてきたし。フードを被って行ったし」

「甘い!七大天使も同じ場所に住んでるんだから、もしも実験の「じ」でもポロっと漏れたら、あっという間にアブディエル様の耳に入るんだよ?ルシファーだって気付かれなくても、誰かが探ってるって警戒されるんだよ?」

「七大天使は今やる気がないことで有名だから、実験のことにも興味ないだろうと思うが」

「楽天的!よくそんなんで統御議会の議長なんてできてたよね!もしかしてお飾りだったの?議会って傀儡かいらい政治だった訳?」


 ベリエル、ちょっと言い過ぎだろ。

 ルシファーを庇いたいところだが、怒りの矛先が変わるのを恐れたハビエルは、主従関係が逆転したやり取りをただ静観することに徹した。


「議会は傀儡じゃないし、責任を持って職務をこなしていたよ。それよりお茶……」


 ルシファーの手は、ずっと宙で固定されている。心身を潤わせたいと要求すると、ベリエルは槍でも飛ばしそうな目をする。


「これまでボクの口が取れるくらい言ってるし、貴方の耳も腐る程聞いてる筈だけど、重ねて言うよ。貴方は自分の立場をもっと自覚して。天界の全員に注目されてるんだから、常識的で模範となる行動を意識して。この機会にそれを身体に刷り込んでもらえないなら……位階を無視して強行に出るから」

「肝に銘じておく」


 ルシファーは一応反省の色を見せるが、ベリエルの眉間の皺は刻まれたまま。惜しくも相互理解とはならなかったが、宙に留まっていたティーカップはルシファーの手に渡った。

 一部始終を見ていたハビエルは、やっぱり立場が逆転することが不思議でしょうがない。けれど、ルシファーが抵抗なくナチュラルに、しかも何気に適当にかわしながら言い合っているのを見て、このやり取りが長い間続いていることは窺えた。

 友達みたいに仲が良いんだな……。




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