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オルネフォルの軌跡【改稿版】  作者: はづき愛依
祝福の園 Ⅲ
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8




 悠仁たちはアラボトを去った。

 計画の黒幕の処遇については、心神喪失状態のメタトロンには精神鑑定が必要だという意見がミカエルから上がり、神の側用人ということもあって、裁判にかけるかは一旦保留されることとなった。邪天使エンヴィルスについては、製造を指示したアブディエルが責任を持って対処すると宣言した。


 アラボトを後にした一同がゼブルに戻ると、アブディエルが速やかな手続きをすませ、ルシファーの再審公判が行われることとなった。

 ミカエルが被告側の弁護人として立ち、アブディエルはアスタロトを従えて原告側に立った。悠仁には、普段は設けられていない傍聴席が柵を隔てて用意され、特別に一部始終を見届けることが許された。

 法壇の中央に、裁判長のザフキエルが着席する。従来なら、裁判長の両脇に裁判官が座り書記官もいるが、この裁判は非公式かつ極秘である為、裁判長のみが出席することとなった。ルシファーが天界にいることは、ここにいる者以外は誰も知らないので、混乱を与えない為だ。

 そして、最後の役者にして主役が法廷に立つ。拘束具もなく手足が自由の状態で、ルシファーは二度目の証言台に立った。

 前方と左右の高窓からスポットライトのように外光が射し込み、真っ白い壁と天井がルシファーを囲む。それは、栄光の再来を求めた者たちの幻想の光。彼に希望を抱き、彼の身の潔白を示したかった者たちの幻想の色。

 必要な人物が揃ったことを確認すると、裁判長のザフキエルが宣言する。


「これより、開廷します」


 ルシファーの再審公判が、静かに始まった。


「まず。原告側から、改めて追及すべきことがあると伺っております。被告側の弁護人ミカエル。先に弁護しなくても宜しいですか?」

「構いません」

「わかりました。では、原告、統御議会議長アブディエル。どうぞ話して下さい」


 原告席にいたアブディエルは、証言台のルシファーの正面まで移動した。今はもう詰問するつもりはないが、統御議会議長として、隠匿いんとくされ続けてきた真実を明るみに引き出すべく、質問を始めた。


「先程も話しましたが、貴方は人間と交わった罪を犯しておきながらそれを隠蔽いんぺいしていた。最初の裁判で私がそれを問い質した際、動機こそ黙秘したものの、貴方は堕天を受け入れるかたちで罪を認めた。しかし貴方は、あの大罪に関する重要な何かを隠している。黙秘がそれを証明している……違いますか」

「………」


 質問されたルシファーは、口を開かなかった。全てを話す覚悟で立ったつもりだが、逡巡しゅんじゅんしているように見えた。

 法廷内が、呼吸音が聞こえそうな程に静まり返る。大罪隠蔽の真実を知りたい悠仁とミカエルは、傍聴席と被告席で固唾を飲んで静かに見守る。沈黙の時間が、抵牾もどかしく思えた。


「いつまで黙っているつもりですか。貴方は何の為にここにいるのです」


 口を割らないルシファーに対し、要求に応えるようアブディエルは迫る。


「貴方が沈黙を守るなら、私から言いましょうか。三つ目の証拠を」

「待て……私が言う」


 アブディエルの口から暴かれるのをはばかられたルシファーは、ようやくその口を開いた。


「……最初から、順に話そう」


 とうとう、罪の懺悔ざんげの時間が始まった。ルシファーは当時を想起しながら、ゆっくりと話し始めた。


「私が大罪を犯すきっかけは、アスタロトだった。

 ある日、彼が私の元を訪ねて来て、人間との間に子供を作ってほしいと突然言われた。子孫を残せば、未来で私だけでなく多くの命を助けてくれると。未来で何が起きるのかは誓約があり聞けなかったが、知らぬ未来の為に大罪を犯すなど統御議会議長の身としてできる筈がないと、一度は拒絶した。だが、予言の天使の助言を無視していいものかと熟考し、予言には必ず意味があると信じた私は、グリゴリたちに紛れ、アスタロトの助言の通りにした。

 私が選んだ人間がどんな容姿の女性だったかは、もう覚えていない。その人間には、私が付けていたブレスレットを渡した。アスタロトから事前に、人間と天使との間に生まれる子供は、全ての人間を滅ぼしかねない危険な存在になると聞いていたから、霊的な力が身体に影響しないようにまじないをかけたものだ。生まれてくる子供に付け絶対に外させてはならないと言い、子孫の子供にも付けさせ受け継がせるよう言った」


 ルシファーは助言の通りにしたが、流石に証拠を残しておく訳にはいかなかった。だから、子供を生ませた人間の記憶を一部改竄し、ヤダティ・アサフを管理するラジエルと、念の為にアスタロトにも口止めをした。

 その後、神が大洪水を起こすと知ったルシファーは、交わった人間に子供だけでも助けよと夢枕で告げ、その子供はノアの一族以外で唯一、方舟に乗せられた。


「間接的に人間界に介入した私は、血を分けた子供に関わるつもりはなかった。だからその後、血筋が続いたのかどうかも全く知らなかった。それから永い年月を経て、人間界で一人の人間に出会った。それが悠仁だ。私は彼に出会った瞬間から、不思議な感覚を覚えた。その原因は、すぐにわかった。あのブレスレットを見て」


 心臓が急に大きく脈打った。悠仁は、ブレスレットを付けた左手首を握った。怖かった。


「やはり。と言うことは、菅原悠仁は……」

「悠仁は」


 ルシファーは一度固く口を結び、


「……私の子孫だ」


 秘密を明らかにした。悠仁の秘密を。

 方舟に乗せられ大洪水を生き延びた子供は、子孫を残し、その後も血統は受け継がれた。悠仁は、その直系の末裔だった。

 暴露された事実に、ミカエルは言葉を失った。悠仁は衝撃のあまり、漠然と驚いた。




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