第九十八話 追放とゴーレムの救出
ドォォン!!
地響きとともに、キメラの巨大な体が倒れる。
ドラゴンをはじめ、全ての融合されたモンスターが戦闘不能になれば、二度と立ち上がることは不可能。完全に生命活動が停止している。
体の上にゴーレムが立っている。
キメラが死に、ゴーレムが生きている。
俺たちの勝利が確定した。
グリーズマンは学園を追放される。
新入りの庶民に負けたとあっては、誰からも尊敬を受けるはずがない。
さらばだ、グリーズマン。
「……ああ…嘘だ…。これは夢に違いない……」
グリーズマンの髪が白くなっている。両手を地面についたまま起き上がれない。
その姿は絶望した老人そのものである。若々しかった以前などどこにもない。
学園を追放される。それはグリーズマンにとっては、死よりもつらいことかもしれない。
もし嫌がらせなどを命令しなかったら。
もしアレックスを見捨てなかったら。
もし高い技術力をきちんと戦いに生かせていたら。
こんな結末にはならなかっただろう。
だが、過去は変えられず、勝者が敗者にかける言葉もない。
対決に負けても、命までは取られない。
再起できるかどうかは、グリーズマンの努力しだいである
高い技術はあるのだ。食うに困るようなことはあるまい。
「や、やった! 勝ちましたよ、ご主人様!!」
ソフィーナが抱きついてくる。
あいかわらず軽い。無理やり引きはがす。大勢の教授の前で抱き着くとか、誤解されるだろ。
少しだけソフィーナが不満な表情をするが、かまうものか。
俺はソフィーナに笑いかける。
抱き着かれるのは困るが、ソフィーナに感謝の言葉をいわなければならない。もちろん俺だって勝利は 嬉しい。ダンジョン制覇のためには学園の教授でいることが必要だ。
なんにせよ、努力が報われる瞬間というものは、とても良いものだった。
「君のおかげだ。ありがとう」
「そ、そんな私なんてとても……」
「いや、間違いなく君の存在こそが勝利への鍵だった」
俺1人では対決に勝てなかったに違いない。
ゴーレム単体で戦う制約上、俺の腕だけでは限界がある。ソフィーナのスキルを最大限に生かしたからこそ勝つことができた。
まさかゴーレムが俺の戦略すらも超えてくるとは。意思があるということは、これまでのゴーレムとは根本的に異なる性能を獲得するということ。
可能性は無限大。
これからどう発展していくのか、楽しみであり、責任も感じる。
なんにしろ、俺たちは学園で生きていく権利を勝ち取ったのだった。
それに本当に価値があるかは、これからわかるだろう。
その時、キメラのそばにいたゴーレムが膝をついた。
土の体が少しずつ崩れていく。崩壊を食い止めるべき魔法陣はすでに壊れている。
「……まずいな。ソフィーナ行くぞ!」
「え!? え!?」
ソフィーナの体を抱える。
こうなってはもう、誤解などとはいってられない。急いでゴーレムの元へ行かなくては。
闘技場に飛び降りる。
対決が終わったからなのだろうか、何に抵抗も感じない。
「ふわっ!?」
地面に落ちた衝撃でソフィーナが悲鳴をあげる。
悪いな。後で埋め合わせをしよう。今は心配しているだけの余裕がない。
ソフィーナを抱えたまま、全力でゴーレムに向かって走る。
疲れているが、最後だ。間に合わなかったら一生後悔することになるだろう。
ゴーレムは無理をしすぎた。
限界を超える力を出せば、体が崩壊するのは当たり前のことだ。もっと早く気がつくべきだった。ゴーレムを開発したのは俺自身なのだから。
ゴーレムの体が崩れきる前に、ソフィーナに意思を回収させるしかない。
完全に粉々になってしまっては、宿った意思も消えてしまう。意思自体はいくらでも作れるが、対決の記憶を持った意思は1つしか存在しない。
回収しなければ、永遠に再開できなくなる。人間の死と同じような状態である。
俺はゴーレムとは道具だと考えている。
場合によっては、使い捨てにするのもしかたがないことだ。
それでも今消えてしまうのだけは許さない。
この場での消滅など無意味だからだ。
自分勝手だろうか? まったくその通り。自分でもそう思う。
「ソフィーナ! スキルの準備をしろ!!」
「は、はい!」
ゴーレムの手足が崩れ落ち、体が人型をとどめていられなくなる。
もって、あと数秒。こんな時でもゴーレムは淡々と状況を受け入れているようにみえる。
俺との激しい特訓でもそうだったように。
間に合うか。
いや間に合わせてみせる。
ソフィーナがゴーレムに向かって手を伸ばす。
崩れきる前に手が届けば、意思を回収できる。
祈るなんて、まったくもって冒険者らしくない。
俺はソフィーナを抱えたまま、ゴーレムに向かって飛びついた。
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