第九十七話 対決の終わり
グリーズマンが逆転するための時間が切れた。
残酷なほどにグリーズマンの限界がみえていた。
研究者としては有能なのかもしれないが、魔法生物の指揮官としては無能であった。20分の間、ゴーレムの意表をつく戦略を出せなかったのだ。
キメラは倒れてこそいなかったが、弱り切っている。
血を流しすぎて、攻撃力が弱まっている。魔力も残り少ないだろう。すでにどんな策を使おうが、逆転は不可能である。
対決は終わった。
俺たちの勝利だ。
「もう終わりだ。降参しろ」
これ以上の戦いは無意味であった。
俺たちの勝利は確定している。続けてもキメラが痛めつけられるだけだ。完全に息の根を止めるまでゴーレムは攻撃をしつづけるだろう。
グリーズマンに奥の手はない。
あったのなら、とっくに使っているだろう。
少しでも自分の魔法生物に愛着があるならば降参するべきだ。
「降参だと!? この私が……庶民に……」
グリーズマンは屈辱に震えている。
その姿はとても大貴族とは思えない。貴族としての威厳を失い、敗者そのものであった。
無能ではあるが、頭はそれなりに回る。自分でも逆転が不可能であることを理解しているはずだ。
「ふざけるな。私は貴族だ。学園の教授だぞ……」
「関係ないな」
俺はグリーズマンの言葉を切って捨てる。
「純粋な戦いでは強い人間が勝ち、弱い人間が負ける。貴族も権力も関係ない」
戦いが始まる前ならば意味はあった。
権力は戦いの勝敗を決めることはできないが、有利にすることはできる。現にグリーズマンは戦いが始まる前に色々な手を打ってきた。
権力がない俺たちには打てる手はなかった。対決のためにゴーレムの性能を磨くしかできなかった。
ところが、実際に戦いが始まってしまえば、強いものだけが生き残る。
それだけは貴族が支配する学園でも変わらないのだった。弱肉強食。貴族のプライドなど何の役にも立たない。
今もゴーレムがキメラを削り続けている。
もはや戦いですらない。残酷な光景であった。
「……ふざけるな……ふざけるな……。」
グリーズマンは学園から追放される。
積み上げてきた全てを失う。負けを認めることなどできないのかもしれない。
俺は小さく息を吐く。
キメラの息の根を止めるまでやるしかないか。
「ふざけるな!!」
突然、グリーズマンが顔を上げた。
目には暗い情熱が宿っている。
「私がお前ごときに負けるはずがない! キメラァァ! 自爆しろ!!」
「……なに!?」
馬鹿な。
自爆だと。
キメラの体が赤く発光していく。
ここまで熱が届いてくる。グリーズマンのいったことは嘘ではなさそうだ。
自爆など負け犬の戦略である。
戦いに勝つためには不要な機能だ。
今回の対決のルール。敵を道ずれにすること前提に、魔法生物を開発する人間などいない。と、思っていた。
まさか戦いに不要な機能までつけているとは。
余計な機能をつければ、戦闘能力は落ちる。改造されたモンスターが弱かった理由がここにもあった。
一瞬、迷う。
俺はゴーレムに指示を与えるべきだろうか。
一度、完全にまかせると決めた。予想外の事態が起きたからといって、それを破るのか。いや、相手が自爆に対する訓練などしていない。
そもそも指示を与えたとして、間に合うのか。キメラは今にも自爆しそうだ。
どうする? どうすればいい?
気がつけばゴーレムがキメラに向かって走り出していた。
これまでの逃げ回るような動きとは違う。力強い走り方であった。
こんな走り方、訓練では教えていない。
キメラが自爆すれば、ゴーレムに逃げ場はない。
生き残ろうとする本能がゴーレムを動かしているのか。
ゴーレムはキメラの体に乗ると、ドラゴンの首へ向かう。
足元が燃えている。だが、ゴーレムは気にするそぶりもない。
手に持ったオリハルコンの剣でドラゴンの首を斬りつける。
太い首は簡単には切断できない。もともとゴーレムはあまり力がないのだ。
それでも少しずつ剣が進んでいく。
限界を超えた力を出しているため、ゴーレムの魔法陣が砕けていく。
その姿はおとぎ話で、勇者がドラゴンを倒す時のようだ。
自爆する前にキメラを倒せるか。
ゴーレムの行動は完全に俺の戦略を超えていた。
教えていないことでも自分で考えることができる。自分で考えて、自分の性能以上の力を引き出せる。
これがソフィーナのスキルの本当の力。
ベキリッ!!
ついにゴーレムがドラゴンの首を斬り落とした。
会場の誰もが息を飲んでいる。
観戦していた歴戦の教授たちでさえ、感嘆の声をもらしている。
新しい魔法生物の姿がそこにはあった。
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