第九十三話 魔法生物同士の対決はじまる
「ガアアアアアアアアア!!」
ドラゴンを基本にさまざまなモンスター融合した怪物、キメラが咆哮を上げる。
地面が揺れるような音量である。
叫びを聞いただけで、戦いに慣れてない人間ならば、戦意をなくしてもおかしくない。
全体の形としてはドラゴンの体を基本に、色々なモンスターが体にくっついているような形だ。みただけで吐き気を感じるような醜い姿である。
ドラゴンよりは素早さは減っているが、その分攻撃の種類は増えている。
もともとドラゴンにとって速さは武器ではない。速さを捨て、攻撃の多様化で勝負する。見た目が醜悪なのを除けば、悪くない選択肢ではあった。
もしここが民間の闘技場ならば、観客が大歓声をあげる場面である。
学園では歓声はない。みているのは教授たちである。静かに俺たちの対決を観察している。
「ハハッ。どうだ私のモンスターは! お前のゴーレムなど相手にならんぞ!!」
「確かに、素晴らしい技術だな」
敵味方の立場を超えて、素直に賞賛の言葉が出た。
どんなクソ野郎の技術だろうが、素晴らしいものは素晴らしい。
ドラゴンを使役するだけでもすごい技術である。
それに加えて、生きたままモンスター同士を融合させるとは。
専門分野が異なる俺では想像もできない。どんな魔法陣を使っているのか。
学園の教授として、長年研究をしてきた成果に違いない。
もしここが技術だけを評価する場だったら、俺たちは絶対に勝てなかっただろう。
グリーズマンが権力争いにかかわらず、研究に専念していたら。今ごろ世の中を変えるような技術が完成していたかもしれない。
「だが、勝敗を決めるのは対決そのものだ。強い方が勝者となる」
もともと俺たちは技術の高さでは勝負をしていない。
ゴーレムは低い技術でも作れるところに最大の魅力がある。開発を始めたころから、高い技術を使ったことなど一度もない。
いつだって、新しい発想で勝負してきた。
「当たり前だろう!! 私のモンスターは無敵だ! お前ごときに負けるはずがない!」
戦いの素人からみればそうだろう。
グリーズマンのキメラは俺たちのゴーレムより10倍以上大きい。さまざまなモンスターが融合し、みるものを圧倒する。
素人からみたら、大人と子供ぐらいの差があるように感じられるのも無理はない。
だが、本当にそうだろうか?
「ソフィーナ。いい機会だから、おぼえておくといい」
「な、なんのことですか!? それよりもあのモンスターが……」
「高い技術が、そのまま高い戦闘力になるとは限らないということを」
ドラゴンにさまざまなモンスターを融合したキメラ。
はたして本当に元のドラゴンよりも強いのだろうか?
モンスターの形状とは、長い間の殺し合いの結果として決まったものである。無理やり能力を追加して、本当に強くなるのだろうか。
能力を付け加えまくれば強くなるというのは、戦いの素人の発想である。
なによりも、俺の冒険者としての勘が、あのモンスターは強くないと告げている。
「なにをごちゃごちゃといっている! もうこんな茶番に付き合うのは、もううんざりだ!! さっさと終わらせてやる!」
茶番か。
まさしくその通り。
学園の権力争いなど、俺にとっては茶番にしかみえない。
もし魔法生物同士の対決さえも茶番にみえるならば、研究者としてグリーズマンは終わっている。
ここにいるのは天才の燃え残りにすぎない。
「ああ、そうだな。決着をつけようか」
勝った者だけが次の夢をみることができる。
命はかかっていないが、紛れもない真剣勝負だ。
合図もなく、対決は始まった。
「やれ!! 一撃でゴーレムを消し飛ばしてやれ!!」
グリーズマンが大声でモンスターに向けて指示を出す。
キメラの頭脳は、普通のモンスター並のようだ。グリーズマンの指示を聞くだけ。
体は巨大だが、知能などは存在しないようだ。
このことはグリーズマンが特別劣っているというわけではない。
普通の魔法生物は知能を持たない。俺たちのゴーレムが特別なだけだ。
俺は……ゴーレムに対して何も指示をしない。
全てをゴーレムに任せている。俺の指示など雑音に過ぎないのだ。
ゴーレムが後ろに飛びのく。
まずは攻撃を避けることから戦略は組み立てられている。距離をとって、攻撃を避けられる態勢をとるつもりだ。
「もう遅いわ! キメラよ! 最大出力のブレスだ!!」
キメラの口が輝く。
次の瞬間、激しい炎を吐きだした。
普通の人間が触れたら燃えるどころか、蒸発しかねない炎だ。
しかも広範囲。魔法生物が戦うスペース、半分ほどを焼き焦がしている。すさまじい威力であった。
もしかしたらブレスだけは、本家のドラゴンを超えているのかもしれない。
「ハハッ。どうだ! お前のゴーレムなど、私のキメラの敵ではなかったな!!」
「よくみろよ。俺たちのゴーレムは無傷だぞ? 戦いはこれからだ、最初の一撃で勝とうなどとは甘すぎる」
「なにっ!?」
辛うじて……だが、ゴーレムはブレスの範囲を逃れていた。
ゴーレムには動揺はない。感情なく俺の作った戦略を遂行する。
この時点で、俺の戦略がキメラに通用することを確信する。
少なくとも無様に負けることはなさそうだ。
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