第九十二話 相手の魔法生物
学園に到着すると、ナタリアが待っていた。
たった一人でだけある。
他には誰もいない。このことは学園内での味方がほとんどいないことを意味している。
俺たちは嫌われている……どころか、無視されるような存在である。
「ふむ。お疲れのようですね。まったく連絡がなかったので、逃げ出した可能性も考えていたところです」
「逃げるはずがないだろ」
逃げたところで全てを失うだけだ。
俺たちは十分な勝機を持って、この場に立っている。
現状で持ちうる開発力をこのゴーレムには詰め込んである。
チラリとナタリアがゴーレムをみる。
全身が茶色のゴーレムは嫌でも目立ってしまう。
「対決の場へと案内しましょう。私に付いてきてください」
だが、ゴーレムには言及せずにナタリアは歩き出す。
ナタリアはゴーレムに関して知識がないらしい。まあ、学園で研究されている知識は膨大な量にのぼる。
ゴーレムを研究している人間は少ない違いない。いちいちおぼえてられないのも理解はできる。
あるいは中立でいなければならない宿命ゆえか。
ナタリアは多少の肩入れはしてくれるものの、完全に味方ではない。
中立であることこそ、ナタリアの学園内での生命線であった。それを破って俺たちの味方になってくれなどいえるはずもない。
学園内の様子は以前と変わらない。
俺とグリーズマンの対決程度では、一般の学生や職員の興味を引くまでにはいたらないのだ。あるいは魔法生物での対決自体がひんぱんに行われていて、慣れきっている可能性もある。
「あの……私たちは勝てるのでしょうか?」
歩きながら心配そうにソフィーナが聞いてくる。
誰だって対決の前には恐ろしくなるものだ。ましてやソフィーナにとっては、はじめての経験である。
「絶対に勝てる……といいたいとこだが、戦いに絶対はない。負ける覚悟もしておいてくれ」
俺たちは最善をつくした。
用意した戦略も取り得る選択肢の中では最高だという自信もある。
それでも最善をつくしても負ける時は負けるのだ。
「ソフィーナ。君は俺が考えた戦略の欠点がわかるか?」
「ええ!? じゃ、弱点があるのですか!?」
ある。
致命的になりかねない欠点が。
それでもこの戦略を選ばざるを得なかった。戦いとは賭けの連続である。ゴーレムで戦う今回の対決でも同じだ。
「どんな戦略にも欠点はある。例えば今回の俺たちの……」
「この建物があなた方の対決する場所です」
話の途中でナタリアがさえぎった。
対決の舞台へ到着したらしい。
魔法生物を対決させるためだけの専用の建物があるとは恐れ入る。
基本的な構造は闘技場と一緒だ。中心に魔法生物が戦う広い領域があり、周囲には観客席がある。ただし観客席は小さい。この対決は見世物ではないからだ。
二つだけ目立つ席がある。
魔法生物を開発した人間が座る席のようだ。
「健闘を祈りますよ」
ナタリアが去っていく。
俺たちの味方にはなれないナタリアの精一杯の声援だった。
ありがたく受け取っておこう。
「ゴーレムは戦う場所へと降りてくれ。ソフィーナ、行こうか」
ゴーレムは軽やかに戦う場所へと飛び降りた。
性能的には特に問題ないようだ。人間とは違い、恐れの感情もない。
これならば持っている力を十分に発揮できそうだ。後ろ姿には頼もしささえ感じる。
「……あ…ああ…」
歩きだしたソフィーナが転びそうになる。
とっさに手を掴む。わずかに震えている。とても緊張しているようだ。
戦略に欠点があるなど、よけいなことを口に出してしまったか。
「ここまできたら、俺たちにできることなどない。一緒にゴーレムを信じよう」
「は、はい!」
ゴーレムに対していっさいの指示を出すつもりはなかった。
指示を出した分だけ、ゴーレムの反応が遅れる。判断の早さこそが、最大の武器だ。これだけはグリーズマンの魔法生物を超えているだろうと断言できる。
俺たちは対戦者用の席につく。
もはや1人の観客としてゴーレムの戦いを見守るしかない。
学園の理事や教授たちが対決を待っている。
興奮している様子はない。静かだ。
対決を楽しむというより、敵を偵察しているような雰囲気であった。
実際にいずれこの中の何人かと戦う可能性もあるのだ。
対戦相手のグリーズマンも会場へ入ってきた。
あいかわらず完璧なる貴族の格好である。
疲れた様子はみられない。魔法生物の開発も部下まかせだったのか。学園からの追放がかかっているのに、ずいぶんな余裕である。
俺のゴーレムをみるなり、馬鹿にしたように笑う。
「ふんっ。なんだその小さなゴーレムは。その程度で私のモンスターに勝てると思っているのか?」
確かに俺たちゴーレムは小さくはある。人間の1.5倍くらいの大きさだ。
全身が茶色の土の塊で、手にオリハルコンの剣を持っている。強そうにはみえないかもしれない。
それでも見た目では想像もできないほどの技術と工夫が敷き詰められている。むしろ軽くみてくれるならば、好都合だ。
「対決がはじまれば、すぐにわかるさ」
「戦うまでもない! みせてやろう! 私の最強モンスターを!!」
魔法生物が戦う場所にある扉が開き、巨大なモンスターが入ってくる。
俺たちのゴーレムの10倍以上の大きさがある。
ドラゴンか?
いや、違う。
「なんだ。あれは」
基本はドラゴンだ。
ドラゴンの首も手足もある。だが他のモンスターの部分がある。
ゴブリンに、サラマンダーに、中級から上級までさまざまなモンスター。全体としてグロテスクな丸い塊となっている。
「ハッハッハ。みたか! 恐れろ!! なんならこの場で棄権してもかまわないぞ!」
なるほど。モンスター同士を生きたまま融合したのか。
モンスターの改造とは、こういうことか。
さすがは学園だ。こんな技術は聞いたこともない。使役するだけはなかったのか。
俺たちのゴーレムが進化しているように、敵の技術力も進化している。
だからこそ技術開発に終わりは存在しないのだ。
グリーズマンはすでに勝利したかのように胸をそらせる。
「これこそが私が開発した最強の魔法生物!! キメラだ!!」
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