第九十一話 対決の日
ついに対決の日がきた。
もう俺たちにできることはない。
新しいゴーレムの戦いを見守るだけだ。
用意した戦略が本当に通用するのか。
その答えがもうすぐ出ることになる。
「俺たちの役目は終わりだな。幸運を祈っているぜ」
魔術師たちのリーダーが最後のあいさつをしてくる。部下たちも勢ぞろいしている。
彼らはイザベラに雇われただけだ。学園とは何の関係もない。グリーズマンとの対決に付き合う義理もない。
「まさか、100体以上のゴーレムの体に魔法陣を書くことになろうとはな。しかもたった2日で……だ。無茶な要求をする客だったぜ」
そうはいいながらも、男たちの表情は明るい。
仕事を終えた時の充実感を漂わせている。
「すまない。あなた達がいたからこそ、新しいゴーレムを完成することができた」
「ハハッ。謝るなよ。こっちも仕事でやっているんだ。大金ももらっているしな」
リーダーの男は俺の隣に立っているゴーレムをみる。
「しかし、性能はともかく、新しい。魔法生物の素人からみても、可能性を感じさせるとは。しかもこれが量産できるんだろ? 商品になったら、滅茶苦茶に売れそうじゃないか」
商品には……なれないかもしれない。
あくまでこのゴーレムは、ソフィーナのスキルがあってこそ。量産などできそうにない。
とはいえ、普通の労働用ゴーレムに応用できそうな知識をいくつも得られた。特に魔法陣を勉強できたことは、今後の役に立つだろう。
「また仕事に呼んでくれよ。あんたと関われば金が稼げそうだ」
金を持っているのは、俺ではなく、イザベラなのだが。
まあいい。俺としてもまだまだ魔法陣を勉強しなければならない。彼らの技術を盗ませてもらおう。
「そうさせてもらおう。あと、アレックスは起こさないでくれ」
アレックスはまだ寝ている。
無理もない。何日も徹夜したあげく、朝方まで起きていたのだ。これまでの疲れが一気にでたに違いない。
いや、アレックスの場合は寝ないではなく、寝られなかったのに近いものがあったが。
「いいのか? 仲間だろう?」
「かつての恩師と戦うのは苦しいだろう。アレックスはグリーズマンとの対決に立ち会わないほうがいい」
アレックスがいようがいまいが、もっというと俺がいようといまいが、対決の結果は変わらない。
ならば寝ているうちに全てを終わらせる方がいい。無駄に苦しむことはない。
「……そうか。それでいいなら、あんたにまかせるよ。俺たちは掃除もしてから、帰らなくてはならないからな。兄ちゃんが起きるまで付き添っていてやるよ」
ゴーレムの特訓のおかげで建物の周囲は荒れまくっている。
「土操作」スキルを使いまくったからな。まるで巨大なモンスターが暴れたかのような惨状となっている。
修理しようにも疲れ果てて、うまくスキルが発動さえできなくなっている。
ここまで疲れたのはいつ以来か。思い出せないくらいだ。
「頼む。アレックスが起きたら、連れて行かなかった理由を伝えてくれ」
「ああ、いいぜ。その代わり勝てよ! これだけ苦労した仕事が無駄だったとは思いたくはない」
「まかせておけ」
俺たちは固く握手をした。
辺境の街でも感じたが、共にゴーレムを開発した人間とは特別な絆が生まれる。
仲間になったとさえ表現できるほどに。
今日もいい天気だった。
森の清浄な空気が周囲を包んでいる。
俺とソフィーナは学園へ向かって歩いている。
ゴーレムは静かに後ろについてきている。これから戦うとは思えないほど落ち着いている。対決のことを理解しているはずなのに。
緊張するという感情自体がないのか、それとも単に度胸があるからなのか。
ソフィーナも疲れた表情をしている。
十分に睡眠時間を取っていても、生まれてはじめてゴーレム開発に関わったのだ。負けられない圧力もあるだろうし、疲れないはずがない。
「ソフィーナ。その、調子はどうだ?」
「調子……とは?」
ソフィーナが首をかしげる。
いかん。聞き方を間違えたらしい。
頭を振って意識をはっきりさせる。
直接戦わずとも、グリーズマンが卑怯な手を打ってくる可能性もある。気を抜いてはならない。
「王都にきてから環境が変わっただろう? 君の住んでいた街とは何もかも違う。困ったことがあれば、俺にいってくれ。できることはするつもりだ」
「対決の前にする質問ではないですね」
クスリと、ソフィーナは笑う。
人生をかけた対決の前とは思えないほど、穏やかな時間が流れている。
少し考えて、答える。
「そうですね。戸惑うことも多いですけど、今はそれさえも楽しいです。少しだけ、生きていてよかったと思います。たぶん、ご主人様と一緒だからでしょう」
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