第九十話 自立型ゴーレム開発 九日目後半
窓から朝日が差し込んでいる。もうすぐ夜が明けるだろう。
夜が明ければ、グリーズマンとの対決がはじまる。
負けた方は学園を去ることになる。絶対に負けるわけにはいかない。
すでに自立型ゴーレムの開発は終わっていた。
できることはもうない。あとは待つだけだ。
対決が始まってしまえば、俺たち人間はゴーレムの戦いを見守ることしかできない。
「ノエルさんも眠れないのですか?」
アレックスが近づいてきた。
元々青白かった顔色は、疲労でさらに白くなっている。まるで病人だ。いつ倒れてもおかしくないようにみえる。
「ここまで徹夜が続くと、逆に眠くならないものさ。休むのなら、対決が終わってからいくらでもできる」
「強いのですね」
というよりもアレックスがひ弱すぎる気がする。学園の中で暮らしていると、戦う機会も体を鍛える機会もないに等しいだろう。
その分、頭脳は優秀である。さすが学園の職員は基礎学力が違う。魔術陣を書き込む時も、グリーズマンの情報を与えてくれた時も大きな助けになってくれた。
「僕なんてノエルさんに渡した情報が本当に正しいのか、不安で不安で。体は疲れていても。どうしても眠れないのです」
「君がグリーズマンとの対決を心配する必要はないぞ」
「……え?」
俺たちがグリーズマンとの対決に勝っても負けても、アレックスは学園には戻れない。
一度追放されたら、二度と同じところには戻れないのだ。
俺が元パーティーに戻れなかった時のように。
ましてや学園はこの国最大の教育機関。個人だった元パーティーとは規模が違う。さらに俺たちが許したとはいえ、嫌がらせをしたのも事実であった。
アレックスは学園とは違うところで、少しずつ見返していくしかないのだ。
「君が心配するべきなのは、イザベラの部下としてやっていけるかどうかだ」
「……そうですね。僕は商人としてやっていけるでしょうか?」
「さあな。俺は商人について、まったく知らないから」
商人への適性はわからないが、正直イザベラの部下になるのは、とてつもなく大変そうだ。性格が商人とは思えない上に、とんでもなく強引だからな。
アレックスは苦労しそうだ。あるいは意外と適応するかもしれない。こればっかしはやってみなければわからないだろう。
「でも、ノエルさんがグリーズマンとの対決に勝てば、気持ちに整理がつく気がします。無意味なんかではないですよ」
「そうか。いいきっかけにはなるかもしれないな」
俺にとっては、ただの敵。思い入れなど存在しない。
大嫌いな相手を潰すだけだ。
だが、アレックスにとっては違う。
俺の知らない思い出もたくさんあるだろう。そこに踏み込む権利など誰にもない。
「学者の道は絶たれましたけど、商人として稼いで稼ぎまくってやります」
アレックスは無理をして笑う。
これからアレックスが商人として売るものとなると、やはりゴーレムだろう。研究者だった経験も生かせる。
また1つ、俺がイザベラに協力する理由が増えてしまった。まあイザベラと何度も会うより、アレックスの方がいくらか気が楽であるが。
「ですから絶対に勝ってくださいね! グリーズマン教授をこのままにはしておけません」
「ああ、まかせておけ。勝ってみるさ」
はじめて会った時。
嫌がらせの実行犯として、指を折った時にはこんな関係になるとは思いもしなかった。
人間同士の関係は、予想しがたく、面白いものだ。
敵と味方の区別は紙一重なのだろう。今日の敵が明日には味方になることも、冒険者にはよくあることだった。
ああ。そういえば。
1つ、思い出したことがある。
「そもそもなぜグリーズマンは俺たちに嫌がらせをしたのだ? 最初は俺たちの身分が原因だと考えたが、前の住民にも嫌がらせをしていたようだし」
あの男が嫌がらせさえしなければ、対決することもなかった。
グリーズマンが没落することもなければ、俺たちが学園で認められる機会もなかった。
結果論ではあるが、とてつもなく愚かな行為であった。グリーズマンは高い代償を払うことになっている。
「……いや…その…それは、」
アレックスが言いよどむ。
「実は……ノエルさんが住む建物を教授は狙っていまして。いずれ自分のものとするために、建物に住む住民に嫌がらせを……」
「なんだそれは」
疲れ果てているのに、思わず笑えてきた。
人生を踏み外すにも、もっとましな理由があるだろ。
グリーズマンの失敗は、教科書にのせて、教訓にするべきだな。
時として人生ではささいな欲望に振り回されて、命取りになる可能性があることを教えてくる。
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