第八十九話 自立型ゴーレム開発 九日目前半
「グリーズマンとの対決の日まで残り1日。ドラゴンの攻撃をかわすことはできるようになった。最後に攻撃の訓練をしよう」
俺は皆に向かって語りかける。
皆、疲れているものの、いい顔をしている。
俺を信じてくれているのだ。ならば期待に応えなければならない。
正直、ドラゴンの攻撃をかわす能力は完璧とはいえない。
だが完璧を追求しすぎると、いくら時間があっても足りない。どこかで見切りをつけなくてはならないのだ。
あとは皆が俺を信じてくれているように、俺もゴーレムを信じるしかない。
今回の対決では俺自身は戦わない。
最後には自分たちの開発したゴーレムを信じるしかないのだ。
「あ、あの、たった1日で攻撃が学べるのですか?」
ソフィーナが疑問を口に出す。
もっともな疑問である。1日で全ての攻撃が習得できるならば誰も苦労はしない。
「無理だな。だから今日は剣技などではなく、逃げながら剣で斬りつけることだけを習得する」
「逃げながら……ですか?」
「ああ。逃げながら攻撃すれば、1撃あたりの攻撃力は低くなる。数百回、あるいは数千回攻撃しなければドラゴンは倒せないだろう。それでも踏み込みすぎて攻撃をくらうよりはましだ」
基本的な戦略は持久戦だ。
まずは敵の攻撃をかわすことに専念する。
かわすことに専念し続ければ、必ず敵にすきが生まれる。そこを狙って少しずつ攻撃して、体力を削っていく。
いつ攻撃するのか。逃げに回るのか。
適切で迅速な判断が求められる。
1度でも判断を間違えれば、即座に致命的な攻撃を受けることになる。
これまでのゴーレムではとても不可能だったこと。いや、ゴーレムでなくとも、大抵の魔法生物にも即座の判断など不可能だろう。
簡単な命令は聞けるが、瞬間的に状況を判断できるような知能はない。
意思のあるゴーレムの強みを最大に生かす。
相手の弱みをつくというよりは、自分の強みを最大限に押し通すような戦略である。
「とにかく止まらないこと。それと相手の動きを予想するとが大切になる。これから常に逃げられるような態勢を維持したまま戦う訓練をする」
人間ならば無意識にやっていることだが、いざ言葉にすると、すごく難しいことに感じる。
だからこそ他の魔法生物との差がつけられるわけだが。
ゴーレムがうなずく。
手には昨日イザベラからもらったオリハルコンの剣を持っている。
素早さが何よりも重要視される明日の対決。軽いオリハルコンの剣はうってつけだ。もちろん切れ味も保証済み。ドラゴンの固い鱗にも傷をつけられるに違いない。
その姿にアレックスが感心したような声をあげる。
「なんというか、絵になりますね」
人間よりもかなり大きい人型のゴーレムが剣を持って立っている。
鎧はつけていないため、体のほとんどが茶色のままだ。それでも見た目だけは強そうだった。
「そうだな。なんだか勝てるような気分になってくるな」
この姿こそ今回の対決で使うゴーレムの最終形態だ。
魔法陣や体の形状を改良している時間はもうない。基本性能に関しては、これでいくしかない。
俺は鉄の剣を持つ。
「最後はもう一度、俺と戦ってもらおうか。訓練の成果をみせてくれ」
ゴーレムと向かい合う。
お互いに動かない。即座に斬りかかってこないだけゴーレムは進歩している。
俺のすきを見極めようとしているのだ。
とはいえ、これでは訓練にはならない。
多少強引だがこちらから攻撃することにする。
踏みこみながら、剣を振る。狙いは胴体だ。
ゴーレムは体をそらせてかわす。
ふむ。悪くない。対人戦でみるならば荒くはあるが、敵はモンスターである。相手も荒い攻撃しかしないのならばこれで十分。
次々と攻撃を繰り出していくが、ゴーレムは全てをかわしていく。
あえて荒い攻撃にしているのも差し引いても、特訓の成果が出ている。俺が10日ほど寝ていなかったのも無駄ではなかった。
防御はできている。
次は攻撃の方をみてみるか。
俺は剣を下げて、わざとすきを作る。
さあ、打ち込んでこい。釣られたようにゴーレムが剣を振る。
ギィン!!
手に持った剣で受け止める。
重い一撃だが、ゴーレムの足が止まっている。
「斬撃は軽くてもいいから、動き続けろ! 反撃をかわせなくなるぞ!!」
俺は剣を合わせたまま体当たりをする。
態勢を崩したゴーレムが尻もちをつく。これが実践だったらゴーレムは負けていた。
攻撃をするということは、必ずすきを生む。全力の攻撃であればなおさらだ。
逆もまた同じ。
敵が攻撃してくる瞬間こそ、こちらが攻撃する機会でもある。
戦いの駆け引きとは、相手の攻撃の瞬間への読み合いに他ならない。
「もう一度だ! おぼえられるまで何度でもやるぞ!」
ゴーレムがうなずき、立ち上がる。
根性だけはすでに一流である。
予感がする。
おそらく今回の対決が終わっても、ゴーレムを訓練するのは続くだろう。
俺は……ゴーレムと共に生きていくのだ。
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