第八十五話 自立型ゴーレム開発 七日目前半
攻撃と防御の切り替えの速さ。正確性。
それこそがグリーズマンとの対決に勝つための武器となる。
攻守の判断ができる魔法生物。グリーズマンには、いや世界中の誰にも開発できないに違いない。そもそもソフィーナのスキルはなければ、魔法生物に知性を乗せることもできないのだ。
ソフィーナのスキルを最大限に生かすために、この戦術に行きついた。
基本性能は圧倒的にあちらの方が上になると予想される。
ならば新しい発想が差を埋めるために必要なのであった。
絶対に負けるわけにはいかない。
グリーズマンのような男を権力ある地位に放置してはおけない。
ここからが勝つための正念場となるだろう。
「ご主人様、大丈夫ですか? 顔色が優れませんが」
ソフィーナが俺の顔をのぞきこみ、心配してくれる。
目の前には100体の土人形が並んでいる。魔法陣はまだ書き込まれていない。
俺の「土操作」スキルで作ったものだ。1体1体の魔力消費量は少ないが、さすがに1度に100体ともなると多少は疲れる。
何日も寝ていないのも加えて、少しだけ目がかすんできた。
「ああ、大丈夫だ。対決が終わったら、いくらでも休めるからな」
あとは100体のゴーレムに魔法陣を書いてもらうだけだ。
俺だけではなく、魔術師たちも徹夜してもらおう。
まずは回避からだ。
替えの体を使い潰して、ゴーレムにドラゴンの攻撃をさける方法を教え込む。
「残念ながら、ゴーレムに剣技を教えている時間はない。残りの時間はドラゴンの攻撃をよけることに専念しよう」
「えっと、それでドラゴンに攻撃が通るのですか?」
「ドラゴンは固い鱗をまとっている。並みの攻撃は通じない。3日で教え込める付け焼刃の剣技では通用しないだろう」
それにグリーズマンが持ってくる魔法生物がドラゴンそのままとは限らない。
ドラゴンをさらに改造して、俺の知っている弱点を消してくる可能性もある。攻撃に関しては、決闘の場でゴーレム自身に判断してもらうしかない。
「だ、大丈夫なのですか!? 攻撃が通らなければ勝てないのでは?」
「簡単な話だ。雑な攻撃でも通るまで繰り返す。戦っているうちに、いつかは弱点をみつけることができるだろう」
狙いは長期戦であった。
ドラゴンは耐久力も高い。一撃で倒せるような攻撃力もゴーレムに持たせることはできない。現状の俺たちの開発力ではここが限界であった。
全ての攻撃をかわしながら、少しずつ敵の体力を削っていく。
それが理想だ。
「ドラゴンはモンスターの中で最上位ではあるが、ダンジョンのボスになれるほどには強くはない。弱点がないなどとはありえない」
仮にグリーズマンが弱点を消そうとしても、別の弱点が現れる。
最強のモンスターはいても、弱点のないモンスターなど存在しない。ドラゴン程度ならば、ゴーレムの力任せの攻撃でもいつかは打撃を与えられるだろう。
唯一の問題は、弱点をみつけられるまでゴーレムが耐えられるか……だ。
「ではさっそく訓練を始めようか。ゴーレムを連れてきてくれ」
昨日上下に切断したゴーレムは俺が修理した。
綺麗に切断されていれば、魔法陣を修理することは難しくはない。少しは俺も魔法陣を書く腕が上がったからな。逆に粉々になるまで破壊された時には修理が不可能になる。
俺は外に出て、訓練のための準備をする。
ますドラゴンの攻撃で注意しなければならないのは、強力なブレスだ。広範囲に炎をまき散らす、ドラゴンの代名詞。まともに浴びたら普通の人間では骨も残らないだろう。
この攻撃を避けられなければ、勝ち目など存在しない。
空を見上げる。いい天気だ。
絶好の訓練日和といえるだろう。
俺は地面に油をまいていく。
ちょうどドラゴンのブレスの攻撃範囲と同じくらいの広さに。
この油はモンスターから取った特別なものだ。一瞬で火が回るようになっている。もちろん高価ではあるが、こちらにはいくらでも金を持っている味方がいる。
「ご主人様! 連れてきました!」
ソフィーナがゴーレムを連れて帰ってくる。
現状のゴーレムには表情がない。つるりとした土があるだけだ。
知能はあれど、感情がないのは幸いだった。
これから行う訓練はとても人間には実行できない。命にかかわるような訓練である。
感情がなく、体の替えがきくゴーレムだからこそ実行できる。
「いいか。ゴーレムは油の中心に立ってくれ。今から油にたいまつを投げ込む。火が回る前に脱出してくれ」
ドラゴンのブレスを避けるには動きの速さも必要だが、それ以上に集中力と先読みの力がいる。ドラゴンの口が光り輝いた瞬間、考えるよりも先に体が動くくらいでなければ。
ブレス自体は割と事前動作の大きい攻撃だ。冒険者でもスキルなしでもよけることができる。慣れれば、ゴーレムにも同じことができるだろう。
「ちょ、ゴーレムが焼けちゃいますよ! 無茶苦茶です!!」
「無茶苦茶なのは俺もわかっている。だが、やらなければグリーズマンには勝てない」
ソフィーナはしばらくの間迷ったあげく、沈黙する。
戦闘用ゴーレムは破壊されるのも仕事とはいえ、ゴーレムを傷つけるのが嫌なのだろう。
悪いな。ゴーレムを苦しませるのは今だけだ。
「行くぞ」
油の中心にいるゴーレムがうなずく。
なんだが弟子がもう1人増えたような気分になるな。
火を投げ入れると、爆発的に炎が広がる。
最初から炎を吐くドラゴンのブレスとは少し違うが、かわしかたはほぼ同じだ。
ゴーレムは炎の範囲から飛び去ろうとするが間に合わない。
炎の勢いに押されたのか、若干動きに硬さを感じた。
あっという間に炎に包まれる。一度目の訓練は失敗だ。
普通の人間だったら即死に近い。
「あああっ! ご主人様!!」
「大丈夫だ。この程度ならば助けられる。スキル発動「土操作」!」
たった一度で訓練が成功するとは思っていない。
できるまで繰り返すしかない。
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