第八十二話 自立型ゴーレム開発 五日目
「教授は……おそらく改造したドラゴンを使ってくると思います」
苦しそうにアレックスがつぶやく。
この男は今もグリーズマンに敵対することを気に病んでいる。無残に切り捨てられたにもかかわらずだ。
あまりにも優しすぎる。
一般の社会では、間違いなく美点だが、戦うにはひ弱すぎる。相手に情をかけていては、勝てる戦いも勝てない。アレックスだって自分でも理解しているはずだ。
決定的に戦いに向かない人間は存在し、アレックスはその一人である。
もっとも俺もアレックスを非難することはできない。
俺だって甘さでは負けていない。頭ではわかっていても、どうしても非情にはなりきれない。奴隷を助け、嫌がらせをしてきた相手を許しているのが証拠だ。
お互いこれからの人生には苦労しそうだ。
酒でも飲みながら語り合いたいところだが、今は性格の話は後回しだ。
あと5日後にはグリーズマンとの戦いが待っている。とにかく時間がない。
「ドラゴンか。強力なモンスターだな」
本来ならばダンジョンの最下層に生息するモンスター。
見上げるような巨体と強力なブレスが特徴。素早さはそれほどでもないが耐久力は桁違いだ。
中位以下の冒険者なら戦わずに逃げるしかない。
無理に戦おうとして死んだ冒険者をたくさんみてきた。
俺自身が戦うならばともかく、ゴーレムの相手としてはかなり難しい相手である。
「だが、ドラゴンを使役したという話など聞いたことがない。ドラゴンが使役できるのならば、あらゆるモンスターを操ることも夢ではないだろう」
グリーズマンはかつて天才だと呼ばれていたらしい。
ドラゴンを使役できるのならば、確かに世界を変える可能性があった。天才と呼ばれていたのも納得できる。
「たぶん……教授はドラゴンを操れたことで名声を得すぎたのだと思います。それで……」
手を上げて、アレックスの言葉を止める。
「敵に対しては同情するつもりはない。向こうも俺たちを全力で潰しにくるだろう。手加減をしている余裕などない」
「……そうでした。僕は死ぬまで甘ちゃんから抜け出せないのかなぁ」
戦いには決定的に向かないが、いつかアレックスの甘さが生かされる日もくるだろう。
イザベラの商会で働けば、自然と甘さもなくなる気もする。
あの女は甘さとは正反対の性格をしている。
それよりも。
「よい情報を教えてくれた。相手の魔法生物がわかれば、それに合わせたゴーレムを開発すればいい」
ドラゴンは強力なモンスターだが、弱点がないわけではない。
ならば弱点をつくのに特化したゴーレムを開発すればいいのだ。
アレックスが嘘をついている可能性もある。
あるが、一度許すと決めた以上は信じぬくべきだ。覚悟の問題である。
「し、しかしドラゴンですよ!? ゴーレムなんかが勝てるはずがありませんよ」
さすが学園の職員である。ゴーレムを知っているようだ。
まあ、それが普通の感想だろう。土の塊などドラゴンの一撃で粉砕される。
ゴーレムでドラゴンを倒そうとする人間など、俺たちくらいのものだ。
「確かに強敵ではあるな。実際に戦った経験があるからわかる」
「は!? 実際に戦った!?」
もちろんグリーズマンがドラゴンをそのまま出してくるわけがない。
改造をして、さらに強力にしてくるだろう。とはいえ、ドラゴンの能力から大きく外れることもあるまい。
ドラゴンの強さと弱点。文字通り骨身にしみて理解している。殺されかけたことも、一度や二度ではない。
まさかこの学園で冒険者としての経験が生きることになろうとは。
人生何が役に立つかわからないものである。
正直、あと5日でゴーレムの性能が劇的に伸びるとは考えにくい。
俺は天才ではない。都合よく逆転できるような能力は持っていない。
辺境の街で開発したゴーレムよりも性能はかなり上がった。それでも単独でドラゴンと戦えるほどではない。
スキルはなく、戦闘能力は低級冒険者並だ。現時点の戦力では勝てないだろう。
ならばソフィーナのスキルをどう生かすかが勝負の鍵。
学習するゴーレム。人とは違い、魔力さえあれば疲労することはない。可能性は無限大だ。
新しい発想と戦略で勝つ。
俺たちに残された道はそれだけだ。
これでも俺は冒険者を育てるのは得意なのだ。
残り5日でドラゴンを殺せるまで成長できるか。
「ドラゴンを使役するのもすごいが、俺たちのゴーレムも同じくらいすごいぞ」
「で、でも所詮ゴーレムはゴーレムです。ただの土の塊。とても戦いには向きません」
おそらくアレックスは魔法生物に関して、俺よりも詳しいだろう。
アレックスは努力に努力を重ねて、エリートの地位を手に入れたのだ。
それでも、頭が固い。
常識にとらわれゴーレムが弱いと決めてかかっている。
「ただのゴーレム? それはどうかな? ついてこい、俺たちの開発しているゴーレムをみせてやろう」
グリーズマンはアレックスを切り捨てることで、権力争いに負けただけでなく、敵に塩を送るような結果になってしまった。
まさに自滅という言葉がふさわしい。
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