第八十一話 自立型ゴーレム開発 四日目
「スキル発動」
ソフィーナがスキルを発動しようとしている。
周囲にはいくつものゴーレムが動いている。全てがソフィーナのスキルによって動いている。
俺のスキルは土の塊を1つしか操作できないが、ソフィーナは複数に意思を与えられる。自分の思った通りに動かせはしないが、俺のスキルよりも数段高性能である。
だからこそ、危うく感じる。
俺はソフィーナの手を掴む。
スキルの発動が途中で止まる。
「やめろ。スキルの使い過ぎは寿命を縮めるぞ、ソフィーナ」
一見とてつもなく便利なスキルだが、無制限に使えるわけではない。
全てのスキルに共通することだが、使えば使うほど魔力を消費する。魔力が完全になくなれば死ぬしかない。普通はその前に体が動かなくなるが。
それに加えて、使用することに代償を求めるスキルもある。いずれにしろスキルというものは、無意味に乱発してはいけない。
「で、でも私はご主人様の役に立ちたくて……」
「逆効果だ。君の場合は休むのも大切な仕事だぞ」
ソフィーナはスキルを使い始めたばかりである。自分の限界を知らないのだ。
加減を知らないままスキルを使い続けたら、本番で倒れかねない。そもそも対決にはゴーレム1体しか使えない。複数に意思を与えても意味はないのだ。
「ご主人様は寝ずに魔法陣を書いているのに、わ、私も何かしないといけないのでは?」
「俺は大人で体力がある。それに本番では俺のスキルは使わない」
グリーズマンの戦いでは双方とも直接手が出せない。
できることは魔法生物に指示をすることぐらいである。魔法生物同士の戦いをみているだけである。どれだけ俺が疲れていても関係ない。
だが、ソフィーナに倒れられては、ゴーレムを動かせなくなる。
珍しくソフィーナが不満げな表情をしている。
俺はソフィーナの頭に手を乗せる。
少しだけ不満の表情が消える。なんともわかりやすいな。
「今回の勝負は君のスキルこそが勝負の鍵だ。体を大切にしてくれ」
「……はい」
苦労するのは俺だけでいい。
ソフィーナはまだ駆け出しである。今は責任を背負うことはない、伸び伸びと能力を伸ばして欲しい。
その時、建物の扉が開いた。
一瞬だけ身構える。商会が安全な場所を用意してくれたとはいえ、絶対ではない。友好的な人間かは気配と勘でわかる。
部屋に入ってきた人物をみて、ソフィーナを背後に回す。
「お前、なぜここにいる?」
嫌がらせの実行犯、アレックスが立っていた。
学園から抜け出してきたのか?
いや、アレックスには権力はない。ただの学園の一般職員でしかない。学園の判断を覆せるような力はないはずだ。
ではグリーズマンの差し金か?
いや、それもあり得ない。以前の嫌がらせで、アレックス一人では俺には勝てないことは証明済みだ。
「申し訳ありませんでした!!」
いきなりアレックスが土下座した。
「あ?」
あまりに予想外の事態に持っていた戦意が消える。
いうまでもなく、アレックスはすきだらけだ。どんな攻撃でも倒せそうだ。
「僕が間違っていました。誰の命令であれ、嫌がらせなどするべきではなかった。クビを覚悟で断ればよかったのです。ここにいるのはその報いなのでしょう」
「……もしかして学園からの追放が実行されたのか?」
「はい。僕はもう二度と学園には戻れません」
早いな。
てっきり対決が終わったあとに処分が下されると思っていた。
おそらく誰もアレックスを擁護してくれなかったに違いない。味方が1人もいなかったからこそ、早い処分が下ったのだ。
やったことを考えれば当然ともいえる。
それでもやはり、今のアレックスは哀れな姿でもあった。
「お前はついていく人間を間違えたな」
グリーズマンの下にいたら、今回の事件がなくとも、いつかは切り捨てられていただろう。アレックスは最初から間違っていた。
その一方で、アレックスは冒険者ではない。簡単に上司は変えられないに違いない。組織の中で働く難しさはここにある。
「不思議なことに、今でも心から教授を憎いとは思えないのです。昔の教授はあんな人ではなかった。僕が子供のころ、あこがれていた人は……」
アレックスは今にも泣きそうになっている。
大人だろうと泣いても許される場面だ。
おそらくイザベラが追放されたアレックスをこの建物に訪れさせたのだろう。
俺はこの男の再就職を約束させたからな。今のアレックスは学園ではなく、商会の所属している。
「僕は教授の目を覚まさせてやりたいのです。どうかノエルさん、僕もゴーレム開発に参加させてください!!」
確かにアレックスがいれば、ゴーレム開発は格段に進む。
グリーズマンが持ってくるだろう魔法生物が予想できるし、魔法陣にも精通しているはずだ。大きな戦力になるのは間違いない。
だが、もしアレックスがグリーズマンと通じていた場合は致命傷となる。
こちらの情報は筒抜けだし、偽情報を流すこともできる。勝てる要素はほぼなくなる。事実を確かめる時間もない。
信用するか、しないか。
まさしく賭けである。
俺としては、この段階でわざわざ大きな賭けをする必要が……。
ソフィーナが俺の服を引っ張る。
泣きそうな表情で俺を見上げている。
「許しましょう、ご主人様。人間は何度だってやり直すことができます」
俺は小さく息を吐いた。
許す……か。甘すぎるな。
悪いことした人間を全て許していたら自分が破滅する。
……しかし……そうだな。
正解など存在しない選択。ならばソフィーナの意見を取り入れてみるか。
ソフィーナは仲間だ、意見を尊重しよう。……俺も結局は甘いということか。
ここは無難な選択肢を取るより、賭けにでる決断をする。
俺はアレックスを強引に立たせる。
「だ、そうだ。これからよろしく頼む」
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どうかよろしくお願いします。




