第八十話 自立型ゴーレム開発 三日目
イザベラに頼んでおいた魔術師たちが到着した。
全員が希少な魔法陣の書き手である。
王都では金さえあれば、魔術師も呼べる。さすがこの国一番の都市である。
若い男はいない。全員が中年以上だ。魔法陣を書けるようになるには、それだけの長い時間が必要なのであった。
「悪いな、急に来てもらって。他の仕事もあっただろう?」
「いいさ。たっぷりと商会から金を貰ったからな」
魔術師たちはお互いに笑い合う。
どうやら知り合い同士らしい。もしかしたらこの集団単位で仕事を請け負っているのかもしれない。冒険者ギルドがあるように、魔術師ギルドもあるはずだ。
「しかし、あんたは何者だ? あの恐ろしい女がわざわざ頼みにくるなんて。雪でも降るかと思ったぜ」
恐ろしい女というのはイザベラのことに違いない。
性格のことを考えると、商会では滅茶苦茶やってそうだ。なまじ有能すぎるから追放もできない。恐ろしい存在に決まっている。
「そうだな。ここからでもみえるだろう? 学園の塔が。俺は学園で教授をしている」
「ハハハッ。面白い冗談だ」
冗談じゃないのだが。
とはいえ、信じられないのも無理はない。そもそも本当に教授ならば、魔術師たちを応援に呼んだりはしない。自分で魔法陣を書ける。あるいは部下に書かせる。
服装も庶民そのもの。これから何十年も学園で過ごしても、俺たちは大貴族のようには洗練はされないだろう。
「ちなみにこれから戦うのも学園の教授だ。魔法生物の対決が待っている。俺たちは新しいゴーレムを開発して対抗するつもりだ」
「アハハハッ。やめろ。笑わせるな。……え? 本当なのか?」
本当だ。
1から俺たちの状況を話す必要がありそうだな。
「はぁ。とんでもない生き方をしているな、あんた。俺たちなんて学園を見上げるだけなのに」
まったくだ。
元パーティーを追放されてから、ここ一か月、激動の連続だった。俺にとって学園とは場違いな場所に違いない。
それでも夢を叶えるためには学園に居続けるしかないのだ。
「自分で望んだことだ。辛くはないさ」
全ての能力を賭けて、行けるところまで行ってやる。
困難なほど燃える。そういう俺の冒険者的な気質は死ぬまで治らないだろうな。
魔術師のリーダーに肩を叩かれる。
「気に入った!! 俺たちも全身全霊で協力してやるよ! お高く止まってやがる貴族どもの鼻をあかすいい機会だしな!」
どちらかといえば、俺への応援よりも学園への憎しみが勝っているようだ。
学園は巨大しすぎて、中で何がなされているのか理解しきれない。王都の住人にとっては不気味な存在だろう。中で働く俺にも全体をつかみきれないのだから。
一方、頂点に立つものは憎まれるのが常だ。評判が悪いのも当たり前といえば当たり前といえる。
昨日徹夜して、魔法陣を書き込んだゴーレムを作った。
ソフィーナのスキルなしでは現時点での最高傑作となる。
今回の対決では、俺は直接戦わない。多少の無理をしても問題ない。
「ふーむ。素人が作ったにしては、なかなかよく出来ているな。ゴーレムを制御する魔法陣に、これは運動能力を上げる魔法陣か」
素人とはいってくれる。
だが、事実でもある。俺の魔法陣の知識は独学で得たものでしかない。
「ああ、そうだ。今回制御は捨てて、運動能力向上だけでいい。徹底的にゴーレムの速度と力を上げたい」
「制御はどうするのだ?」
「特別なスキルがある。そちらで補う」
魔術師たちはそれ以上の質問をしなかった。
形だけといえ、学園の教授という肩書がきいている。望もうと望むまいと、学園の影響力は俺に対する印象を変えてしまうのだ。
「本職が魔法陣を書き込めば、どれくらいまで性能はあがる?」
「そうだな。倍は約束しよう」
頭の中で戦略を組み立てる。
ソフィーナのスキルと倍の運動性能。ゴーレム自体ははるかに強くなるだろう。だがその代わりに俺自身が戦えない。完全にゴーレムだけで戦わねばならない。
相手も違う。相手は魔法生物の専門家である。
グリーズマンが出してくる魔法生物もわからない。
モンスターの改造といっても、モンスターの種類は膨大だ。1つにしぼるのは不可能だ。
どうやったら勝利の方程式を解くことができるのか。
まだ自分たちの強みを戦いの戦略に落とし込めてはいない。他の人間にはまかせられない。俺自身が考えなければならないことであった。
「なあ、どうせなら兄ちゃんも一緒に魔法陣を書き込むか?」
「……いいのか? 魔法陣は商売道具だろう? 他人に教えたら損しかないはずだ」
「別にいいさ。学園の教授なら、これくらいの魔法陣の技術は書けて当たり前だからな」
非常に助かる。
この戦いでは直接役に立つことはないかもしれない。
だが将来のことを考えると、今魔法陣を勉強できる意味は大きい。グリーズマンとの戦いが終わった後でも、人生は続く。
「ただし、残り8日で仕上げるんだ。徹夜くらいは覚悟してもらおうか」
魔術師の男たちはニヤリと笑う。
付いていけないならば置いていくとでもいいたそうだ。
「望むところだ」
俺は冒険者。
体力には自信がある。
これでも過酷なダンジョンで生き抜いてきたのだ。
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