第八話 冒険者としての強さ
「エネルさん。俺がパーティーを追放されたのはスキルが使えなかったからです。仮にあなたのパーティーに加入したら、また足を引っ張ってしまいます」
エネルのスキルは知らない。
冒険者は自分のスキルを簡単に他人に教えたりはしないものだ。スキルを元に戦い方を組み上げるのが普通。スキルを知られてしまうということは、自らを不利な立場に追い込むことになる。
お互いにスキルを知らない。それでもこの場でエネルと戦えば絶対に負けるだろう。
俺にできることといえば逃げるくらいだ。もしエネルのパーティーもいれば、逃げることすらできない。死ぬだけだ。
「フフッ。確かに単体での戦いだけみれば、そうじゃろうな。よし、新米冒険者にわらわが教えてあげよう。しかと心に刻むがよい」
「新米……って。俺は12年間も冒険者をやっていますよ。中堅からベテランに入る年齢です」
「わらわにとっては新米も新米、赤ん坊のようなものじゃ」
エネルは笑う。
そう言われると、俺の方も苦笑するしかない。
偉そうにしているのに、憎めない。これこそが百人ものパーティーを団結させる魅力なのだろう。強いだけでは人は付いてこない。
「少人数ならともかく、わらわのような規模のパーティーになると、個人でバラバラに戦うのは効率が悪い。特にダンジョンのボスを倒すには、全員の力を結集する必要があるのじゃ」
ダンジョンのボスか。
恐ろしく強いと聞くが、情報を持っていなかった。この街でボスを知っているのはエネルのパーティーだけだろう。他のパーティーに情報を与えるはずもない。
いつだって本当に重要な情報は、簡単には手に入らないものだ。
冒険者はダンジョン内では命を助け合わなければならない。同時にダンジョン制覇のためのライバルでもある。味方であり敵でもあり、言葉では言い表せない複雑な関係になっている。
「強いだけな冒険者ならばいくらでもいる。ノエルの阿呆な元リーダーのように……な。だが冒険者をまとめ、戦力を適切に配置し、損傷を最小限にする。わらわが求めているのは指揮能力がある冒険者じゃ」
元パーティーは3人しかいなかったから、指揮能力など必要なかった。大規模なパーティーは大規模なりの苦労があるようだった。
指揮能力か。冒険者はたくさんいる。指揮能力を持った人間もたくさんいる。だが冒険者で指揮能力がある人間は少ない……らしい。
俺は元パーティーで戦いのバランス、常に不意の事態に備えていた。モンスターとの効率の良い戦い方も研究していた。
これまでの冒険者としての姿勢がエネルに評価されたということか。いつの間にエネルに目を付けられていたのだろうか、会う機会などほとんどなかったのに。
ギルドや商会はゴーレム開発の腕を買ってくれた。
冒険者自体の腕を買ってくれた人間は初めてだ。
「つまり、あなたのパーティーで中隊長として働けと?」
「そうじゃ! ノエルと一緒ならば、今度こそダンジョンを制覇できるじゃろう!」
エネルは大きく両手を上げ、ステップを踏み出す。リズムは俺が土人形に踊らせたものとまったく一緒。狐耳が跳ねている。なんとも器用な女である。
先ほどの笑みは長年生きてきた色気がにじみ出ていた。ところが今の姿は幼女そのもの。恐ろしさすら感じる変わり身の早さであった。
「じゃがのう、残念ながら給料は低いぞ。冒険者だからな、商会のようにはいかん。ダンジョンを制覇するまでは我慢じゃ。もっとも元パーティーよりは出すつもりじゃがな」
エネルは周りを見渡す。
「わらわの渡した給料で、もうちょっと良い家に住むべきじゃな。これでは乞食と変わらんではないか」
「金など問題ではありません」
求めているのは金ではない。
やりがい、環境、栄光。言葉にはできないもの。
追い求めているのは、形のない夢そのものなのだ。
「冒険者は夢のために生き、そして死ぬ。今のところ俺は冒険者ですからね」
「よく言った! 惚れてしまいそうじゃ。この場でわらわを抱いてもよいぞ!!」
「勘弁してください。あなたのパーティーに殺されてしまいます」
俺とエネルは顔を見合わせて、ニンマリと笑い合った。
夢を追いかけるために、全てを捨てたものにしかわからない感情。冒険者同士にしか通じない感情というものも確かに存在するのだった。
「金はない。じゃが、わらわと共に来れば、ダンジョンを制覇できる。ノエルの夢は叶えられるぞ」
確かにそうだ。
エネルのパーティーに入れば、遠からずダンジョン制覇できるだろう。できるだけの強さと魅力をエネルは持っている。
「わらわの夢はな、世界中のダンジョンの制覇じゃ!!」
笑ってしまった。さすがはこの街の最強冒険者だ。
誰よりも無謀な夢を持っている。一つのダンジョンですら制覇できる冒険者は万分の一以下である。複数となると片手で数えられるほどしか存在しない。
「上には上がいる。目指すべきは頂点しかない。どうじゃ、わらわと共に最強の冒険者パーティーを目指さぬか?」
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