第七十九話 自立型ゴーレム開発 二日目
次の日、俺とソフィーナは王都近辺の森の中にある建物にきていた。
静かな場所である。ここならばグリーズマンに邪魔されないに違いない。
まもなく魔術師の応援もくるはずだ。
イザベラの商会への協力と引き換えに、完璧な環境を手に入れた。
あとはグリーズマンに勝てるゴーレムを開発するだけだ。
不足しているものはたくさんある。
未だに対決に勝てるような自立型ゴーレムの完成型はみえてはいない
残り9日間。
文字通り勝機はこれから作り出さなければならない。
「ソフィーナ。今度こそ君の出番だ」
不利なルールである以上、俺の力だけでは勝てない。戦うのはゴーレム単体。俺が積み上げてきたものがほとんど生かされない。
勝つにはソフィーナの力が必要になる。
むしろソフィーナこそが今回の勝負の鍵となるだろう。
今までにないゴーレムを開発してこそ勝機が生まれる。
「まずは土の人形にスキルを使ってみてくれ」
目の前には俺のスキル「土操作」で作った人形がある。
魔法陣も書かれていないただの土人形である。最初にソフィーナのスキルについて知らなければならない。戦略をねるのはそれからだ。
本当は冒険者ギルドなどでスキルを調べるのが確実ではある。
だが、詳しく調べるには数日かかる。それにもし超レアスキルなら、強引にソフィーナを冒険者ギルドが確保してしまう可能性もある。
王都の冒険者ギルドには知り合いはいない。敵対する可能性すらあるのだ。
「で、でも私のスキルなんて……」
ソフィーナは自分の評価が低い。自信のなさそうな仕草をみせる。
そういう意味でもこの対決はいい機会かもしれない。対決に勝てば、自分の有用性が確認できるに違いない。
「大丈夫だ。俺は君を信じている。君のスキルはゴーレムの歴史を変えると」
俺を見上げているソフィーナの瞳に力が宿る。
そうだ。前向きに考えよう。
やれないかもと思っていたら、今の全力さえ発揮できない。
「わかりました! やってみます!」
「ああ、頼む」
ソフィーナが土人形に向かって手をかざす。
真剣な表情だ。俺にとってこの対決は人生がかかっているが、それはソフィーナにとって同じ。学園で暮らすことは、ソフィーナの未来にとって大きな意味を持つ。
「スキル発動」
手の先に小さな光がともり、消える。
それだけだった。ソフィーナのスキルは事前準備も必要ないし、発動も一瞬。少なくとも使いやすいスキルには分類されるだろう。
土人形がゆっくりと動き出す。
転びそうになるが、なんとか持ちこたえる。
ふむ。はじめて会った時は小さな紙の人形を動かしていた。
人間大のゴーレムも普通に動かせるらしい。また1つ勉強になった。いずれはどのくらいの大きさまで動かせるのか調べねばなるまい。
土人形がソフィーナに向かって手を伸ばす。
ソフィーナはその手を握る。土人形と猫の亜人。外見はまったく違うのにどこか似ているように感じる。
「今までごめんね。つらい思いをさせたね」
これまでのソフィーナのスキルは誰にも評価されなかった。
スキルで動かした人形も大切にされなかっただろう。簡単に捨てられていたはずだ。
土人形は小さく首を振った。
まるで気にするなという意思を示しているかのように。
「間違いない。君のスキルで動かした人形には意思が宿っている」
みたことも聞いたこともないスキルだ。
魔法生物を開発すために存在する能力とさえ思える。
「はい。この子も協力してくれるといっています」
「わかるのか」
「なんとなく……ですが」
こちらの言葉も聞こえているようだ。
もし言葉を話せるような機能があれば、この土人形も話せるのかもしれない。
ソフィーナのスキルがさらに解明された時には、独自のスキルも獲得できる可能性さえある。将来的には人間そのものを作ることさえできそうだ。
俺のスキルとは違い、ソフィーナのスキルには無限の可能性がある。
これまで悲惨な人生を送ってきたのだ。
それくらいの神からの贈り物があってもいい。
「では、人形の運動能力を調べてみようか。走ってみてくれないか?」
土人形は小さくうなずき、建物内を走りはじめる。
早くはない。が、普通の人間並みには速度を出せている。走り方も安定している。
速度は人形の性能に依存しているようだ。つまり器の性能が上がるほど、走りも速くなる。おそらく単純な力や視力なども同じだろう。
剣を握ることも、振り回すこともできる。
1人の戦士として申し分ない。ただ、剣技については下手くそだ。これから教える必要があるだろう。
例えるならば、駆け出しの冒険者のようだ。
ただの土人形にこれだけの能力を持たせられるとは驚異的という他ない。
魔法陣を書き込み、運動能力を上げれば、どれほどの強さに仕上がるか。
今回は時間不足ゆえに限界がある。将来的にはS級冒険者と同じくらいの強さになれるかもしれない。
希望がみえてきた。
次は意思のあるゴーレムをどう生かすか、戦術を考えなくてならない。
策もなく戦っては勝てない。正面から突っ込むには無謀にすぎる。
ボキリッ。
走っている土人形の足が折れた。
勢いのまま地面に突っ込む。
「だ、だ、大丈夫!?」
ソフィーナが倒れた土人形を抱き寄せる。
土人形は大丈夫だ、という風にうなずく。
意思はあれど、痛覚はないようだ。
スキルで土を固めただけだからな。走る負荷に、足の強度が耐えきれなかったようだ。
「これまでだ。ソフィーナ、スキルを回収できるか試してくれないか」
「わかりました。スキル発動」
再びソフィーナの手に光が宿り、消えた。
土人形から力が失われ、ボロボロと崩れていく。
ただの土に戻るようだ。
建物内には人形が存在していた余韻のようなものが残っていた。
ソフィーナのスキルを使えば、再び会える。
それでもどこか別れの寂しさのようなものが胸に残っている。
それは意思のない人形では、決しておぼえることのなかった感情であった。
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