第七十六話 不利なルール
グリーズマンも会場を去り、再び俺とソフィーナ、ナタリアの3人だけとなった。
先ほどまでの激しい権力争いが嘘のように静まり返っている。
「さて、自分の力ではないとはいえ、対決は決まった。後はグリーズマンを倒せるようなゴーレムを開発するだけだ」
「ご、ご主人様はすごいです……」
「ん?」
そういえばソフィーナは教授会の最中も、グリーズマンと話している間もずっと黙っていた。
緊張していたのか。せっかくだからソフィーナも宣戦布告してやればよかったのに。ソフィーナにもグリーズマンに対して怒る権利はある。
「だって、その、あんな偉そうな人と堂々と渡り合ってすごいと思います」
「ソフィーナだって命がけの戦いを経験すれば、このくらいの度胸はつくさ。命まで取られるわけじゃない」
「あの、い、いつか私もノエルさんのようになりたいです」
ソフィーナ。
あまり俺を尊敬するのをやめてくれ。自分が賢いと勘違いしそうだ。
常に強気に出るのが良い選択とは限らない。さきほどは単に怒りを抑えきれなかっただけ。貴族だろうが、年上だろうが、クソ野郎はクソ野郎だ。
「美しい子弟のきずなですね。そのまま物語になってもおかしくはありませんよ」
横からナタリアが口を出す。
この女が黙っていたのは緊張していたからではない。中立であらねばならないという宿命ゆえだ。
ナタリアが表立って俺たちに肩入れすれば、潰されないにしろ、今ほどうまく仕事はできなくなるだろう。学園の実力者たちは逆らえないにしろ、命令を無視することは可能だ。
「完璧な幸せな終わり方が約束されています。……ただし、グリーズマンとの対決に勝てればの話ですが」
そういえば、ナタリアにもソフィーナにも、俺のゴーレム開発の腕をみせてはいないな。
疑うのも無理はない。片や長年学園で教授を務めてきた男、片や辺境出身の庶民。客観的にみて勝てる要素が存在しない。無条件で俺を信じてくれるソフィーナの方が珍しいのだ。
「確かに勝てる策は持っていない。今のゴーレムではグリーズマンには勝てないだろう。」
「ふむ。そうですか」
「だがな、勝機はこれから作り出せばいい」
勝機はあるはずだ。
グリーズマンの研究内容はモンスターの改造。こちらはモンスター退治の専門家である。
いかにグリーズマンの魔法生物が強かろうと、辺境の街で作り上げたゴーレムとの連携に磨きをかければ、十分に勝てる可能性はある。
直接的な戦いになるならば、俺の仕事の領域である。簡単に負ける気はしない。
あとは対決までの時間をゴーレムの性能向上に使えばいい。
と、考えていたのだが、甘かった。
俺はまだ学園の流儀というものを理解しきれていなかったのだ。
数日後、ナタリアが対決のルールを持って現れた。
渡された書類を読むなり、俺は思わずうめいた。
「これは……まずいな」
書類にはこう書かれていた。
魔法生物同士の対決は、外部からの干渉を禁ずる。
つまり最大の強みである、ゴーレムと共に戦うことはできない。
あくまでもゴーレム単体で戦わなければならないのだった。さらに外から「土操作」スキルを使うことも禁止。俺が持っているあらゆる強みが封じられたルールである。
だが、現状のゴーレム単体では、スキルを持っていない普通の人間よりも弱い。下級モンスターにさえ勝てないだろう。
これではグリーズマンとの対決で勝てるはずもない。
「……対決のルールは変えられないのか?」
「無理ですね。このルールは学園で公式に用いられているものです。グリーズマン教授が作ったルールではありません。魔法生物の強さを証明するには、一番適していると歴史が証明しています」
よく考えれば、一方的に俺たちだけが不利なわけでもない。グリーズマン側も外側からの干渉はできない。完全に魔法生物の性能そのものが勝負を決める。
いや、それでも俺にとって不利すぎるルールだ。
今のままでは勝機を作り出すことなどできそうにない。
「ご主人様。私たちは勝てるのでしょうか?」
俺の不安を感じ取ったのだろう、ソフィーナが心配そうな視線を送ってくる。
そうだ。ソフィーナの前でだけは弱気な姿はみせられない。
「大丈夫だ。時間さえあれば新しいゴーレムを……」
「ちなみに勝負は10日後です」
「もう笑うしかないな」
辺境の街とは違う。
学園では味方が少ない。味方を作っている時間もなかった。
周囲からの援助はあまり期待できない。俺たちだけの力で勝利を得なくてはならない。
それでも俺の力には限界があり、残り10日でグリーズマンよりも強い自立型ゴーレムを作るのは不可能だ。
「……勝てないな。俺だけでは」
「おや? もう諦めてしまうのですか?」
俺は天才ではない。
ここで奇跡のように素晴らしいゴーレムを開発することなどできない。
誰にでも能力の限界というものがある。
絶望的な条件がそろっているが、たった1つだけ以前の俺とは違う点もある。
「勘違いするな、勝てないのは俺1人の場合だ。今の俺には仲間がいる」
俺はソフィーナに向かって手を伸ばす。
自分1人で勝てないのならば、仲間に頼ればいい。当たり前のことだ。
「どうやら君の力を借りる時がきたようだ。君のスキルを使って、グリーズマンの勝てるようなゴーレムを開発したいのだが」
ソフィーナは俺の手を強く掴んだ。
瞳が喜びに輝いている。
自分を変えたいと強く願っていたソフィーナ。その時がきたのかもしれない。
「はい! 私にできることがあれば、何でもやります!」
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