第七十五話 魔法生物対決はじまる
教授会が終わった。
続々と教授たちが会場を後にする。
誰もグリーズマンには目もくれない。無言のまま自らの研究室へと帰っていく。
予想外の事態となった。
あのナタリアですらも驚いている。流れを読むだけで、没落を主導したわけではないという言葉は本当だったようだ。
まさか俺とグリーズマンが魔法生物で対決することになるとは。
「結局のところ、嫌がらせを過小評価していたのは、グリーズマン教授だけだったということですね」
「単に権力争いの道具として使われただけだろう?」
「フフッ。その通りです。ノエルさんも権力争いというものがわかってきたじゃないですか」
理事たちの狙いはわかっている。
俺が勝っても、グリーズマンが勝っても、理事たちにとっては悪い結果ではない。2人の実力を試せるし、少なくとも1人は学園から排除できるのだ。
もともと理事たちは俺を試す予定があったのかもしれない。
まだ学園にきてからゴーレム開発の腕をみせていない。そこにグリーズマンの失態が加わり、今回の事態を招いた。そんなところだろうか。
貴族は優遇されるが、なによりも実力が大切。
そんな理事たちの意思が透けてみえる。無能は教授を続けられない、たとえ大貴族出身であろうとも。
理不尽ではある。
だが、今回だけは俺としては文句ない。利害が一致しているからだ。
どうやってグリーズマンと戦うか方法を探していたところ。喜んで対決を受けてやる。やはり他人に裁かれるよりも、自分の手で決着をつけたい。
気がつけば、会場には俺たちとグリーズマンしか残っていなかった。
「お、お前らが私を罠にはめたのか?」
グリーズマンは屈辱に震えている。
これまで部下の生死を握っていた人間が、他人に握られたならこうなるか。
すでに敗北したような表情をしている。
いや、事実すでに敗北しているのだ。そうでなければ、庶民である俺と対決をするはずがない。今までは俺は1人の人間として認識されていたのかも怪しいのだ。
「俺たちにそんな力はない。あんたが一番よくわかっているだろ?」
負ければどうなるか。
グリーズマンは破滅する。貴族としても、学園の教授としても面子を失う。学園にいられなくなるに違いない。
俺にとっても同じだ。勝負に負けて無能だと認定されたら、学園に認められる機会は2度と訪れないに違いない。機会を2度くれるほど学園は甘くない。
文字通りの教授の職をかけた真剣勝負になる。
「ち、力はなくとも陰謀は計画できる。ナタリアと組めば……」
「もういいだろう。すでに対決することは決まったのだから、誰が計画したかなど無意味だ。今のあんたの権力では対決の取り消しはできない。そうだろう?」
「……ぐうっ」
俺の切り替えの早いのは、持っているものが少ないからだろう。
学園にはきたばかりだし、大切なものといえばダンジョン制覇の夢ぐらいだ。金にも権力にも興味ない。学園で認められたいのも、ダンジョン制覇に役に立つと思えばこそだ。
グリーズマンのように何十年も積み上げてきたものがない。
「わ、私に勝てると思っているのか!? ハァ、ハァ。かつて世界を変えるとまでいわれた男だぞ」
「さあな」
不利なことは間違いない。
相手はずっと魔法生物を研究して、認められて、学園の教授にまで上り詰めたのだ。
グリーズマンの魔法生物が実際はどれほどの強さなのかわからない。牢獄にいるアレックスはモンスターの改造が研究内容だといっていたが。
長い間、権力争いに夢中だったとしても、開発した魔法生物が弱いはずがない。数十人いる部下たちも優秀な人間がそろっているだろうし。
それに比べ、こちらはまともに学校を卒業したこともない冒険者が1人と、元奴隷が1人。
どう考えても、簡単な戦いにはならないだろう。
逆に燃えてくる、だからこそ面白いじゃないか。
勝てるかどうかわからない相手だからこそ、戦う意味があるのだ。弱い相手をいじめても、むなしいだけだ。
「俺のゴーレム開発が学園で通用するのか、試すのも悪くない」
これまでのゴーレムでは勝てる相手ではないだろう。
新しいゴーレムの開発が必要だ。ソフィーナもいる。さらに進化したゴーレムを作れるという手ごたえはある。
「貴族に向かって、その口の聞き方はなんだ!!」
「今さらだな。俺は冒険者で野蛮な男だからな。貴族を敬うような人生は送ってきていない」
「……っ! 私の一族が黙っていないぞ」
下手な脅しだ。
学園にいる限り、外の貴族は手出しできない。俺を傷つけられるだけの影響力があるならば、対決を拒絶することもできたはずだ。
この程度の脅しに屈するようでは、冒険者などやっていられない。
「俺をひざまずかせたいのならば、対決で勝てばいい。簡単だろ?」
グリーズマンは俺たちに背を向け、無言のまま歩き出す。
これ以上の会話は無意味だと悟ったのだろう。俺は戦う意思を変えない。むしろ喜んで戦ってやろう。
ああ、そうだ。
1つだけ、この男に対していわなければならないことが残っていた。
「お前はアレックスに対して、何かいうべきことはないのか?」
グリーズマンは振り返りもしない。
吐き捨てるようにいった。
「知ったことか」
俺は小さく息を吐いた。
やはり俺はこの男のことが大嫌いだ。
まさに敵としてふさわしい。
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