第七十一話 没落の始まり
グリーズマン教授と対決する。
方針は決まったが、肝心の方法が思いつかない。あの男は俺たちのことなど眼中にない。いくら挑発しても、戦いの舞台に立つとは思えない。
俺たちの手が届くところまで、グリーズマンを引きずり下ろす必要がある。
学園では暴力を振るうにも理由がいる。不法に暴力を振るったら、嫌がらせをしてきたグリーズマンと一緒になってしまう。
「ご主人様ごめんなさい。何も思いつきません」
「しかたがない。俺だっていい案があるわけでもないし」
俺とソフィーナは顔を突き合わせて相談をしている。
仲間である以上は情報の共有、進路の相談は当たり前。いい案が出なくとも相談したこと自体に意味があるのだ。
これから生死をかけた対決が始まるかもしれない。何も伝えずにソフィーナを巻き込むわけにはいかない。
「でも、1つだけいえます。グリーズマンとかいう人は、悪い人です」
「そうだな。それだけは確かだ」
俺はソフィーナの頭をなでる。
嬉しそうに目を細めるソフィーナ。このあたりは猫の亜人の影響もあるかもしれない。頭をなでられると、ソフィーナはとても機嫌がよくなるのだ。
「ノエルさんの敵は私の敵ですから」
「ふむ。気持ちは嬉しいが俺だって間違う時もあるぞ。その時は君が止めてくれ」
「……難しいです。とても」
今すぐじゃなくともいいさ。
数年後でも構わない。いつか成長した姿をみせて欲しい。
さて、ここが考えどころであった。
直接的に喧嘩を売るのが駄目なら、向こうに戦う気を起こさせる何かが必要となる。学園の仕組みを利用するしかないのだが、俺自身が詳しくない。
となると、現状はナタリアに頼るしかないか。
せめてもう少し学園に慣れる時間があれば。なにせナタリアの他には敵しかいないのだ。
「あっ。ナタリアさんがきます」
ソフィーナの言う通り、窓の外にナタリアが近づいてくるのがみえる。
しかし、なんというか。珍しく感情がにじみ出ている。
なんだ、抑えきれないほど喜んでいる?
半ば勘ではあるが、はじめてみるようなナタリアの姿であった。
表面上は変わってないだけに、胸に秘めた狂気が顔を出しているようだった。
ナタリアは今のところ味方ではあるものの、裏の顔を隠している。いきなり敵に回ってもおかしくはない。
「ノエルさん、一緒にグリーズマン教授の没落を見に行きませんか?」
家に入るなり、挨拶もせずにナタリアはそう切り出した。
声にはわずかに興奮の色が混じっている。
「没落だと?」
「はい。グリーズマン教授は今日で終わりです。ああ、ソフィーナさんも一緒にどうですか? 将来のための勉強になりますよ」
意味がわからない。
今の俺にはグリーズマンが没落する理由が推測できない。
グリーズマンは部下を切り捨てて生き残ろうとしている。
行為は最低中に最低だが、理論は通っている。嫌がらせを実行したアレックスが部下でなければ、グリーズマンに責任を取らせることはできない。
どうやってグリーズマンの理論を崩せるのか。
それが焦点だったはずなのだが。あっさりとナタリアは回答を持ってきた。
「グリーズマンの理論など関係ないのですよ。ノエルさん」
俺の考えを読んだようにナタリアはほほ笑む。
「以前言いましたでしょう? すでに私たちは勝っていると。グリーズマン教授がどんな理屈を述べようと結末は変わりません。いや、むしろ悪手を打ったとさえ言えるでしょう」
1つだけ思い当たることがあった。
俺たちはまだ何一つ手を打っていない。となると、俺たちと関係のない所で事態が動いたのか。
「学園の権力争いの結果か?」
「素晴らしい。さすがニュイ様が見込んだお方ですね。学園に適応するのが速い」
「お世辞はいい。ちゃんと説明しろ」
一言で権力争いといっても、いくらでも内容は考えられる。
グリーズマンが部下を切り捨てたように、学園の最高幹部がグリーズマンを切り捨てたのだろうか。いや、グリーズマンは教授である。簡単に切り捨てられるほど低い地位ではないはずだ。
「確かに外の世界ではグリーズマンの理屈は通用するでしょう。大貴族は特別な存在ですから。ところが学園では大貴族など当たり前に存在し、激しい権力争いが繰り広げられています」
まるで先生が生徒に授業するように、ナタリアは続ける。
「グリーズマン教授はすきをみせた。だから食われるのです。あなたが嫌がらせの犯人を捕まえた時から、結末は決まっていました」
つまり学園では大貴族の権力も制限されるということか。
王族さえ学園にはいるらしい。大貴族というだけでは権力は振るえない。学園内の地位と実力がものをいう。
「むしろ部下を切り捨てたのは、グリーズマン教授の地位を狙うものたちにとっては好都合でした。なんせ部下を切り捨てる行為には誰でも嫌悪を感じますからね。中立者の支持を集めやすくなりました」
「没落を狙うものたちは俺の味方……というわけではなさそうだな」
「もちろんです。狙われないのは、単にあなたの持っているものがないに等しいからです」
俺はまだ学園にきたばかりで金も権力もない。
逆にいえば、それらを持った時、俺も権力争いに立ち向かわなくてはならないということだ。
「グリーズマン教授は潤沢な予算、優秀な部下、広大な研究施設など持っているものが多い。太った豚がすきを見せた時、食われるのは当たり前です」
最後にナタリアは付け加えた。
「ああ、もちろん私はグリーズマン教授の没落にいっさい手を貸してはいませんよ。私はただ、事態を観察するのみです」
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