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第七話 SS級冒険者からの誘い

 日が沈みかけて、やっと家に帰ってきた。

 家といっても金がない冒険者のことだ、町はずれの小屋にしか住めない。部屋は一つのみ、食事を作る場所もない。お世辞にも普通の家とはいえない。

 部屋が一つで家族は養えない。俺がモテないのも当たり前のことだ。

 

 床に座り込み、息を吐く。


 例えみすぼらしい小屋でも、ここが一番落ち着く。

 疲れた。まだ日は落ち切っていないのに、横になりたい気分だ。昨日、今日と大変なことがありすぎた。肉体的にも精神的にも疲労しきっている。


 

 部屋の片隅には、ゴーレムを開発した時に使用した道具が並んでいる。

 どれもこれもが値段の安い道具である。そうでなければ貧乏な俺には買えなかった。中には木から自分で削り取ったものさえある。

 もしスキルが「土操作」じゃなかったら、ゴーレムを作ろうと考えもしなかったに違いない。 


 作りかけのゴーレムも2体ほど並んでいる。

 目も口もない土人形である。今はゴーレムですらない、大きな土の塊にすぎない。

 土人形からゴーレムを作るためには、魔法陣を埋め込まなければならない。そうしてやっと自律的に働くゴーレムが完成するのだった。



 まあ、俺のスキル「土操作」ならば、この状態でも動かせるのだが。



「土操作スキル起動」


 2体の土人形が起き上がり、踊りはじめる。


 タンッ、タンッ、タンッ、と2体のゴーレムがステップを踏む。

 これくらいの大きさの泥人形ならば、かなり正確に操作できる。逆に面積の大きい土だと大雑把な操作しかできなくなる。

 俺のスキルは便利そうにはみえるが、万能には程遠いものだ。

 


 1体が男役で、もう1体が女役。2体の土人形がくるくると回る。

 故郷の村の踊りである。冒険者である俺はこれ以外の踊りを知らない。

 単純な動作の素朴な踊りだ。動きの試しとしてはちょうどいい。



 タンッ、タンッ、タンッ。

 タンッ、タンッ、タンッ。

  


 本来ならば、感傷に浸ってもよかったかもしれない。

 これからの身の振り方を考えるには、故郷の踊りほどふさわしいものは存在しないだろう。次の決断は人生を決めるものになりそうなのだから


 

 ところが。

 俺の頭を占めていたものは、次に作るゴーレムへの改良案であった。


 街でみたゴーレムは力が強いが、動きが固い。あれではささいな事故で故障する可能性がある。もっと滑らかに動けないものか、そうすれば故障の確率を下げられるだろう。


 頭の中にいくつもの改善案が浮かび、消えていく。

 楽しい。ダンジョンを捜索するのもいいが、ゴーレムを設計するのも別の楽しさがある。



 ここに至っては、認めざるを得ない。

 どうも俺はゴーレムを開発する才能があるらしい。


 人は時として、望まぬ才能を天から授かることがある。


 ……できれば冒険者の方に才能を振り分けたかったものだ。

 いや、まだ遅くはない。ゴーレムをダンジョン内で作れるような技術を開発すれば……。




「ほぉ。変わった踊りじゃのぉ。どこの踊りなのじゃ?」


 反射的には振り向いた。

 馬鹿な。部屋には誰もいなかったはず。俺だって高ランク冒険者のはしくれ。常に周囲の様子には気を配っていた。


 目の前に、獣耳の少女の顔があった。

 キスができそうなくらい近い。こ、この顔は……。

 


「ノエル、ノエルよ。パーティーを追放されたそうじゃな? なぜ最初にわらわの元へと来ない?」


「だ、だって、エネルさん。あなたはこの街一番の冒険者じゃないですか」


 エネル。見た目は幼い少女だが、実際は年上だ。本当の年齢は誰も知らない。仮に俺の年の10倍でも驚かない。少なくとも100年間は生きていると推測されている。

 12年前、俺がこの街に来た時と、まったく容姿が変わっていないのだから。


 種としての寿命が違う。エネルは亜人なのだ。

 頭の上に狐のような耳が付いているのが証拠だ。

 

 亜人自体は珍しくもない。

 この街には少ないが、王都の方では数も多いと聞く。亜人が統治している国もあるのだ。差別する理由も特別視する理由もない。


 特に冒険者の世界では、実力が全て。

 そう、唯一の問題はエネルの冒険者としての腕が尋常じゃないことある。元パーティーよりもランクが高い、SS級の冒険者なのだから。

 何度かダンジョン内でモンスターと戦っているのをみたが、この街最強の名は伊達ではなかった。最もダンジョン制覇に近い冒険者パーティーと呼ばれている。



「くふっ。いいではないか。男と女の関係に強いも弱いもない」


 エネルは笑う。

 とてもじゃないが、幼い女子の出せる笑みではない。体は小さいのに、圧力は巨人に近い。



 神に誓って、エネルとは恋人でも何でもない。

 そもそも接点が少なすぎる。会話する機会もほとんどないのに恋人にはなれない。

 あくまでエネルは超えるべき目標であって、慣れあうつもりなどまったくない。



 顔を近づけてくるエネルの体を押しのける。


「つれないのぉ」


 エネルのパーティーは百人規模であり、女神のように崇拝されている。

 こんな所をメンバーに見られたら、闇討ちされかねない。俺から迫ったのならともかく、その気もないのに攻撃されるのは許容できん。


「……あなたも俺を勧誘にしたのですか?」


「その通りじゃ。どうせギルドあたりはゴーレム開発の腕を買っているのじゃろう? わらわは違うぞ」


 エネルは薄い胸を誇らしそうに張った。

 普通の冒険者ならば笑える仕草も、エネルならば、どこか絵になる。



「お主の冒険者としての腕を買っておるのじゃ。どうじゃ、わらわのパーティーに入らぬか? ダンジョンを制覇したいのなら、わらわの手を取れ」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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