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第六十八話 隣の研究室へ

「グリーズマン教授はかつて天才と呼ばれていました」


 グリーズマン。

 それが黒幕の名前か。


 俺の建物の隣で研究をしている。

 嫌がらせを繰り返し、隣の住民を追い出し続けてきた。理由はわからんが、性格が最悪なのだけは間違いなさそうだ。

 天才だろうが何だろうが、クズはクズだ。貴族も庶民も関係ない。



「今やただの老害ですね。裏では皆から馬鹿にされています」


「才能が枯れたのか?」


 研究者のことはよくわからないが、冒険者には年を取って戦いに弱くなることはよくある。年齢的なものもあるし、強くなろうとする意欲自体が減る場合もある。


 ただ、ダンジョンで生き残るには経験も大事だ。完全にお払い箱にされる可能性は少ない。ギルド職人として冒険者を支える道もある。

 ダンジョンがある限り、冒険者が食えなくなることはないだろう。


 学園で研究者としての才能が枯れたらどうなるのか。

 あっさりと学園から捨てられてしまうのか。



「うーん、微妙なところですね。ここ20年、成果らしい成果を上げられていませんが、才能が枯れたかというと……。なにせ本人が研究そっちのけで権力争いに夢中なので」


「権力争い? 教授より上の地位があるのか」


「もちろんですよ。もっとも教授より上は10人もいませんが」


 実質的な学園の支配者層か。

 絶対君主のニュイは気まぐれである。めったに学園には帰って来ない。どこで何をしているのか誰も知らないらしい。 

 

 ニュイが留守の間は学園の最高権力者たちが君臨している。

 その下に研究を司る教授がいて、さらにその下に多数の職員が働いている。

 だいぶ学園の仕組みがわかってきた。



「グリーズマンとやらはなんの研究をしている?」


「あなたと同じ魔法生物の研究です。もっともゴーレムではなくて、モンスターの改造が主ですね」


 どうもピンとこないな。

 モンスターの改造など聞いたことがない。だが、モンスターを手なずけ使役するスキルならばみたことがある。あれと同じようなものかな。

 敵であるモンスターが仲間にできれば、敵が減り味方が増える。一石二鳥だ。



「昔は世界からモンスターを消せるとまでいわれた天才だったのに、今はこのざま。時間というものは残酷ですね。あるいは本人の性格の問題なのでしょうか。」


 世界からモンスターを消す……か。

 とんでもなく壮大な夢である。学園の教授だけのことはある。間違いなくかつては一流の研究者であっただろう。


 時間は人を成長させることもあれば、堕落させることもある。

 グリーズマン教授は堕落の方を選択したのか。


 


 俺とソフィーナが住んでいる建物がみえてきた。

 ソフィーナはおとなしく勉強をしているだろうか。

 できる限りの防御策は用意してあるが、少しだけ心配が残る。



「グリーズマンはどんな罪に問われるのだ? アレックスよりも重い罪になるだろうな」


 状況からみてアレックスはただ命令に従っただけ。運悪く俺に捕まった。無能ではあるが、罪の度合いは低いといえるかもしれない。

 本当に罪があるのは、嫌がらせを命じた人間に決まっている。



 ナタリアは暗い笑みももらす。


「それは相手の出方次第ですね。地位が高くなるほど罪には問いにくくなるのも事実です。なにせ権力と人脈がありますから。一般職員のアレックスさんとは違います」


「罪を逃れる可能性があるということか?」


 それは許せない。

 むしろ嫌がられていた時よりも怒りを感じる。

 世の中そんなものである、という人間もいよう。だがこの手の理不尽が嫌いだからからこそ、俺は冒険者をしているのだ。



「いえいえ、今回だけは確たる証拠があるので、言い逃れはできませんよ。問題は罪の重さです」


「重さだと。正常な裁きは期待できないということか」


「そうです。法ではなく、権力争いの結果が全てを決めるでしょう。付け加えるならば、その権力争いには私もノエルさんも加われません」



 ナタリアは奴隷で、俺は新参の庶民だからか。


 俺たちだけではない。学園では自分の運命も自分では決められない。全ては雲の上の権力者が取り切っている。それが嫌ならば自分が権力者になるしかない。


 学園は輝いている外面とは異なり、内部では欲望が渦巻いている。学園で生き抜くには能力や家柄だけでなく、権力争いにも勝ちつづけなければならないのだった。



 はっきりいって、うんざりするな。



「逆にいえば、法よりも重い罪に問われる可能性もあります。死刑にはならないとしても、社会的に死ぬ可能性はあります」


「勝ち目はあるのか?」


「勘違いしないでください。あなたが実行犯を捕まえた時点で私たちはすでに勝っているのです」


 

 ナタリアがグリーズマンの建物へ歩き出す。


「あとは、勝利か大勝利かを決めるだけです」




 グリーズマンとの直接対決が始まるようだ。どうなるか予想はできない。未知の世界へと足を踏み出すような感覚、はじめてダンジョンへ入った時と同じだ。

 いずれにしろ降りかかる火の粉は払わなくはならない。なめられたら終わり。それだけは学園での研究者も冒険者と同じようだ。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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[気になる点] >ソフィーナがグリーズマンの建物へ歩き出す。 これはナタリアですよね?
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