第六十七話 犯人への尋問
ナタリアは俺を試しているようだ。
俺は学園での居場所が欲しい。俺自身が強くなるための技術を求めている。そのためには誰からも無視されている現状を変える必要がある。
ナタリアの方は学園内の不良分子を追放したい。
利害は一致している。
それでも、ナタリアの操り人形になるつもりなどまったくない。俺は自分の意思で動かなければならない。
「……もしかしてお前はこの学園を憎んでいるのか?」
ただの勘である。
ナタリアの環境を想像すれば、俺ならとても耐えられない。エルフは長命である。数百年奴隷として働いていてもおかしくない。
「さて、どうでしょうね」
ナタリアはにっこりと薄く笑う。美しい横顔であった。
心の中をまったく悟らせない。権力争いの中を生き抜いてきた凄みさえ感じさせる。
これ以上問い詰めることに意味はないだろう。どうも長い付き合いになりそうだ。いずれは本心で語り合う日が来るに違いない。
「昨日ノエルさんが捕まえた犯人はこの部屋に収監されています」
ナタリアは頑丈そうな扉の前で立ち止まった。
服の間から鍵の束を取り出す。
「実行犯を捕まえた以上、嫌がらせの確実な証拠は存在しているのですが、自白が取ればなお完璧です。黒幕を追い詰める前に犯人に尋問しましょう」
「……俺は犯人に拷問などしないぞ?」
「え? なぜですか?」
なぜも何も牢獄で犯人を拷問するのは俺の仕事ではない。冒険者は暴力の専門家ではあるが、むやみやたらに暴力を振るべきではない。
攻撃されたら反撃するが、積極的に暴力は振るわない。使いすぎると精神が歪んでしまうのだ、元パーティーのように。
そもそも自分よりも弱い連中に暴力を振るって何が楽しいのがまったく理解できない。
わざわざ俺を牢獄まで連れてきたのは、それが理由だろうが、おとなしく従うつもりはない。
これまで自由の中で生きてきたのだ。自分のしたいようにさせてもらう、誰にも命令されたくはない。
短い間、視線を交わしたのち、ナタリアは小さく息を吐いた。
「優しいだけではなく、頑固な人でもあるのですね」
「当たり前だ。そうでなければ、わざわざ辺境の街から王都まで来ない。これでも色々な選択肢があった」
「そうですか。まあいいでしょう。どうせ自白があろうがなかろうが、結末は変わりません」
結局、俺を牢獄に連れてきたのは自分の言葉に従うか試すためか。
つくづく人を試すのが好きなエルフである。
俺のことを頑固だと評価したが、お前も相当に面倒な性格をしているぞ。
あるいはこれこそ学園で生き残る術かもしれないが。
にぶい音と共に扉が開く。
狭い部屋に嫌がらせをした犯人が寝そべっている。名前は……アレックスだったか。
負傷した足には最低限の手当てがされている。逃走防止のためだろう。おそらく今もかなり痛むに違いない。
あらためてみるとアレックスは若い。
学生を卒業したてなのか、幼ささえ感じる。とても他人の家に放火しようした人間にはみえない。
「調子はどうですか? アレックスさん」
「ふざけるな! 早くここから出せ! ……っ!?」
アレックスは俺をみるなり後へ下がっていく。
よほど俺が怖いらしい。指を折ったのは余計だったかな。
「おやおや、これでは拷問をする必要もなかったかな?」
「ふ、ふざけるな! お前を恐れてなんていないぞ!! だ、誰が怖がるものか!」
言葉では強気でも体は正直だ。
戦うどころか、立つことさえできないだろう。
それでも言葉だけでも反抗する姿勢があるのはほめてやりたい。生まれてはじめての喧嘩で負けたら、二度と立ち直れない男もいるのだから。
「手早く仕事を終わらせましょう。あなたの未来はすでに決定しています。学園からの追放。自白しようとしまいが同じことです」
アレックスの顔が絶望に染まる。
放火未遂で追放というのはむしろ甘い処分ではないか、と俺は思うのだが。それとも学園に住んでいる人間にとって、学園の外に追行されることは死よりもつらいことなのかもしれない。
「ただ、白状すれば多少の手心は加えることができます。具体的にはしばらく暮らしてけるだけの金額を差し上げることができますが?」
「僕は追放されない!!」
アレックスはそう言い切った。
まだこの男には心を支える何かが存在しているようだった。
「教授が僕を助けてくれるに決まっている。」
教授か。
黒幕だといわれている人物。それなりに人望はありそうだった。
投獄されてもなおアレックスが信じているとは。
「僕は教授のために全てを捧げてきた。ボクを見捨てるはずがない……」
ぶつぶつとアレックスはつぶやく。
信じているというよりも、強引に思い込もうとしているかのようだった。
ふむ。
心の支えがあるかぎり自白などしそうにないな。
「ナタリア。実際のところどうなのだ? 教授とやらはこの男を救えるのか?」
教授という職は権力があるのは知っている。
完全に有罪のアレックスを救えるとなると、並みの権力ではない。
学園にはそれなりの数の教授が存在しているらしい。大貴族出身の教授も多いはずだ。だが、1人1人にそれほどの権力があるならば、学園の統治が滅茶苦茶にならないか?
「そうですね。あるいはクビを差し出せば救えるかもしれません。ただ……」
「下っ端にはその価値がないと?」
「私の元に一度も問い合わせがない。それが答えですよ」
教授とやらはアレックスを見捨てるつもりか。
教授の指示があったと自白されたら、自分にも被害がおよぶはずなのに。
「さて、どうするつもりでしょうかね? アレックスさんは自白しそうにないし、次は教授の元へ行ってみましょうか」
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