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第五十一話 戦いの終わりに元奴隷と語り合う

 濃い血のにおいが漂っている。

 周囲には顔面から血を流した奴隷商たちが倒れている。もうピクリとも動かない。


 人間として最低の部類だったが、それが原因で悲惨な末路となったのではない。

 金を稼ぐのに非合法な手段を取ったこと、あるいは敵の実力を見間違えたことが原因である。俺の方は戦う気などまったくなかったのだから。



 男たちはこのまま放置しておくことにする。街に戻って報告するのも面倒だ。

 運が良ければ、旅人などが通りかかって命だけは助かるだろう。運が悪ければ、モンスターに食われることになる。裁きは神にゆだねよう。

 

 外道に落ちた冒険者はダンジョンに放置される。冒険者には他人を裁くような権限はないから、暗黙の掟である。

 まあ、ダンジョンと比べたら、街の外に放置される方が生存の可能性はあるだろう。




「ソフィーナ、行こうか。いつまでもこの場にいたらまずい」


 そろそろこの場を離れねば。会話など後でいくらでもできる。

 王都に到着するまで3日。その間に話せばいい。もう少しお互いにことがわかり合えるに違いない。


 ソフィーナはずっと俺の目をみている。

 なんだろう。決意のようなものが感じられる。ほんの少しだが、弱さが消えているような。


「私は……幸せになってもいいのでしょうか? ずっと奴隷として売られるために生きてきました。そんな私でも幸せになってもいいのですか?」



 なんだ、そんなことを悩んでいたのか。



「いいさ。人には自由に生きる権利がある」


 本来なら、俺は偉そうな言葉を吐けるような立場ではない。俺は冒険者で、教師でも聖職者でもないからだ。他人を導くなんてできるはずもない。



 ただ、自由の尊さだけは知っている。



 冒険者とは夢と自由のために生きる職業だからだ。

 安定など欠片もないし、毎日命がけの戦いが続くが、好き勝手に生きている。馬鹿にされても自由に生きているのだった。



「でも、私は何もできません。今だって震えているだけでした。役立たずですから」


「君にはスキルがある。役立たずなんかじゃないさ」


「でも!」



 ソフィーナは俺の鏡でもあった。

 俺だって強さを求め続けている。弱いスキルのせいで、パーティーを追放された。王都に行くのだってダンジョン制覇のための力を探すためだ。

 ゴーレム開発は有力な手段だが、それだけに頼ってはいられない。自分の力でダンジョンを制覇しなければ意味はない。



 ソフィーナからみれば、俺は無敵だと感じるに違いない。長年自分を虐げてきた奴らをあっさりと叩きのめしたのだから。


 だが、実際は無敵にはほど遠い。俺より強い人間など山ほど存在しているのだ。

 


「これから強くなればいい。俺もがんばるし、君もかんばる。それで十分だ。君が戦いに強くなるまでは俺が守ろう」



 ソフィーナは黙り込んでしまう。

 失敗したかな。亜人の少女と会話した経験が少ないので、どう接すればいいのかよくわからない。


 それにソフィーナの言っていることも一面では事実でもある。

 弱いものは虐げられ、強いものは傲慢になる。奴隷制度なんてものがあるのがいい証拠だ。世界は残酷で、むごたらしく死ぬ人間は後を絶たない。



 それでも俺にはこんな青臭い言い方しかできない。

 夢をかなえることこそ、人生で一番大切だと信じているからだ。



「強く……なれますか?」


「少なくとも奴隷商に負けないくらいまでは保証しよう。それから先は、他の強者を師匠としてやとってくれ。今の俺ではそのあたりが限界だ」



 クスリとソフィーナが笑った。

 いい笑顔だ。無表情よりずっと美しくみえる。


「正直なのですね」



「俺は奴隷商人じゃないからな。君をだましても得はない。これからゴーレム開発をする仲間になるのだから、信頼が大切だよ」


 今度こそ信頼し合えるパーティーを作りたい。

 誰かを馬鹿にすることなく、家族のような信頼を持ち合っているパーティー。甘いだろうか。いや、構わないさ。目指すだけならば、誰にも迷惑はかけないのだから。



「共に冒険者になってくれとはいわない。君には君の道があり、幸せがある。だから君にはゴーレム開発だけを協力して欲しい」


 ソフィーナのスキルはゴーレム開発に劇的な進化をもたらすと確信している。

 いずれは自らの意思を持ったゴーレムがたくさん作れるようになる可能性があるのだ。もう一段の技術革新を起こせるに違いない。

 

 あるいは、ソフィーナ自身が最強になる可能性さえある。

 スキルをもっとよく調べる必要はあるが、可能性は無限大だ。



 なによりも仲間自体ができることは嬉しいことだった。

 弟子を持つというのは、こんな感覚なのだろうか。


「俺の知っている限りでは、幸せになるのも元手があった方が有利になるらしい。もう一度聞こう。俺と一緒に王都へ行かないか?」


 

 そう言って、俺はソフィーナに右手を差し出した。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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