第四十七話 ソフィーナの事情②
あっさりと私は奴隷じゃなくなった。
奴隷から解放された? 本当に? でも、すでに私を縛っていた首輪はない。
自由?
自由って何をしたらいいの?
生まれた時から奴隷だった私にはわかりようもない。
私を買った男は変な男だった。ノエルという名前らしい。
奴隷を買った次の日に解放するなんて、頭がおかしいとしか思えない。感謝しなければいけないだろうけど困惑の感情しかでてこない。
私のスキルを目当てに大金を払ったと教えられた。
実際に私のスキルを試したら、さぞやがっかりするだろう。だって人形を動かすことしか出来ないのだもの。紙だけじゃなく土も水も動かせるけど、勝手に動くだけ。
もし本当に役に立つスキルなら、とっくに私自身が奴隷から逃げ出している。
私は無力だ。何もできない。
奴隷だろうと奴隷じゃなくなろうと同じこと。
首輪を外された私は、次に市場に連れていかれる。
ノエルさんは色々と買ってくれる。服や靴、かばんなど。靴をはきなれていないから、歩くと少しだけ痛い。
首輪を外し、ちゃんとした服を着れば、私も普通の亜人にみえるのかな。
食べ物も買ってくれた。
食べ物をみると、ついがっついてしまう。他の人には取られたくない。奴隷時代から染みついたくせだ。
本音をいうと、汚れた体を洗いたいのだけど、ノエルさんは気がつかなかった。
ちょっと安心する。この人も完ぺきではないのだ。私と同じ人間なのだ。
「これから俺は王都へ行くのだが、君も一緒に来て欲しい」
「あっ……あっ、わ、わかりました」
うまく会話もできない。
商品だった時は、1日中誰とも話さないことなど、よくあることだったからだ。
「あなたについていきます」
どうせ私には他に生きていく方法などないのだ。
ノエルさんに捨てられたら、奴隷に戻るしかない。
……王都。
この国の王様がいるところ。
それ以外には何も思い浮かばない。
ノエルさんは私がお金持ちになれると言ってくれた。
けど私には遠い遠い世界のお話にしか聞こえない。夢など、とうに枯れ果てた。胸に残っているのは絶望だけだ。
「よし、旅の準備は終わりだ。さっそく王都へ出発しようか」
「え!? 今すぐですか?」
買い物に時間がかかり、もう日は暮れかかっている。
街の外にはモンスターがいる。夜に襲われたらどうするのだろうか。私はとても戦えない、ノエルさんの足手まといにしかならないだろう。
「うん? 何か問題でも?」
「……い、いえ、ありません」
思い直した。
どうせ私の命に価値なんてない。モンスターに食べられてもかまわない。
また奴隷になるくらいなら死んだ方がましだ。
「大丈夫さ。王都までたった3日だ。君の体力が持たなくなったら、俺が背負うよ。これでもモンスターとの戦いには自信があるし、盗賊が出てきても撃退できるだろう」
ノエルさんは穏やかに笑う。
なぜだか、私はその笑顔をまぶしいと感じるのだった。
街の外に出て、しばらく2人きりで歩いた。
小さくなっていく街を振り返ると、なんだか泣きたくなってきた。よい思い出なんて1つもないのに。
私は、解放されたのだ。
これから新しい人生が始まる。どうなるかわからないけど、新しいことだけは確かだ。
ひょっとして、こんな私にも幸せを求める権利があるのかもしれない。
平地から森へと入った時だった。
突然、ノエルさんが私の腕を掴んだ。
「気を付けろ。敵意を持った何者かが隠れている」
「……っ!?」
モンスター!?
そんな。せっかく生きる希望が少しだけ出てきたのに。もう終わりなの?
「よぉ、兄ちゃん。久しぶりだな」
「ひぃ……」
思わず小さな悲鳴がもれた。
体が震える。立っていられない。ノエルさんにすがりついてしまう。
あの男だ。
奴隷商の男たちが森の奥から出てきた。それぞれが剣や斧などの武器を持っている。
なぜ? どうして? 頭がぐるぐるする。
私を殴るときの嫌な笑みだ。ノエルさんとは大違い。
私ではなく、ノエルさんに向かって、奴隷商の男はしゃべる。
「言ったはずだぜ? 兄ちゃんの甘さは命取りになるってなぁ」
私は思い知る。
やっぱりこの世界には絶望しかないのだ。
ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。
どうかよろしくお願いします。




