表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/206

第四十六話 ノエルの暴挙

「よぉ、兄ちゃん。昨日の夜はお楽しみだったかい?」


 奴隷商の男は、俺をみるなり笑いかけた。

 親しみを感じているわけではなく、金を払った客に対する義務的な笑みであった。人間を商品としてあつかっている男が優しいはずもない。


「その商品は俺たち間でも一番人気だったんだ。手をつけようとする奴が大勢いたよ。もちろん商品価値が落ちるから止めたが。男としてうらやましい限りだ」


 ソフィーナは俺の後ろで震えている。

 よほど奴隷商の男が恐ろしいのだろう。ここでどんなあつかいを受けてきたのか、ある程度は想像できる。逃げ出そうとしないだけで褒めてやりたい。


「で? 今日は何しに来たんだ? ああ、商品の返品には応じられないぜ? 処女でなくなったら、商品価値が大幅に落ちちまうからな」



「ソフィーナのいる前で下品な言葉を吐かないでくれないか?」


「ああ?」


 仮面がはがれるように、男の表情が変わる。

 ふてぶてしく、暴力的な性格が顔に出てくる。こちらの方が本性だろう。こちらも下手に善良な商人のふりをされるより対面しやすい。


「あのさぁ、きれいごとはやめようぜ。お前だって美少女を買ったんだろう? 俺たちと同じさ。自分だけ上品ぶるのはやめろ」



 上品ぶっているつもりなどない。

 俺にだって性欲はあるし、他人にはみせられない下品な部分もある。合法的な商売をしている以上、奴隷商の男を否定しようとも思わない。冒険者だって人々から嫌われている職業の1つだ。



 ただ、ソフィーナに対してだけは誠実でありたいだけだ。

 


 スキル目当て、というのも事実であるが、それだけではない。共にゴーレム開発をする人間にはできるだけ優しくしたいのだ。

 仲間だから。仲間に対してひどいことをする者はいない。パーティー内でもめごとが起こるのは、仲間だと認めていないからだ。


 俺は善良な人間ではないが、善良な人間でありたいと願っている。



「では、今日だけは上品な行いさせてもらおう。ソフィーナの首輪を外してくれ。奴隷から解放する」


 ソフィーナの首輪は特別製だ。おそらく魔術師が作ったものだろう。

 無理やり外すと体を痛めかねない。最悪、死ぬような魔法陣が書かれている可能性さえある。


 無理やり命令を聞かせるのだ。

 それくらいの強制力が必要になってくる。

 


「はぁ?」


 信じられないようものをみたように、男の口が開く。


「おいおい、冗談はやめてくれよ。どこの世界に大金で買った奴隷を、次の日に解放する奴がいるんだよ」


「金は払った以上、文句はないはず。奴隷をどうしようが主人の勝手だろう?」


「逃げられるに決まっているだろ! 馬鹿じゃないのかお前!!」



 逃げられない自信は一応あることあった。

 ゴーレム開発は莫大な富を生む可能性がある。将来への希望があれば、人は逃げ出したりはしない。ましてや大金持ちになれるならなおさらだ。

 ソフィーナも逃げ出す先がないだろう。1人でさまようよりも、俺と一緒にいたほうが圧倒的に利益になる。



 ……冒険者というよりも商人の理屈だな。



 それに万が一逃げ出されても、それはそれでいい気もする。

 全財産を失って、猫耳の亜人を助けた。悪くない金の使い方だろう。幸いにも俺は冒険者だ。小銭を稼ぐ手段はいくらでもあるし、金がなくとも生きていく方法を知っている。



「……チッ。わかったよ。理屈は通っている。そいつはあんたの所有物だ。おい!! 首輪を外してやれ!」


 建物から男たちが出てくる。

 その中の1人がソフィーナの首輪に手をかける。彼が首輪を担当している魔法使いなのだろう。



 奴隷商の男を含め、全員がいらだったような表情をしている。

 今すぐ戦いとなることはないが、だいぶ嫌われてしまったらしい。いけすかない正義を振り回す人間だと思われているのか。

 俺は苦笑する。行為が行為だからな。奴隷を解放する王子様、おとぎ話にそんな展開があったような。


 ゴーレム開発のことを話しても、理解してくれないだろう。

 どうせ夕方には離れる街だ。嫌われたままでもかまわない。どうせ明日には俺のことなど忘れているに違いない。



「お前、貴族のお坊ちゃんか? 世間というものを知らんとみえる」


「そう思うか?」


 俺が着ているものは粗末な服。古びた靴にぼさぼさの髪。

 貴族とはかけ離れているだろう。おまけに教養もあまりない。



「……みえないが、奴隷を買う大金を持っていた。金持ちには違いない」


「残念ながら、生まれた時からの貧乏暮らしでね。昨日はたまたま大金を持っていただけだ。また明日から金儲けの方法を考えなくてはならない」


「金持ちはみんなそう言うんだ」


 ぎろりと俺のことをにらんだ。

 最初のころとは態度が真逆になっている。


「いいか、若造。甘いことばかりしていると、いつか後悔することになるぞ」

  

「どんなことが起きようとも、後悔だけはしないさ」



 元パーティーを追放された時とは違う。

 全ての可能性を覚悟して行動しているからだ。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ