第四十四話 一緒にゴーレムを開発しないかい?
目の前で裸の少女が土下座をしている。
……。
俺は……どうすればいいんだ?
女性経験のなさが恨めしい。いや、女性経験の有無は関係ない気がする。ではなんだ? 俺は何を間違ったのか。
とりあえず、急いで上着を脱いで、ソフィーナに着せる。
「君を抱く気はない! 頼むから裸にならないでくれ」
俺だって男だ。性欲はある。
何度も裸になられたら、我慢しきれる自信はない。なにしろソフィーナは美しいだ。
「でも、ご主人様は私を性奴隷にするために買ったのでは?」
「違う!!」
思わず声を荒げる。
これだけは、はっきりと否定しないと。ソフィーナを奴隷としてあつかうつもりなどない。1人の亜人として、対等に接したいのだ。
ずっとソフィーナは無表情のままだ。土下座をしている時でさえ死んだように表情は動かない。
それでも黒い瞳には疑問の色が浮かぶ。
「ではなぜ私を買ったのですか? 抱かないのであれば、私は何のお役も立てません」
「役に立つさ。君を買ったのは、スキルに可能性を感じたからだ」
今さらソフィーナがかわいそうだとか、正義のためとか、きれいごとを言うつもりはない。仮にあの場でスキルをみなかったなら、何もせずに通り過ぎていた。
俺は冒険者であり、正義の味方ではない。正義の味方を気取るには戦いの強さが足りない。強さ以上に欲望が拡大すれば長生きできなくなる。
「スキル……ですか? 私のスキルなんて小さな紙を動かすくらいしかできません。しかも勝手に動くのです。操作できないのです。私と同じように何の役にも立ちません」
「それも違う。君のスキルには無限の可能性がある」
俺はソフィーナの肩をつかんだ。顔を近づける。
ここが説得のための正念場だ。
信じてもらえるのかわからないが、本心なのだからしかたがない。どうにかして信じてもらうしかない。
説得は冒険者の仕事ではない。苦手だ。それにこの年になってから少女と向き合った経験はない。正面からぶつかるのみだ。
「私のスキルなんて存在しないと一緒です。今まで誰も見向きもしませんでしたから」
「俺だけは君を評価する」
「……っ!?」
ソフィーナのスキルで動く紙の人形を思い出す。
会ったばかりで、性格も好みもまったくわからないが、この少女のスキルを埋もれさせておくわけにはいかない。
使命感にも似た感情が、俺を突き動かす。
「君にゴーレム開発のパートナーになって欲しい」
ソフィーナのスキルの詳細ははっきりとしていない。
それでも予感、いや、確信があった。このスキルはゴーレムを劇的に進化させうる。2人が組めば、どんな天才にも作れないゴーレムを開発することができる。
紙の人形に意思を吹き込めるならば、同じように土の塊であるゴーレムにもできるだろう。
意思を持ったゴーレム。夢があるじゃないか。
「そ、そんな! とても無理です! 私は奴隷です何もできません」
「できるさ」
しばらくの間、俺とソフィーナはみつめ合った。
先に目をそらしたのはソフィーナの方であった。
「あの、ご主人様。そもそもゴーレムとはいったい何ですか?」
ああ、そうか。
そこから説明しなければならないのか。
奴隷として生きてきたソフィーナは、俺以上に外の世界について知らないようだ。おそらくあらゆる教育を受けてこなかったし、文字さえも読めないに違いない。
この国では文字を読めない人間は最下層に限られる。比較的平和な時代が長く続き、この国にはそれなりに教育が行きわたっているのだ。
小さな袋に入った土の塊を取り出す。
俺は常に少量の土を持ち運んでいる。俺のスキルは土がないと発動できない。例えばこの部屋で敵に襲われた場合、土の塊があれば、時間稼ぎくらいにはなる。
オリハルコンの塊も持っているが、そちらはスキルでは操作できない。塊のまま敵を殴りつけるのにしか使えない。
「「土操作」スキル発動」
土の塊が小さなゴーレムの形となる。
魔法陣が書かれていないため、力も速度もない。あくまでゴーレムをまねした土の塊である。
ゴーレムは踊りはじめる。
故郷の村の踊り。音楽がないのが残念である。
ソフィーナはじっとゴーレムをみている。
「私のスキルと一緒だ」
「根本的に違っているな。あくまで俺のスキルは操作にすぎない。俺が死ねば、ゴーレムは動かなくなる。学習や言葉を話すこともできない」
現状のゴーレムは簡単な命令しか聞かない。命令を変更する時も、もう一度口で命令しなおさなければならない。俺のスキルなしでは、ダンジョン内のモンスターには勝てそうにない。
いずれ必ず改善しなければならない、致命的な弱点であった。
ソフィーナのスキルはその弱点を一気に解消できる可能性がある。
将来は人間並みの知能さえ獲得できるかもしれない。
もっとも、たった2回スキルをみただけだ。
さらにくわしく調べる必要があるが。
「ちなみに、俺のスキルはこんなこともできるぞ」
ゴーレムの形が変化する。
人型から猫の形へと。塊が小さいので精密に土を操作できる。
色こそ茶色だが、本物の猫そっくりだ。鳴き声もまったく同じ。
ふむ。
我ながらこれはいい出来だ。少女への接し方をみつけたかもしれん。
土の猫は歩き出し、ソフィーナの足元で止まる。
つぶらな目でソフィーナを見上げる。ぺろりと足をなめる。
「わぁ。か、かわいいですね」
それまで無表情だったソフィーナがわずかに微笑んだ。
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