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第四十三話 宿屋にて奴隷との対面する

 競売の熱狂が過ぎ去り、やっと冷静さを取り戻してきた。

 とたんに、自分のやったことの重さを理解する。

 何やっているのだ、俺は。その場の勢いだけでとんでもないことをしてしまった。



 全財産を使って奴隷の少女を買った。

 


 残ったのは小銭のみ。

 これでは多少の買い物をしたら、すぐになくなってしまう。いや、金はいい。また稼げばいいだけのことだ。

 ダンジョンはなくとも、街の外にでるモンスターを狩れば、金は稼げる。この街にも冒険者ギルドは存在し、俺にはまだ冒険者の資格は残っているからだ。



 本当の問題は奴隷の少女をどうするか……だ。

 スキルが埋もれるのをもったいないと思ったのも事実だが、半分以上はその場の勢いであった。まるで酒を飲みすぎた次の日のように、頭が混乱している。


 奴隷、猫の亜人、少女。

 どれを取っても、俺の人生になじみがない。どうあつかえばいいのか、誰か教えて欲しい。



 間違いなく俺は混乱している。

 ただ、なぜか後悔だけはなかった。


 俺がこの場で奴隷の少女を買ったのは運命。


 なんの根拠もないが、そんな実感が胸の中にかがやいてきた。




 建物から、奴隷商の男が少女を引き連れてきた。

 鎖につながれた痛々しい姿である。俺は少女を鎖につながないようにしよう、心に刻む。


「よぉ、兄ちゃん。商品を連れてきたぜ。後は犯すなり、殺すなり好きにしな」


 犯すわけがないだろ、と突っ込みたいが我慢する。

 王都付近ではこれが普通なのだ。文句をいってもしかたがない。この男を殴ったところで、犯罪者として俺が兵士に捕まるだけだ。

 

 あらためてみると、猫耳の少女は美しかった。

 顔の造形も肌の白さも素晴らしい。猫の耳もさらに美しさを引き立てている。年は十代半ばくらいだろうか。亜人だから見た目通りの年齢ではないのかもしれない。



「……他の服はないのか? これでは……その……街中を歩けないだろう?」


 少女が身に着けているのは、薄い布1枚のみであった。

 寒くはない季節とはいえ、外に出るには薄着にすぎる。年頃の女子としてもよろしくない。


「ハハッ。あるわけないだろ。ここは奴隷の保管所だぜ? 兄ちゃんは金持ちだろう? 自分で買え」


 今さら俺に金がないといえないし、いう必要もない。


 奴隷商人は、合法ではあるが、まっとうな商売ではない。裏では犯罪、ではなくとも犯罪すれすれのことはやっているに違いない。

 ……俺の奴隷嫌いからくる偏見かもしれないが。奴隷商のことは知らないし、知りたくもない。



 もういい。話すことは残っていない。

 そう思い、少女を連れて去ろうとする俺に、奴隷商の男が声をかける。


「ああ、忘れていた。その商品の首輪な。逆らうと電流が流れるようになっている。これで奴隷が主人に逆らうなんてことはない。俺たちは合法的な商人だからな。安心安全な商品を売りものにしているのさ」


 男はニヤニヤと笑いながら話した。


 はっきりとわかった。

 俺はこの男を好きになれそうにない。




 見知らぬ街を、奴隷の少女と一緒に歩く。

 すでに日は暮れかかっている。少女はうつむいたまま後ろをついてくる。無表情のままだ。反抗する気力など消え去っているようにみえる。


 意外にも街の住人は少女に注目をしなかった。

 周囲が暗くなり始めているからか、それとも奴隷など見慣れているからか。


 

 2人で歩いているうちに、やはり金の使い方として間違っていなかったような気がしてきた。

 少なくとも亜人を奴隷から救えたのだ。家を買うよりも有意義ではないか。

 金はまた稼げばいい。そもそも俺は冒険者になってからずっと貧乏だったのだ。金に対する執着があるわけでもない。



 振り返り、無表情の少女に語りかける。


「名前を聞いてもいいかな?」


「……ソフィーナ」


 うつむいたまま、奴隷の少女が答えた。


 ソフィーナか。

 ありきたりだが、良い名前じゃないか。

 亜人というよりも人間に近い名前だ。


 過去のことは聞かないようしよう。あえて苦しい記憶を呼び戻すことはない。

 人間は前だけをみて生きていくべきなのだ。亜人も一緒だ。




 宿屋に到着して、部屋をとる。

 明日はソフィーナに服を買わねばならない。他には旅の装備も必要だな。ソフィーナの細い体からみて、旅に慣れてはいないだろう。それなりの品質の装備を買わねば。


 金は王都についた瞬間になくなってしまうだろう。学園で給料の前借はできるのだろうか。最悪、冒険者ギルドから借りるしかないな。




 部屋にはベッドが1つしかなかった。

 みるからにソフィーナは奴隷である。奴隷は床で寝ろということか。

悪意ではなく、習慣として王都付近の街に根付いているのだ。


「ソフィーナ。部屋を変えてもらおうか。君もベッドで寝たいだろう?」



 振り返ると。

 ソフィーナが服を脱いでいた。

 パサリと薄い布が床に落ちる。


 

 あまりのことに言葉が出てこない。


 

 ソフィーナは全裸のまま、床に頭をこすりつける。


「ご主人様。どうか私を抱いてください」


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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