第四十話 王都へとあと少し
ダンジョンのあった街を旅立ってから2週間。
王都までは残り3日の予定である。もう少しだ。
道の先に新しい街がみえている。
もう日は暮れようとしていた。今夜はあの街に泊まることになるだろう。
ずっとここまで歩いてきた。馬車を使うのが普通だろうが、俺は冒険者である。馬車の中に一日中座っているのは退屈すぎる。それに歩いた方が体力を鍛えられる気もする。
世界最強の魔術師ニュイならば、一瞬で王都まで移動できるに違いない。はっきりいって反則である。まったくあらゆる意味で規格外の女であった。
面白いのは、最強の魔術師も退屈を恐れていたということ。今の俺とまったく同じだ。いくら強くなっても人間は人間の枠から外れることはできないのかもしれない。
王都に近い街は、さすがに洗練されている。
周囲を歩く人間の数は変わらずとも、どこか落ち着いているようにみえる。夕日に照らされた住居も優雅にみえる。気のせいだとは思うが、みえるものはしかたがない。
俺はずっと辺境暮らしの田舎者なのだから何もかもが珍しく感じる。
まあ、逆にいえば、ダンジョンがあった街の無秩序な活気はないわけだが。
「今日は宿屋をみつけて、さっさと寝てしまおうか」
ここ数日、野宿ばかりであった。ベッドが恋しくなっている。
そういえば、一度だけ盗賊に寝込みを襲われたが、問題なく撃退した。盗賊に殺されているようでは冒険者などできるはずもない。
街の中は比較的安全である。とはいえ、気を抜くわけにもいかない。
なにしろここからは味方は1人もいないのだ。
俺のような初めて街にきた人間は、犯罪者のいい標的である。
みたところこの街の治安は悪くないが、良くもない。引ったくりなどが出てもおかしくない。
金は十分すぎるほどに持っていた。
皆がせんべつとして持たせてくれたのだ。特にコーネットの商会が出してくれた金額は大きすぎた。普通の家が土地付きで買える程の金貨を持っている。
もちろん辞退しようとはしたが、結局は無理やり持たせられることとなった。俺だっていい年をした大人である。少々過保護すぎではないのか。
こんな大金を持ったことは、未だかつて一度もないので、よけいに警戒してしまう。
どう使えばいいのかもわからない。ずっと貧乏暮らしだったので、金の使い方にくわしくないのである。
宿屋の場所はだいたい見当がつく。
街の構造というものは、よほど大きな街ではないかぎり、似たようなものになる。特に宿屋は目立つ場所になければならならないのだから。
しばらく歩いた後、大きな市場がみえてきた。
街の住民たちが日々の生活に必要な食料や衣服を買っていく場所である。これもどこの街にでもあるものだ。
さすがに夕方になると客もまばらである。求める商品があらかた売りつくされてしまうからだ。
「さあさあ! 本日の目玉商品! 最後の商品でございます!!」
目を向けると、台の上で若い男が叫び声を上げていた。
隣には薄い布をまとった少女がうつむいている。
「どうでしょう、この美しさ! 正真正銘の処女! 買ったあとなら、煮るなり焼くなり好きにできる! こんな商品はめったに出るものじゃありませんよ!!」
「……ちっ」
思わず舌打ちがもれた。奴隷か。
気分が悪くなる。
奴隷商人が商品を売っているようだ。
俺は奴隷制度が嫌いだ。
確たる信念があるわけではない。単に奴隷とは無縁な場所で暮らしてきたからだ。人が人を売り買いすることに嫌悪感をおぼえる。
王都の付近では奴隷売買が盛んとの噂は聞いていたが、実際に奴隷商をみるのは生まれてはじめてである。
「愛人にするのもよし! 娼婦にするのもよし! メイドにするのもよし! 好きなようにいたぶってくれよな!!」
奴隷制度は嫌いだが、俺にできることなど何もなかった。
奴隷の売買は完全に合法だからだ。邪魔をしたらこっちが犯罪者となってしまう。
奴隷の少女がかわいそうだと思うものの、かわいそうな人間など世界中に存在する。
いくら俺がお人よしでも、見ず知らずの他人は助けられない。それは聖職者の領分である。冒険者がすることではない。
「では、皆さんに金額を提示してもらいましょう! 一番高い金額を提示された方が落札となります!」
台の周囲には身なりの良い人間が集まっている。
貴族の使用人か、娼館の主人か。基本的に奴隷は値段が高いらしい。庶民は手がだせない、ぜいたく品であった。
俺はこの場を去ろうとする。
今みた光景は忘れることにする。明日も1日中歩くことになるし、王都についたらやるべきことがたくさんある。嫌なことは忘れて、明日のことを考えよう。
俺は市場に背を向け、歩きはじめる。
「ああ、忘れていました!! この商品は変わったスキルを持っているのです! 金額の提示の前にそれをおみせしましょう!!」
……スキル?
俺の足が止まっていた。
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