第三十九話 ゆるい旅立ち
晴天の下、ギルド長クラウスは重々しく告げる。
「グェントはかろうじて命を取り留めました。しかし過去の悪行が次々と明らかになっています、罪に問われることになるでしょう」
「死刑になるのですか?」
「おそらく、そこまでは……。冒険者ランクのはく奪、この街からの追放は確実です。冒険者自体からの追放はギルドで検討中となっています」
複雑な気分であった。
グェントが悪行の報いを受けるのは当然のことである。俺に対する仕打ちも考えても喜んでもいいはずだ。もし決闘に負けていたら、なぶり殺されていた。
わかっている。
わかっているのに、割り切れない。
たぶんそれは、俺の甘さなのだろう。
「ギルド長!! 暗い話はやめにしましょう! ノエルさんの旅立ちが台無しですよ!!」
リリィさんが大声を出す。
この人にはいつも救われる。感情を素直に出せることは、素晴らしい長所であった。彼女がいると場が明るくなる。
そうだな。
すでにグェントの処断は俺の手を離れている。前を向こう。彼らとの道は分かれたのだ。
「そうそう。あの馬鹿は自業自得で没落しただけじゃ。ノエルが気に病むことではないぞ」
エネルもいる。パーティー全員で見送りにきてくれたのだ。
職人たちもきている。特別に今日はゴーレム製作が休みとなったのだ。休みを与えた本人は、人波の奥で控えめに立っている。
街の住民たちも大勢詰めかけている。
なじみの定食屋に武器屋。お世話になった人ばかりだ。
まるで、この街ですごした12年間が集まっているかのようだった。
「ふんっ。こやつらの表情をみてみな。全員がノエルの早期帰還を確信しておるじゃろう?」
エネルが笑う。
他の皆も苦笑している。
俺の王都での教授就任のことか。
「無理もありませんよ」
この年での貴族社会への参入は無謀すぎる挑戦ではある。
ダンジョン制覇と同じくらいの難易度かもしれない。金が欲しいわけではない。夢を追い続けていたら、王都へと行きついただけだ。
俺の冒険者としての実力は頭打ちだ。
このままではダンジョン制覇するのは難しい。無理やりにでも実力を伸ばす手段をみつけ、俺自身の力でダンジョンを制覇してみせる。
それまでは、前だけをみて生きよう。
「な、なにを言っているのですか!? 皆ノエルさん成功を信じていますよ! ね? ね?」
「受付嬢自身が一番信じていない表情をしておるのぉ」
「なんですって!? いくらこの街最強の冒険者でも許しませんよ!」
そのまま皆でわーわーと言い始める。
にぎやかだ。湿っぽくなるよりもずっといい。俺の旅立ちにふさわしい。生きてさえいれば、またどこかのダンジョンで会えるだろう。
クラウスがわざとらしく咳ばらいをする。
「収拾がつかないので、私が代表させて最後の挨拶をしましょうか」
背後ではまだ言い合いが続いている。どうにも収まりそうにない。
もはや俺のことなどそっちのけである。
「この街はいつでもあなたのことを歓迎します。挑戦を失敗しようが、成功しようが……ね。だから故郷が増えたと思って、思う存分暴れてきてください」
クラフトは右手を差し出した。
その手を握る。
温かい。
とても温かい手であった。
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