第三十四話 最強魔術師からの誘い
夜になり、俺の勝利を祝うための宴会が始まっていた。
冒険者ギルド内で開かれているのだが、満員を超える人数が集まっている。大量の酒と料理も用意された。音楽を奏でる人間まで雇われているのだ。
本来、これで宴会が盛り上がらないはずない。
グェントは皆から嫌われていた。胸がすっきりした人間は多いはずだ。
ところが、冒険者ギルド内は微妙な空気に包まれている。
皆ひそひそと語り合っている。俺の勝利に対するお祝いの言葉もひかえめだ。
原因はただ1つ。
世界最強の魔術師、ニュイの存在である。
薄く笑いながら、俺の方をじっと見ている。
他の人間には目もくれない。ずっと俺だけをみている。
はっきり言おう。この女は異次元の怪物である。
ダンジョン制覇どころか、本気を出せば世界を滅ぼせるとまでいわれているのだ。どう接するのが正解なのか、誰にも分らない。
下手をすれば、一瞬でこの街ごと滅ぼされるのだ。下手に出るにしろ、どうすれば機嫌を取れるのか、想像すらできない。
ギルド受付嬢のリリィや職人たちは固まってしまっている。
世間慣れしているはずのギルド長クラウスや商会支店長のコーネットも動けない。この街を訪れるような貴族とは格が違うのだ。国の王並みの重要人物である。
唯一エネルだけが、決闘を挑もうとしていた。頭がおかしい。
最後にはパーティーのメンバーに必死に止められて、宴会を退場となった。エネルも本気で最強魔術師に挑もうとしていたわけではないだろう。そう思いたい。
パーティー会場ではニュイの周りだけが、ぽっかりと空白になっている。他の人間は遠巻きにながめているだけだ。
この状況でパーティーが盛り上がるはずもなかった。
ニュイ自身は気にする様子もない。
たぶん……慣れているのだろう。ここまで伝説を作り上げたら、なじめる場所なんて存在しないのかもしれない。
強すぎるゆえの孤独。
俺には1000年は早いな。
「なあ、君。魔法もゴーレムと一緒で、日々進化しているのは知っているかい?」
ニュイはいきなり俺に話しかけた。
それくらいは知っている。
魔法を使えるスキルを持つ人間は多い。スキルとしては、一番持っている人間が多いだろう。魔法の種類は多く、戦いだけではなく、日常でも使えるものも存在する。
理論上は戦いにおいても最強である。
ただ、魔法の習得には努力が必要となる。一つの魔法を習得するために、一生をささげる人間は珍しくない。
魔法スキルを持っているだけでは、何の役にも立たない。努力と才能がなければ、スキルなしと変わらない。基本にして、もっとも難しいスキル。それが魔法スキルだ。
もちろん魔法の研究も昔から行われている。
王都では国家が研究を行う機関もあるらしい。最強の魔法を生みだせば、戦争で有利になれる。冒険者という枠組みだけではなく、世界のあらゆるところで使われているのだった。
「知っています。特にあなたの学園は有名ですよね」
そう。
王都でのニュイが頂点を務めている学園は、国家をこえる世界一の研究機関としても有名だ。魔法だけでなく、ありとあらゆるものが研究されている。
大貴族がこぞって入学を希望するらしい。卒業すればどこにでも歓迎される。エリート中のエリートが通う学園である。
年中ダンジョンにこもっている俺が知っているのだから、どれほど有名かがわかるだろう。
「そうそう。実はね、ここ数年、学園の研究が停滞している。天才は多いのだけど、たぶん思考が一般受けしないのが原因かな」
正直、あまり興味はなかった。
王都のエリート連中が何をしようが、俺の知ったことではない。なにしろ冒険者とは真逆の存在である。こちらは毎日モンスターと戦っているのだ。貴族の舞踏会に出ているひまはない。
俺はまともな学校を出ていないし、冒険者には同じような経歴を持つ奴が多い。ある意味、社会になじめなかった人間がなる職業なのだ。
もちろんダンジョンを制覇すれば偉大な栄光がつかめる。社会でも尊敬される。ただ、そんな冒険者は全体の万分の一でしかない。
まともな人間は、ダンジョンでモンスターと命のやり取りなどしないに決まっている。
「その点、君の発想は新しい。学園に新しい風を吹き込めるかもしれない。生まれた時から貴族だった人間には持ちえない発想を持っている」
「……何が言いたいのですか?」
貴族となど会ったことも、会話したことない。
遠巻きに眺めるだけの存在である。ほとんどの庶民にとってもそうだろう。
食料にかかる税金に文句はいうが、しょせんは話の種でしかない。挨拶みたいなものだ。そもそもほとんどの貴族は城にこもって街に出てこない。あるいは王都に集中している。
「うん。私は退屈なのだよ。刺激が足りない。退屈すぎる、かき回してみたくなる。世の中を、学園を、君の可能性を」
突然、ニュイが消えた。
次の瞬間には俺の前に立っている。
やめて欲しい。
日常生活で最強スキルを使うのは。
「だからさ。私の学園で働かないかい? 教授として迎えてあげるよ」
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