第三十二話 決闘の終わり
大きく息を吐く。
決闘は終わった。
俺は勝ったのだ。
決闘自体は一瞬だったが、長い長い準備の勝利であった。
周りには焼けこげたゴーレムの破片が散らばっている。
決闘に勝てたのは、こいつらのおかげだ。労働用のみならず、戦闘用でも極めて有用なことを証明した。
俺とグェントとのスキル差をひっくり返したのだ。
わずか一週間の開発期間で、ここまで有用性を示すならば、将来が楽しみであり同時に不安でもある。なにせゴーレムとは誰でも使える魔法生物であるからだ。
一般人だろうが、グェントだろうが、使えば役に立つ。しかも今までの魔法生物よりも、簡単に作れる。1体あたりの値段もはるかに安い。
ゴーレムは、戦いに革命を起こすかもしれない。
今でも魔法生物を使って戦う人間は存在する。
それでも人数は少ない。これからは誰でも、スキルのない一般人でもゴーレムを使って戦える。
ダンジョンにいる強力なモンスターには勝てないだろうが、その辺にいる弱いモンスターならば対処できるだろう。もしゴーレムが進化を続けたら、自分の力で戦う必要もなくなるかもしれない。
実際にゴーレムを使ってみて、そんな予感がした。
とはいえ、地面に転がっているゴーレムたちには関係がない。
後で1体1体に墓でも作ってやろう。笑われるかもしれないが、ゴーレムたちにできるのはそれくらいだ。よく働いてくれた。
「あ……ああ……」
少し離れたところで、レイナが真っ青な顔で震えていた。
そうだ。忘れていた。
この女もいたな。グェントが倒れた以上、レイナ単体ではそれほど怖くはない。そもそも戦意もなさそうだ。
俺には戦意のない人間をなぶる趣味はない。グェントとは違う。
レイナの方へ歩き出す。
体は痛むが、致命傷というほどではない。スキルも使える。
レイナと戦うくらいの力は残っている。
レイナは震えながら、叫ぶ。
「わ、悪かったわ! 私たちが悪かった。あなたを追放したのは間違いだった。もう一度やり直しましょう? 一緒にダンジョンの制覇を目指すべきよ」
「断る」
今さら元パーティーに戻れるはずがない。
みえみえの命乞いであった。よほどレイナの目からは、俺が恐ろしいとみえる。
レイナだって幼なじみ。俺がグェントとは違うことを理解しているはずなのに。俺たちはもう元には戻れないのだった。
「じゃ、じゃあ、あなたの女になってあげる。いつでも寝てあげるわ。グェントなんて捨ててさ、だから……」
「黙れ」
俺がしたいのは、レイナと戦いたいわけでも、ましてやベッドを共にしたいわけでもない。
釘を刺しておきたいだけだ。復讐にこられると、めんどうである。次に戦って勝つ保証
それと……もしグェントが生きていたら伝えて欲しいこともある。
俺たちの道は決定的に分かれた。もう二度と会うこともないだろうから。
レイナが地面に頭をこすりつける。
みじめな姿であった。
「こ、殺さないでください! グェントみたいになりたくない!!」
ふと、思った。
もしかしてレイナもグェントから離れたかったのではないか。グェントの傲慢さに耐えられなくなっていたのではないだろうか。
理由はないが、そんな気がする。長年付き合ってきた勘のようなものである。
俺がさらに近づくと、レイナは後ろへ倒れた。
足の間の地面に染みが広がっていく。失禁しているのだった。
レイナも冒険者としては一流である。それでも恐怖に支配されればこうなる。
他人事ではない。人間とはもろい生物なのだ。
「殺しはしない」
「ほ、本当!? 本当に殺さないの?」
「ああ、決闘は終わった。これ以外で戦ったら、法を破ることになる」
わかりやすくレイナが安堵する。
下を向き、細かく息を吐いている。
俺は後ろを振り返る。
グェントは倒れたまま動かない。完全に意識を失っている。
「もしグェントが生きていたら、伝えて欲しいことがある」
「……っ!? な、なに!?」
「グェントは決闘に負けたことで、全てを失うだろう。それどころか、これまで行ってきた悪行の罪をつぐなわなければならない」
グェントの悪行を全部知っているわけではない。
これから冒険者ギルドが徹底的に調べることになる。罪の大きさによって、罰が決まる。
それでも……。
「それでも、冒険者を追放されても命までは取られないだろう」
結局のところ、俺はどこまでいってもお人よしなのだった。
二人を殺すのが最適だとわかりながらも実行できない。グェントのような悪人にはなれない。
それが自分という人間なのだ。
死ぬまで付き合っていくしかない。
俺はレイナに言う。
元パーティーに対する最後の言葉であった。
「だからもう一度、地道にがんばれ」
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