第三十話 一瞬の勝負
「ゴーレムたち、前進しろ!」
俺の命令で99体のゴーレムが、グェントに向けて飛びかかる。
労働用のゴーレムは口に出した命令にしか反応しない。声で命令者を区別することができる程度の性能が限界だった。
これでも一週間前までは、命令者の区別もつかなかったのだ。グェントの言葉にも反応するようでは使いものにならない。
「土操作」スキル発動させ、残り1体も動かす。
もっと早く動かせるが、あえて他のゴーレムに紛れ込ませる。まだグェントに特定されたくはない。
俺も走り出す。
最後のとどめは俺自身がささなければならない。近づく必要がある。スキルなしの遠距離攻撃では通用しそうにない。近づいて、相打ち覚悟で攻撃するしかない。
手の中のオリハルコンの塊を握りしめる。これが唯一の近接武器だ。
グェントは下品に笑う。
「はっ! 忘れたのかノエル!! 俺のスキルは範囲攻撃も使えることを!!」
忘れてはいない。
グェントのスキルには多くの技がある。どの攻撃技がきても対処できるように陣形を組んでいた。もっともこの場面で使う可能性が高い技は、範囲攻撃だと予測していたが。
俺の走りは遅い。
仮にスキルが身体強化系だったのなら、10倍は早く走れるだろう。遅いからこそ、グェントの技の発動を許してしまっている。
「まとめて殺してやるよ!! スキル発動、属性付与「氷」!」
グェントの剣に氷が集まっていく。
剣を振ると、無数の氷の塊が飛んでくる。まるで氷の塊で作った弾幕である。スキルや魔法なしではかわしようがない。
飛んでくるのはただの氷ではない、スキルで作った氷である。数も攻撃力も並ではない。
あっさりとゴーレムたちが破壊されていく。
スキルで動かしたゴーレムは氷をかわせるが、労働用ゴーレムには不可能。
俺自身も氷をかわせない。
それでも範囲攻撃な分だけ一撃ごとの威力は低い。死ぬほど痛いが、致命傷にはならない。
この程度の痛みは覚悟の上だ。攻撃をくらいながらも前に進む。
たった一振りで半数のゴーレムが破壊された。
それでも労働用ゴーレムの役目はおとりである。破壊されることで、十分に仕事を果たした。
破壊された時間の分だけ、グェントに近づくことができる。
「スキル発動!! 属性付与「雷」!」
今度は、グェントの剣に雷がまとわりつく。
剣が振られると雷がまき散らされる。
よけられない。
雷をかわすなど不可能だし、氷と違って、かするだけで戦闘不能になる。
この技こそが、俺がグェントに勝てない理由。絶対にかわせない攻撃をされては勝てる道理がない。
しかし。
狙いは俺の体ではなく、ゴーレムたちだった。
雷の技は強い代わりに攻撃範囲が狭い。全てを満たす完璧な技など存在しないのだ。
一瞬にして、労働用ゴーレムが燃え尽きる。もしあれが俺の体だったら消し炭になっていただろう。1体を残してゴーレムは全滅してしまう。
スキルを発動させたゴーレムだけが、雷をかわす程度の速さを持っていた。
グェントが先にゴーレムを攻撃したのは、俺のはったりがあったからこそに違いない。
俺自身よりもゴーレムの方が不気味だったのだ。
生身の俺には絶対に勝てるとの確信もあったのだろうか。
「ノエルゥ! お前の自慢のゴーレムも弱かったな!! 次で終わりだ!」
今度は俺に向かって、雷の技を放とうとする。
こちらの方を向き、剣を振りかぶる。勝ちを確信したような顔をしている。
雷の技をかわせない以上、次にスキルを発動されたら俺の負けだ。
「それはどうかな?」
グェント。
ゴーレムはあと一体だけ残っているぞ。
この瞬間をずっと待っていたのだ。
スキルを使ってゴーレムを操作する。
燃えつきたゴーレムの残骸が盛り上がり、矢のように1体のゴーレムが飛び出す。これまでみせたゴーレムとは比較にならない速さである。
そもそもグェントの技をかわせるように、最初から設計していたのだ。
「なに!?」
グェントは反応できない。
これまでさんざん遅い動きに慣らされていたのだ。突然の速い動きに反応できていない。
それでも、普段のグェントならば、防御ぐらいはできただろう。
今回は勝ちを確信して油断していた。
冒険者が最初に学ばなければならないこと。モンスターにとどめをさす瞬間こそ、気を引きしなければならない。グェントは冒険者の初歩さえも忘れてしまっているのだ。
スキルは最強クラス。
だが、精神力は弱い。だから、お前は負けることになるのだ。
飛び出したゴーレムがグェントの右腕を斬りつける。鎧のすきまを狙った攻撃である。実際にみながらゴーレムを操作しているので、精密な動きを実現できる。
力がないから深手にはならない。致命傷はおろか、右手を行動不能にすることもできない。むしろ体の傷よりも精神への傷の方が大きい。
「スキル発動! 属性付与「風」!!」
グェント最速の斬撃。
全ての能力を斬撃の速度に割り振っている。
いかにスキルを使っているゴーレムでもよけられない。
あっさりと、ゴーレムは上下に真っ二つになる。
現状のゴーレムの性能ではこれが限界であった。速さにも、固さにも、力にも上限がある。まだ単体でS級冒険者と戦えるだけの性能はない。
それでも。
俺はすでにグェントに手が届くところまで近づいている。
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