第二十八話 最後の会話
街の中心部にある広場。
普段は住民が運動したり、演劇を鑑賞したりする場所である。
今は……俺とグェントの決闘場だ。
四方を壁に囲まれている。壁の外では住民たちが大歓声を上げている。
ほとんどが俺への応援である。俺に人望があるのもあるが、グェントも不人気にすぎるのだ。
俺は素直に大声援を喜べなかった。
本来、冒険者同士の決闘などない方がいいに決まっている。たとえ相手が悪党だろうと、殺し合いになった時点で、ある意味負けである。例えそれがさけられない戦いであったとしても。
住民たちが決闘を見世物として喜ぶということに、どこか無責任さを感じてしまうのだ。
それが人間というものだといわれれば、それまでなのだが。
ついに、ここまで来てしまった。
勝つ以外に、決闘場から出る方法は存在しない。
「本当にゴーレムは100体でいいのか? もっと持ってきた方が良かったのではないか?」
職人頭の老人がつぶやいた。
他の職人たちは両手でゴーレムを持っている。皆にゴーレムを運んでもらっていたのだ。
「いや、あまり数が多いとグェントが警戒します。100体くらいなら、俺を見下して油断してくれるでしょう。できれば相手が油断しているうちに、勝負を決めたいです」
最終的にゴーレムは人が持てるくらいの大きさと重さになった。
99体の自動で動くゴーレムと1体の俺のスキルで動くゴーレムがある。見た目はまったく変わらない。全身が茶色で胴体が大きい。
リリィはゴーレムの形がかわいいというが、俺には理解できない感性ではある。
自動で動くゴーレムに戦闘能力はない。ただ相手に向かって突進するだけだ。一応小さなナイフを持たせてあるが、振ることさえできない。
スキルで動かすゴーレムは多少戦えるが、人間に致命傷を与える程ではない。グェントの攻撃をかわすために、他の全てを犠牲にしている。
これらのゴーレムはおとりが主な仕事である。
最後は俺自身がとどめを刺す必要がある。
「儂らには戦いのことはわからん。だが決闘に負けても、死ななければ明日はある。あんたには世界を変える能力がある。じゃから……」
「勝ちますよ」
職人頭の老人に笑いかける。
勝たなければ、前に進めない
元パーティーの悪行を放置して、これから先、どうして自分自身に誇りをもって生きられようか。
決着はつける。
幼なじみとして、冒険者として、けじめをつけなくてはならない。
ゴーレムが並べられていく。
これまでのゴーレム開発における成果であった。現時点での技術の全てが込められている。
小さな軍隊のようである。
いつかゴーレムが本物の軍隊に戦力として並ぶ日がくるのだろうか。
夢ではない気がする。決闘に勝ち、ゴーレム研究を続けることができればあるいは。
「……もう何も言わんわい。全部まかせる。儂らはお主を信頼しておる、それだけは忘れないでくれ」
晴れ晴れとした表情で、職人頭の老人は言った。
職人たちを引き連れて闘技場を出ていく。
彼らはもはや家族同然の存在であった。
共にゴーレム開発に汗を流した。わずか一週間だが、濃密な時間であった。
同じものづくりを行うもの同士として通じる何かがあった。
俺とゴーレムだけが闘技場に残された。
「ノエルさん! 死んだら許しませんよ!!」
観客席でリリィが叫んでいる。
これだけの大歓声の中でもはっきり聞こえるのだからすごい。俺の周辺でもっとも情熱的なのは、あの人なのかもしれない。ギルド職員にしておくのはもったいないくらいだ。
ギルド長クラウスと商会の支店長コーネットは貴賓席に座っている。
遠すぎて表情まではわからないが、心配してくれていることはわかる。それぞれの理由で、俺を勧誘しているのだから。決闘の規模が大きくなって、冒険者ギルドの面子もかかっている。
エネルは……どこにいるのかわからない。
あの人は気配を隠すのが上手いからな。以前は隣に並ばれても気づかないことがあったくらいだ。あるいは単に背が低くて、人ごみに埋もれてしまっているだけかもしれないが。
結局、エネルにもらったオリハルコンは塊のまま持ってきてしまった。
殴りつける武器にはなるだろう。もっともオリハルコンの良さはまったく生きない。砕けない石と同じである。武器としての攻撃力は低い。
では、俺はなぜ決闘に持ってきたのか。
運命だと思ったからだ。
オリハルコンなど、めったに手に入らない金属だ。
塊をみたのは今回がはじめてである。それが決闘の前日とは。運命を感じざるを得ない。
運命……か。
冒険者にはふさわしくない単語であることはわかっている。
神がいるとしれば、俺に……。
その時、大歓声が止まった。
代わりに罵声やブーイングが巻き起こる。
グェントが闘技場に入ってくる。
今日も下品な笑みを顔にはりつかせている。
「よう、ノエル。いい天気だな」
両手を天にかかげ、殺意のこもった目で俺をにらむ。
つくづく芝居がかった仕草が好きな男である。
「永遠のお別れには、ふさわしい天気だと思わないか?」
「ああ、そうだな」
今日という日は、俺が過去と決別する日になるだろう。
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