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第二十二話 魔法陣を求めて

 だって。

 どうしようもないだろう?


 俺はまともな学校を卒業していないし、冒険者としてダンジョン捜索に忙しかった。あくまでゴーレム開発は仕事の間にやる副業だったのだ。

 ゴーレムの制御のための魔法陣は独学で勉強したが、その他には手が回らなかった。戦闘用ゴーレムを作るなど予想できるはずもない。


 俺が開発したのは、あくまで労働用のゴーレムであり、戦闘用ゴーレムではないのだ。



「それで、どうするのだ? さすがに魔法陣なしでは、勝てないのではないか?」


 職人頭の老人が腕を組みながら言う。 

 1000人の職人たちも困惑している。どうもこの人たちは、俺を神格化しすぎである。俺はただの冒険者であり、たまたまゴーレム開発が上手くいっただけだ。

 買いかぶりにも程がある。



 戦闘用ゴーレムにも魔法陣は欲しい。

 なくとも俺のスキルで動かせるが、速さに限界がある。限界を超えるには魔法陣の支援が必要だ。そうでなければグェントの剣をよけられない。



「一応聞いておきますが、この中で身体強化の魔法陣を知っている人がいますか?」


 誰も手をあげない。

 それはそうだ。彼らは一般人である。

 もし魔法陣にくわしいのならば、もっと給料の高い職業についているはずだ。この場にはいない。世界中で魔法陣に精通している人間は求められているのだから。


 

「となると、俺が今から勉強するしかありませんね」


「できるのか!? 魔法陣の習得は難しいと聞くぞ」


「やるしかありません」


 この程度の苦労は想定の上だ。

 魔法陣を勉強するための本は高価ではあるが、手に入れることはできるだろう。金を持っている商会が味方なのだ。人間と違い、本は複製できる。

 

 一週間をまるまる勉強の時間には使えない。

 ゴーレム開発の時間がなくなってしまう。となると……徹夜で勉強するしかないな。

 殺し合いの前に徹夜をする人間は、俺くらいのものかもしれない。



 ゴーレムに最適な土を集めて、動きやすい体格を研究する。この工程は職人たちにやってもらおう。

 俺は魔法陣を勉強し、対グェント用の戦略を考えなければならない。ああ、他にはゴーレムの動きを確認する必要もあるな。

俺が使うゴーレムなのだから、最終的な決定権は俺にある。



「まあ、儂は心配しとらんよ。あんたならば、きっと最強ゴーレムを開発できるじゃろうな」


 職人頭は笑いながら、職人たちを振り分けていった。

 1000人の職人たちが散っていく。皆、生き生きとした表情をしている。新しいゴーレムを開発できるのが楽しいのだ。


 思いは俺も同じ。

 間違いなく、とてつもない苦労が待ち受けている。

 それでも心に熱い思いが湧いてくる。1000人の職人たちと一緒に仕事できる機会など二度とないだろう。



「さて、俺も魔法陣の勉強を始めるか。まずは商会に行って、本を借りようか」



「その必要はありません!」


 バンッ!!

 乱暴に建物の扉が開いた。

 受付嬢のリリィが仁王立ちしている。だけじゃない、後ろには多くの人間がひかえている。


「ノエルさんに協力してくれる冒険者たちを集めてきました! 少しですが、魔法陣を理解している人間もいます!」


 よくみると、見知った顔が何人もいる。

 低ランク冒険者たちが、リリィに付き従っている。


「……いいのですか? ギルドが俺に肩入れして。建前上は冒険者同士の決闘には、中立に立たなければならないのでは?」


「いいのです! 協力するのは私個人、連れてきたのは希望者だけですから。皆、ノエルさんの役に立ちたいと手を上げたのですよ!」


 そういえば、あの若い女性の冒険者には見覚えがある。以前ダンジョンでモンスターに襲われているところを助けた。

 隣の男は半年前に冒険者になったばかりで、最低限の心得を教えた。


 恩返しにきてくれた、ということか。ありがたい。少しでも魔法陣を理解してくれる人間がいれば、勉強の手間が減らせる。


 ……ん?

 世話した冒険者は記憶にあるが、顔を知らない人間もいる。

 


「君たちはなぜ俺に協力を? そんな義理はないはずだが」


 商会から多少の給料はでるとは思うが、俺に肩入れすることは基本的に損でしかない。

 もし決闘でグェントが勝ったら、あの性格だ、激しい報復が待っているのに違いない。俺が勝っても、危険に見合うような報酬は得られない。


 冒険者は損得に敏感にならざるを得ない。

 毎日、ダンジョンで命をかけて戦っているのだ。怪我をしても誰も保証してくれない。自分の命は、自分で守らなくてはならないのだ。



「グェントのくそ野郎に対する復讐です! あいつのせいでメンバーが一人、行方不明になっている。 復讐したいけど、僕たちでは実力が足りない。だからノエルさんに協力したいのです!」


 なるほど。

 復讐か。例によって罪を問おうにも、決定的な証拠は残していないのだろうな。

 グェントの存在は、この街の冒険者にとって害悪そのものになってしまっている。


 これだけの冒険者が協力してくれるのは、俺の人望だけではなく、グェントの人望のなさも影響しているのだった。



「わかった。君たちもゴーレム開発に協力して欲しい。共にグェントを倒そう」


「はい!!」


 建物内に威勢のいい返事が響いた。

 

 さあ、皆で戦闘用ゴーレムの開発をはじめようか。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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